第1章 神獣復活
第1話 出会い01
──今日はあまりからかわれなかった。うん、うん。今日はいい日だ。明日のテストもうまくいくといいな……。
左右に人がいるわけでもないのに春馬は肩を
「あのさ……B組の成瀬春馬君だよね?」
「!?」
春馬が慌てて横を向くと、短めの髪とスカートを風になびかせて女子生徒が立っている。目鼻立ちのはっきりとした美人だった。
──
春馬はこの女子生徒を知っている。親しく話したことはないが、中等部の2年生と3年生で同じクラス。華やかな雰囲気のある女子生徒で、学年でも目立つ存在だった。
高等部へ進学してクラスが遠く離れた今でも生徒の間で
ただ、聞こえてくる
高校の無慈悲な階級で考えてみると、他人をよせつけない緋咲小夜は学園に君臨する『冷たい女王様』だった。女王様が何の興味があって春馬へ話しかけるのかわからない。気まぐれやからかい半分だとしたら、それほど迷惑な話はなかった。
「だから、成瀬春馬君だよね?」
「……」
小夜は質問を繰り返す。春馬は顔を引きつらせて
「ねぇ、隣に座っていい?」
「……」
「座るよ」
小夜がベンチの中央に腰かけると春馬はスクールバッグを抱えたまま端へ席を詰める。人を避けるような行動に小夜は眉を
──自信なさげなところとか、昔と変わらないな……。
小夜は同級生だったころを思い出しながら口を開いた。
「春馬君って……今日、誕生日だよね?」
「!?」
春馬は驚いて目を見張った。小夜は自分でも忘れていた誕生日を知っている。少し嬉しかったが、どう反応すればよいのかわからなかった。返答に困っていると小夜はつくり笑顔でつけ加える。
「あ、勘違いしないでね。オメデトウとか言うつもりないから」
「……」
「でも、わたしは春馬君に興味があるんだ」
──興味? 小夜さんが僕に?
春馬が戸惑っていると小夜はわざとらしく脚を組みかえる。短めのスカートから白い太ももが見えると春馬はあからさまに顔を赤くした。視線を泳がせていると小夜は春馬の顔を覗きこむ。
「ねぇねぇ、春馬君っていつも自信なさそうにオドオドしているよね……気持ち悪いって女子の間で有名だよ。みんなになんて言われてるか知ってる?」
「……」
「二酸化炭素だって。アハハ、面白いよね♪」
「……」
春馬が黙りこむと小夜は身体を近づけてくる。そして、春馬の耳元へ唇をよせ、嘲笑するように続けた。
「存在感が薄いだけなら空気なんだろうけど……グループ授業とかで一緒になると、みんなの息が詰まるんだって。だから二酸化炭素……笑える♪」
「……」
どうして小夜はこんなにも攻撃的なのか。春馬には見当もつかなかった。
──僕はいつも誰かにバカにされる。やっぱり、今日はいい日じゃなかった……悲しいな……。
『侮辱されても我慢する』が日常となっている春馬はただ黙って
「たまにいるよね、春馬君みたいに考える人……とりあえず笑顔になれば他人との距離を保てるって考える人。気味が悪くてイタイだけなのに」
「……」
何を言われても春馬は沈黙したままだった。辛そうに俯く春馬を見ていると小夜は心の奥底が苦しくなった。本当は小夜だって春馬にこんなことを言いたくはない。しかし、
──ここまで言われても黙っているつもり??
自分で煽っておきながら小夜は困惑した。春馬は首を
「そういえば、春馬君には妹がいたよね? 確か中等部のとき、学校祭にお母さんと一緒に来てた……」
小夜が『妹』という単語を口にした瞬間だった。先ほどまで吹いていた風がやみ、二人の間の空気が凍った。小夜は雰囲気の変化に気づいて春馬を見る。春馬の顔からは笑みが消えていた。何も言わないまま、ジッと小夜の顔を見つめている。その瞳と視線が合った瞬間、小夜は息をのんだ。
──ま、まるで蛇……暗闇から蛇がこちらを凝視している。
そう感じた刹那、身体の芯から
「さっきから……ウルサイ」
春馬は無表情のまま感情のこもらない声で告げた。
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