バス停・オブ・ザ・デッド(バス停が世界を壊す)!
白と黒の世界。
小鳥遊が気を失いと同時に、
ここがどこなのか、理解していた。
「ようこそ、太極図へ。犬塚洋子。かつての半身」
声をかけてくるのは、
ここは
「地上における太極図の使用者が意識を失ったので、臨時で犬塚洋子に使用権を譲渡するよ」
「ただし臨時だ。使用者が意識を取り戻したら、権利は剥奪される」
太極図がそんなことを
うん、よかった。実のところ太極図にどうやってたどり着くとか全然考えてなかったんだよね。小鳥遊脅してどうにかするしかないか、ってざっくりした作戦だったし。ま、結果オーライってことで!
「うっはー。本当に何でもできるんだ、これ」
太極図の使用権を得て、太極図に何ができるかが頭に流れ込んでくる。情報量多い多い! とりあえず世界に関ることなら何でもできることはわかった。デバックモードみたいな感じ?
「んじゃ、あの山ができる前まで時間を巻き戻して。当然死亡した人間は全員復活で」
思うままに世界が組み替えられる。時間軸も人の命も思うまま。学園に突如生えた垂直な山は消え去り、時間は福子ちゃんが自力で『命令』から解除された段階まで巻き戻った。
「了解っ! ――作業終了したよ」
「あとは……」
世界は思うまま。全部のゾンビを消すことも、学園全てを
でもまあ、
「ボクらを時間軸的に正しい場所に戻した後に、自壊。二度と復活できなくなるぐらいにぶっ壊れて」
「それでいいの?」
「うん。
うん。そういう神様な楽しみも面白いと思うけど、やっぱりバス停持って暴れるほうが楽しいや。こっちの世界に福子ちゃんとかは呼べないしね。
「そうじゃなくて。自壊でいいの?」
「うん?」
「せっかくだしさ。そのバス停でぶっ壊してみない? 太極図を」
予想外の提案。っていうか何なのさそれ。
「なんだよそれ。人をバス停で何かを破壊したいだけの変人みたいに言わないでよ」
「世界をコントロールできる太極図をバス停で破壊したとかいうシュールなの、好きでしょ」
「うん、悪くないね!」
言われて確かにそうだよな、って思いなおす
っていうかこの太極図、ノリ良すぎない? って思ったけど半分は
「それで、どこを叩けばいい?」
「太極図の中心部。意識して殴れば、それで壊れるから」
「おっけー。せーの!」
意識してバス停を振り下ろせば、白と黒の世界は消え――
「……およ?」
気が付けば、現実世界に戻ってきた。『山』に挑む前。カミラコピーに剣で斬られる前の時間軸だ。福子ちゃんを『命令』から解除したすぐ後ぐらいで、ミッチーさんや音子ちゃん。AYAMEや八千代さんまでいる。そして目を向ければ、『山』があった場所は何事もなかったかのように学園の敷地が広がっている。
皆の視線と表情から、『山』での記憶は残っているのだろう。そういえば記憶の事とかは触れてなかった。学園にかけられた『命令』ぐらいは解除してもよかったかも? なんて考えてたら――鎖がじゃらりと鳴った。
「……へ? なんで
ふと、自分を取り巻く状況がおかしいことに気づく。後ろ手に手錠をかけられ、首輪をつけられている。首輪からは鎖が伸びており、その先を握るのは福子ちゃんだ。え。あの、なにこの、この、いろいろわけわかんない状況は?
「
は? あの、どういうことなんでしょうか?
「アー、バス停の君。落ち着いて聞くデスヨ。コウモリの君からすればバス停の君は『半年間いなくなって、その後AYAMEのところに転がり込んで何日か一緒に過ごした』ということデス」
「いやまって! それにはいろいろと事情が!」
「はい。『命令』の件は理解しています。AYAMEさんのところにいた理由も知っています。ですが、それはそれ。そしてようやく再会できたと思えば剣で斬られて世界から消失。その時の私の気持ちがわかりますか?」
脊髄が凍りそうなぐらいの冷徹な福子ちゃんの視線。あうあうあうあうあうあうあう。
「ボク何も悪くない! だってだってー!」
「ええ。わかっています。ですが私が納得できないのは事実です。なんでヨーコ先輩はすぐにどこかに行って、しかもAYAMEさんのところにいるとか言うやきもきさせるんですか?
ええ、仕方ないことは理解しているので責任追及はしませんとも」
「じゃあなんでこうなってるのさ!? せっかく全部終わったんだから、皆で笑ってエンディングとかが福子ちゃんも大好きな様式美じゃないのかなって思うんだけど!」
「そんなことは後でできますので」
「うっはー。こもりん、ヤンでるねー。発散させないと溜まる一方だもんね、こういうのは」
呑気に横でそんなことを言うAYAME。AYAMEに限らず、ほかの人達は沈痛な目をして
「これが日本のことわざで言うところの、愛ゆえにデスネ」
「洋子おねーさん、ご愁傷さまです。いろいろ諦めてください」
「あ、拘束スタイルはファンたんが教えたっす。手錠と首輪もレンタルしたっす」
「すまんな犬塚殿。綾女殿の悪ノリを止めれなかった」
「えへへー。いろいろこもりんに吹き込んだから。がんばってねー」
やべえ、味方いない。
福子ちゃん自身、自分の行動が理不尽でわがままなのはわかっているけど、気持ちが抑えられなくて暴走している。そして周りの人間も止めるどころか支援しているという始末か……! っていうか面白がってるだろこの状況を!
状況把握したと同時に、首輪が引っ張られる。そのまま引っ張られるように立ち上がった。あ、やばい。なんか下腹部にきゅん、て変な感覚走った。クセになったらダメになるそうなヤツ。
「ヨーコ先輩……ずっとずっと、会いたかったんですよ」
「うん」
「『命令』さえれている間は先輩の事を忘れて、あのカミラもどきを好きだって思わされて……」
「……うん」
「ふふ、嫉妬してくれる先輩可愛い。私も同じ気持ちです。あの人の事を忘れるぐらいに、先輩に溺れさせてください。
もう、どこにも行かせませんから。ずっと先輩の事、離しませんから」
ぎゅ、と
「ずっとずっと、愛してあげます。どこにも行かせません。誰にも渡しません。ええ、ずっとずっと、二人きりで」
言って福子ちゃんは首輪を引っ張り、近くの家に
繰り返すようだけど、ほかの人達は助けようともしない。薄情者ー! 叫ぶけど声は空しく響き、建物に連れ込まれて扉は閉じる。建物の中には清潔なベッド。そこに押し倒されるように引っ張られて――
「ヨーコ先輩、好きです」
熱く語る言葉と瞳に、すべての抵抗力を奪われる。この子にこのまま溺れたい。そんな衝動が体を満たす。全部ゆだねて、堕ちていきたい。
「や、やさしくしてほしいなー」
「いいですよ。でもすぐにおねだりするようになりますから。せんぱいのことなら、なんでもしってますし」
かろうじて残ったわずかな理性によるささやかな抵抗さえも、飲み込まれて――
――福子ちゃんがいろいろ発散して、ヤンデレモードが解除されるまで三日ぐらいかかったことを追記しておく。
その間にサレたことは、カラダに刻まれて、忘れられない……!
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