8.魔女のお話
「『魔女連盟』の大幹部って……美遊達を攫って戦わせていた、あの『魔女連盟』か!?」
「魔女連盟」という言葉に反応して、僕は思わず声を荒らげてしまった。
けれども「白き魔女」はつとめて落ち着いた笑顔を浮かべて、僕を嗜める。
「あら、お兄さん。
「そ、そうよ! コイツは……白き魔女は、『魔女連盟』を裏切って粛清されたんだから! 生きて、しかも日本に居るはずがないのよ!」
白き魔女の言葉を遮るように、リサの絶叫が響いた。
……なるほど、リサが驚いた理由が分かった。彼女の認識では、白き魔女は既に死んだ人間(?)らしい。けれどもそれが生きていて、しかも日本に居るとなれば、これはもう驚く以外の選択肢が無いだろう。
「うふふ、分かりやすいリアクションありがとう、リサ。ええ、確かに。私は『魔女連盟』の粛清を受けて殺された……そういうことになっています。けれども実際には、生き延びていたのですよ。私も大魔女の端くれです。そう簡単には殺されなかった、と思ってくださいな。
そしてそのまま身を隠して、影から子供達の救出を進めていたのですよ」
リサの反応があまりにもツボに入ったのか、白き魔女はこれ以上ないくらい上機嫌に微笑んでいる。全体的にどこか人間離れした雰囲気を感じる人だけれど、喜怒哀楽の感情は人並みらしい。
……鈴木さんが連れてきたこともあるし、まずは味方と考えてよさそうだ。だったら、今すぐにでも言わなければいけない事があった。
「あ、あの……白き魔女、さん? 貴女が美遊を助けてくれたんですか?」
「ええ。先程申し上げた通りですわ、お兄さん」
「あの……ありがとうございました! 貴女のお蔭で美遊は戻ってこられましたし……僕と祖母は、また美遊に会うことが出来ました! 本当に……本当にありがとうございます!」
お礼を言いながら、白き魔女に向かって深々と頭を下げる。
本当なら五体投地して感謝の意を伝えたいくらいだったけど、それは流石にドン引きされそうなので止めておいた。とにかく、感謝してもしきれないのだ。
――けれども、僕にお礼を言われた白き魔女は、何故か冴えない表情を浮かべていた。
「いいえ、元はと言えば『魔女連盟』が子供達をこちらの世界から攫わなければ――あんな地獄に連れ去らなければ、美遊達も苦しまずに済んだのです。本当ならばご家族と大切な時間を過ごされていたでしょうに……。むしろ、責められても仕方の無いことをしたのです。本当に、ごめんなさい」
「白き魔女様、それは違います! 私も魔女様に感謝しています。そもそも、白き魔女様は拉致計画に反対の立場だったと聞いています。ですから、ご自分を責めないでください!」
自らにも罪があると語る白き魔女。しかし、美遊がそれをすぐに否定して見せた。
……先程から見ていると、美遊はかなり白き魔女を尊敬しているように見える。もしかすると、こちらの世界へ戻してもらった以外にも、助けられた経験があるのかもしれない。
「そうですよ、白き魔女。貴女はこうして自ら地球側へやって来て、贖罪に務めようとしておられる。貴女がこちらへいらしてまだ数日しか経っていませんが、既に我々も随分と助けられています。どうか、ご自分を卑下なさらないでください」
すかさず、鈴木さんも白き魔女へフォローを入れる。
……彼の言葉から察するに、白き魔女がこちらへやってきたのは、リサとそう変わらない時期らしい。
そこからの短期間で、こうも鈴木さんの信頼を得ているのだから――うん、きっと良い人なのだろう。美遊と鈴木さんが信頼しているのならば、僕もそうしよう。
けれども、そう思った僕とは逆に、白き魔女への不信感を増している者もいた――リサだ。
「フンッ! 何よ何よ皆してその女を持ち上げて! 気持ち悪いったらありゃしない! 何と言おうが、そいつがあのクソッタレな『魔女連盟』の大幹部だった事実は変わらないのよ!?
――ねぇ、白き魔女。アンタが本当にアタシ達に申し訳ないと思ってるなら、今すぐアタシの仲間を助けてよ! パパとママの思い出を返してよ! 出来んの? 出来ないでしょう!?」
僕へ向けた時以上の、憤怒と憎悪を滾らせた言葉と視線を白き魔女へぶつけるリサ。
そうだ。既に救われた美遊と違って、リサとその仲間達は未だ地獄のただ中にいるのだ。裏切ったとはいえ、かつては「魔女連盟」の大幹部だったという白き魔女を憎む気持ちは強いはずだった。
けれども白き魔女は、今度は動じることもなく優しげな微笑みをたたえたまま、こんなことを言ってのけた。
「ええ、その件なら問題ありません。リサ、貴女があちらに残して来た仲間達ですが……既に救出を終えています」
驚いたことに、白き魔女は既にリサの仲間達を「救出」したのだという。
けれども、流石にリサはその言葉を鵜呑みにはしなかった。
「はぁ? アタシがあちらを出発して、まだ地球時間で数日しか経ってないのよ? だったら、あちらでは精々一日か二日程度しか経ってないことになる。そんな短期間で百人近い仲間達を、全員助けたって言うの? とても信じられないわ!」
「いえ、本当です。白き魔女は、九十六人の拉致被害者と共に、こちらの世界へ転移してきて、我々に保護されたのです。集合写真もありますが、ご覧になりますか? リサさん」
白き魔女の言葉を頭から疑ってかかったリサに対し、すかさず鈴木さんが二の矢を放つ。
鈴木さんがリサに向けて差し出したスマホの画面を覗き見ると、なるほど、今朝のリサと同じような恰好をした沢山の少女達が白き魔女と共に写真に納まっていた。恐らくこれが、リサの仲間達なのだろう。
「……何よ、この板っぺら?」
「スマートフォン――ああいや、最新型のカメラの一種です。撮影したものがこの画面に表示されます。拡大して見ることも出来ますよ。ささ、よくご覧ください」
リサがスマホの存在を知らないようなので、鈴木さんはすかさず説明しながら画面を見せてあげている。
「そう言えば、美遊も最初はリサみたいな反応を見せていたな」等と、つい先月の出来事を思い出してしまった。
「え、嘘……? 本当に皆いる? ユメもチヨも、最前線で戦わされていたはずのカオルまでいるわ!? ちょっとスズキのオッサン、これ、作り物の写真じゃないでしょうね?」
「もちろん違います。そもそも、皆さんが実際に地球へ帰ってきていなければ、今現在の姿を我々が知ることすら出来ないのですから、作り物ではありませんよ。先日撮影した、本物の写真です」
「あ、そっか……」
これ以上ない証拠を突きつけられ、流石のリサも白き魔女と鈴木さんの言葉を信じざるを得なくなったらしい。
戸惑いの表情を浮かべながらも、「そっか、皆……無事に戻ってこれたのね」と仲間達の無事を喜ぶ呟きを漏らしている。
「分かった、アタシの負けみたい。白き魔女、アンタの言葉を信じるわ。……でも、どうしても分からないんだけど、どうやって皆を助けたの? 『魔女連盟』の厳しい監視の目を、どうやって誤魔化したの?」
リサの疑問はもっともだった。断片的にしかあちらの情報を知らない僕にも、「魔女連盟」とやらが少女達を厳しく縛り付けている様が想像出来る。
白き魔女は、一体どうやって少女達を救ったのだろうか? リサと共に、僕と美遊も白き魔女へ「どうやったのですか?」と視線で疑問を投げかける。
すると――。
「ああ、それは……とても単純な理由なのですよ、リサ。何せ『魔女連盟』が滅んだものですから、少女達をまとめて救うこと自体は、簡単でしたの」
あまりにも予想外過ぎる答えが返ってきた。
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