ボクがアイツに勝つ理由
「ぶっ潰す? 太極図の力を得て、疑似的だけど仙人の力を持つ私を相手に?」
明確な戦意を込めた言葉。無手の小鳥遊は言って一歩踏み出し――気が付くと目の前にいた。会話ができる程度の距離ではあったが、敵対的な相手にとるほど近くもない距離。それをわずか一歩で踏み込んだのだ。
技術――ではない。もっと別の何か。そんなアイテムか何か。そうでなければ時間を止めたとしか思えない。いくらなんでもそんな能力あるはずが――
「気を付けてください、ヨーコ先輩! あの人は時間を止めることができます!」
「できるの!? っていうか冷静に考えたら小鳥遊強くない!? なにこの動き!」
福子ちゃんの言葉に反応しながら、小鳥遊の攻撃を捌く。武器を持たない攻撃だけど、拳を握っているわけではない。殴るというよりは
「あと触れた相手の『気』を乱す攻撃をしてきます! AYAMEが一撃で戦闘不能になりました!」
「予想はしていたけど一撃必殺デスタッチかよ!」
触れるだけでゲームオーバーとかどんな仕様なのさ! まあくそげー世界なんだけどさ!
「大丈夫です。ヨーコ先輩なら勝てます」
焦る
「私の先輩が、負けるはずがありませんから」
「トーゼンだよ! 何せボクは最高にプリティーでかっこいい福子ちゃんのりばーれなんだからね!」
その一言で
「殺しはしない。だが、一生地に這い苦しんでもらう。風邪頭痛腹痛腰痛関節痛神経痛吐気倦怠感生理痛下痢花粉症となって」
「いっそ殺してよ、そこまでするなら!」
小鳥遊の攻撃をバス停でしのぎながら、ぞわっとした恐怖を感じる。そんな病気バステコンボ食らいたくないやい。
言葉を言いきるより前に小鳥遊の姿が消える。
洋子の視界から消えた小鳥遊は手を振りかざし、
「何!?」
「ドンピシャ! 予想通りだね!」
「何故分かった? まさか太極図の知覚能力を引っ張り出して――」
「どうなんだろうね。確かめてみる?」
挑発する
「っていうか、時間停止した状態で触れれば終わりなのにそれをしないんだね。優しいってことじゃないなら、止まってる間は攻撃できないってことかな」
「……止まった時間の中では気も止まっている。この状態では流れを乱すことはできない」
「解説ありがとう。嘘がつけないっていうのは厄介だね。それも仙人の制約かな?」
「清く正しいこと。嘘偽りなく誠実であること。それを嘲るか?」
「まさか。自分らしく生きようとするのならそれは尊重するよ。ボクにはできないってだけで!」
言いながらバス停を振るう。時間を止めながらそれを回避する小鳥遊だが、運動能力自体は少し経験を積んだハンター程度。戦闘経験もそれほど高くはなく、少しずつバス停で傷を負っていく。
仙人。太極図。そのつもりがあれば
だけどこいつはそれができない。
優しいとか遠慮しているわけではない。太極図と言う目的の根幹を壊そうとする
『道教は第一義に人を殺すな、とあるからな。人を斬れぬなど剣術の否定だ』
なぜなら、殺人を犯せば仙人になれないからだ。小鳥遊の目的が仙人になることなら、人殺しはできない。
仙人の不思議道具や武器を使うのも、おそらくはできない。先に
「うん。キミはすごいよ。目的のために一生懸命で。世界を自由にできるほどの力をもって」
太極図の力も、
これが
だけどそれはできない。
(まあ、時間停止能力と触れるだけで超絶病気タッチも大概だけどさ!)
常人なら、時間を止めて死角に回り、相手に触れるだけで終わる。
だけどその
ゾンビを相手に、ハンターを相手に、何度も何度も何度もやってきたことだ。それで後れを取ることなんて、ない!
「キミの負けだよ、小鳥遊」
「……なんで……だ!」
幾度目かのバス停の打撃で、小鳥遊が膝をつく。
「何で私が負ける……! 正しいのは私なのに……結局暴力で相手を抑え込むのが正しいのか……!」
だが、それは負けた。
「キミは暴力に負けるんじゃないよ」
バス停を構え、口を開く。
「かわいいあの子とラブラブイチャイチャしたいっていう、ボクの愛に負けるのさ」
その言葉が、小鳥遊にどう届いたか。それはわからない。
「――は」
ただ小鳥遊は最後の力を振り絞って立ち上がり、まっすぐに
皮肉なことに、その動きが一番厄介だった。時間停止なんて小細工なしで、ただまっすぐに
それでも――
バス停が振るわれる。
仙人。太極図。全人類の救い。
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