太極に至る者/太極を壊す者
ボクは大きな山を見上げる
「というわけで何とかなりました!」
あの後、亀谷マンション跡の戦いは有耶無耶になった。
まずAYAMEが本気でマンションを荒らしまわった。AYAMEのパワーからすれば、アスファルトなんて発泡スチロールのようなものだ。マンションの壁やら床やら穴だらけ。一部は倒壊し、非常階段は折れ曲がってみるも無残な形となった。
加えて、ファンたんや音子ちゃんが流した偽情報も一役買った。
とどめに指揮官と副指揮官の福子ちゃんとカミラさんの離脱も効いた。カミラさんはAYAMEにフライングあやめちゃんドロップキック(本人命名)を食らって、KO。福子ちゃんは愛の口づけで『命令』を解かれて、
「…………あー。そう」
元気よく手をあげる
「どしたの? なんかえらい疲れたって顔してるけど」
「まあ、蝙蝠の君の『命令』が解除されたのは嬉しい事デスよ。そのためにわざわざ混乱させて、日本のことわざで言うところのコミック一冊分のバトルしてましたシ」
AYAMEを始めとして、うんうんと頷く。いや、たとえ方はともかく激戦なのは理解できた。【ナンバーズ】を始めとした強ハンターぞろいで、まともにやりあえば結構な疲労になるのはわかる。
「あ、ごめんね。ありがとう。でもなんかそれとは別の理由で反応冷たくない?」
「よっちー。嬉しいのはわかるけど、いつまでこもりんと抱き合ってるのよ」
…………まあ、そういうこともあるかもしれない。
「福子ちゃん成分が満足するまで」
「嬉しいのはわかりますが、自重するのは大事だと音子は思います。安心できる状況になるまでは」
「日本のことわざで言うところの、リアジュー爆破しろデスね」
「ここまでだだ甘カップルされると、逆にネタにできないっす」
「仲睦まじきことは善きことだが、時と場所を選ぶのは大事だぞ」
「そりゃあやめちゃん達が戦ったのは二人のためなんだけど、そういうところだぞ、よっちー」
いつまで抱き着いているのかと真剣に答えたら総スカンだった。
順番に音子ちゃん、ミッチーさん、ファンたん、八千代さん、AYAME。みんなが半眼で指さしながら平坦な声で突っ込んでくる。
その圧力に負けたわけのか、福子ちゃんは咳払いして
「皆様、ご迷惑をおかけしました。小守福子、ただいま戻りました」
「おかえりデスヨ! 言ってもワタシもつい数日前の復帰だから迷惑はお互い様ヨ!」
「音子はつい先日です。福子おねーさん。おかえりなさい」
「はい。……そう考えると、半年近く私たちを放置していたヨーコ先輩が一番罪が重いですね」
「うえええ! ボクに矛先来るの!?」
「勝手にハンター委員会に突撃して、その結果がこれですから。クランリーダーとしてけじめをつけるべきじゃないですか?」
うぐぐ。さすが福子ちゃん。痛いところをついてくる。
これまでいろいろ戦ってばかりだったんだしさー。少しぐらい体休めたりしてもいいじゃないのさー。そう言いたいけど、そう言えない状況なのは
「具体的には――アレをどうにかするということですけど」
福子ちゃんの視線の先には、そびえたつ山があった。
六学園――
何を言っているのか自分でもさっぱりだけど、そうとしか言いようのないことだ。福子ちゃんを奪還したしばらく後、大轟音と共に大地が盛り上がりあの山が形成されたのである。
形状としては、山というよりは崖だ。地面がいきなり隆起し、まっすぐ伸びた。そんな感じだ。環状線の内側にいた人とか、学校とかがどうなったかは分からない。そもそも何が起きたのかさえ意味不明だ。
「アレ……ねえ。いやまあ、原因は推測できるんだけど」
ここまで唐突でキテレツな現象が、科学とか常識で理解できるはずがない。そして
太極図。
世界そのものを操作できる存在。三次元と言う世界を上の次元から盤面のように俯瞰し、操作することができるモノ。紙という二次元に自由に落書きして世界を作るように、三次元を作り替えることができる。
「福子ちゃんを元に戻したことで、完全に警戒されたかなぁ?」
「そもそもあんだけの力あるなら、バス停の君なんてすぐに潰せたんじゃネ? 津波起こして島飲み込んダリ、生まれる前のバス停の君をプチっとやっちゃえば万事解決ヨ」
「それができない理由があってね」
時間操作――というよりは時代操作は影響が大きい。人一人を生まれなかったことにすれば、その反動がどうなるか想像もできない。
そして小鳥遊からすれば
そしてなによりも、小鳥遊は
「あいつ馬鹿だよねー。ありもしないことにおびえて、ボクに太極図使わないなんて」
今、太極図を使って干渉されれば
あえてハンターによる抹殺にこだわったのは、太極図を使用せずに片付けたいだけに過ぎない。あとは死体を回収したいからかな。魂を捕らえて閉じ込めるなりして、クローン復活の可能性をなくしたいという思いもあるのかもしれない。
「逆に言えば、犬塚殿に直接干渉しないのならああいうこともできるという事だろう。あれだけの大きさの山を一瞬で作り、そして消すことも」
「意図が読めねーっすね。こっち来るなって意味なのか、それともこんだけの事できるから降参しろっていう降伏勧告なのか。ホールドアップならわかりやすい武器でしてほしいっす」
「目測で、1200mぐらいです。山というよりは、崖を切り取った感じのほぼ垂直ですね。上に行くなら専用の山登り装備が必要ですけど……洋子おねーさん、そういう経験はあります?」
ナイナイ。と手を振った。ハーケンとか名前は聞いたことあるけど、使い方なんてわかんないよ。仮に経験があったとしても、あんだけの高さを登るとかどんだけか。
「ゲームとかなら山の入り口に洞窟があって、内のダンジョンを登って上までいけるんだろうけど」
「現実逃避しないでください。……まあ、その発想に至る気持ちはわかりますが」
ここがゲーム世界だからありかなという意味でそんなことを言う
ちなみに、ゲーム転生の事は福子ちゃん以外は知らない。太極図の説明の時も適当にぼかしてある。なんで
「とにかく近づかないと調査もできないし、移動するか」
「いいえ。その必要はありません」
特に案もなく行動しようとする
流れるような金髪。夜を思わせるドレス。そして光り輝く剣。
「貴方はここで死んでもらいます」
カミラ=オイレンシュピーゲルが、
(――やばい)
言葉と同時に
「世界から消えなさい」
剣は、受け止めたバス停ごと、
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