第40話 ブルーノ再び現れる

 ローゼマリーが女王になった知らせは、隣国のリベール王国にも知らされた。二コラと名乗る少女がローゼマリーだということが知られると、幼い頃を知る人々はみな一様に驚き、噂でもちきりになっていた。一人の少年と二人でやっと生活していたことや、男爵家の養女になったことなども知られるようになった。その噂は、当然のことながらかつての縁談の相手グーゼンバーグ家のブルーノの元にも届いていた。


「ニコラと兄が親類のゲレオン様とその息子グスタフを貶(おとし)めて、王位を奪還したのです! 彼らの復讐をせねば腹の虫がおさまりません、父上!」


 ブルーノは見えない力で跳ね飛ばされ、二コラと離れ離れになったことが今でも忘れられなかった。


「あの女は魔女に間違いありません。私だけがその正体を知っています」


「何を言っておる! わしらのような地方の貴族が王族にたてついても、かなうはずがない。他国の事だ、かかわるでない、ブルーノ!」


 父は、ブルーノをたしなめた。しかし、若く愚かなブルーノの怒りを止めることはできなかった。

 彼は自分で雇った兵士を数名連れて、隣国フォルスト公国へ旅立った。城へ近づきローゼマリーと名乗る女王を仕留めてやろう。なーに、あんな小娘仕留めるのなんか訳はない。


 フォルスト公国へ着き、城のそばまで来たブルーノは林に身を潜め、どうやって彼女を呼び出そうか思いあぐねていた。ここまで来たが、具体的な方法などは考えてもいなかった。

 何日か林の中で隠れていたところを、城の警備の兵に見つかってしまった。クラウスに報告されて、その顔を見るとブルーノだった。


「何をしていた、ブルーノ」


「ふん、お前が兄のクラウスか?」


「本当の兄弟ではないがな。お前ローゼマリーの縁談の相手だったんだよな。忘れられなくて会いに来たのか?」


「彼女に合わせろ!」


「そんな願い、はいそうですかと聞いてあげるわけないだろ。なにを企んでいる?」


「別に、彼女に話があってきた」


「断る!」


「伝えてくれ、ブルーノが来たと」


「伝えても、会いたいとは言わないだろうな。でも呼んできてやる。今では女王様だけど」


 ブルーノが後ろ手に縛られた状態だと聞き、ローゼマリーはブルーノの前に現れた。彼は皮肉っぽくいった。


「いつぞやは、どうも」


「あら、私何かしたかしら」


「変な魔力を使ったんじゃないのか。魔法使いか魔女だと思った」


「私は何もしてないわ。ゲレオン様とグスタフさまにも何もしてない」


 ブルーノは、ローゼマリーがとぼけているのだと思っている。


 すると、至近距離まで来たローゼマリーめがけて、体ごとぶつかっていった。その瞬間、ぶつかった腕が、床にたたきつけられ変な方へねじ曲がってしまった。


「いたたたたた……あああ! う~~っ」


 床に転がり苦しんでいる。傍で見ていたクラウスが魔術を使って跳ね飛ばしたのだ。

「お前やっぱり魔女か!」


「せっかくここまで来たけど、そのままリベール王国へお帰り下さい。ご苦労様」


 ローゼマリーは、後ろを向き歩き去った。クラウスは、ブルーノに行った。


「お前は縛られたまま、リベール王国へ送り届けるしかないな。そこで、国の役人に何とかしてもらえ。もう二度と来るなよ。何度でもこんなことになるからな」


「もしや、お前が魔力を使ったのか?」


「さあな。三度目はもうないぞ。命が惜しかったらもう来るな!」


 ブルーノは涙目で、クラウスを見た。お前の仕業だったのか……その眼が語っていた。しかし、もう手遅れだった。

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