ボクはいったん仕切り直す
『Academy of the Dead』というゲーム内で最強のハンターとは何か。その問いは『氷菓学園』の一択である。
何せ銃が強い。そして氷菓を選択すれば銃関係のスキルが手に入る。正直、質のいい銃をもってある程度のスキルがあれば先ず負けない。AYAMEなどの
何せ負ければキャラロスト。課金でクローンを用意しても装備はロスト。死なないこと。負けないこと。生き残ることが最重視されるのだ。なら安定した強さを求めるのは当然の結果だ。
(そう考えると、
ネットゲームなんだからいろんな人がいて、いろんなキャラがいた。個性豊かなキャラはいたけど、そのほとんどはゾンビにやられていなくなった。ゾンビとなって、ハンターを襲う存在となった。
実際、
何が言いたいかって言うと、【ナンバーズ】の学校でもらえるスキルが『銃習熟』『H&K MP7』『迷彩服』『迷彩ブーツ』で性格『冷静』。このキャラをそろえた集団は強いということだ。武器も遠距離近距離に対応し、精度は高くないけど隠密もでき、仲間が死んでも動揺しない。まさにゾンビを殺すためだけのハンター。
「ファイヤー!」
それが
真正面から挑むには分が悪い。少なくとも相手は
「なんでわかるかって、そりゃ自分で作ったキャラで自分で作ったクランだもんなぁ」
【ナンバーズ】は僕がこの世界に転生する前に使っていた2ndキャラのクラン。そしてリーダーである神原は僕の持ちキャラ。それが
最強のクラン。だからこそ、その行動と作戦が手に取るようにわかる。
そして今、神原が絶対やってほしくないことも手に取るようにわかる。わかるけど……それは同時に
「でもやるしかないか」
このままだとジリ貧だ。今わかっているだけでも【ナンバーズ】と【聖フローレンス騎士団】。引いたとはいえファンたんと弟クンがいて、ほかのメンバーも動いているだろう。位置バレしたい以上、指をくわえて待っているなんてことはないはずだ。
危機意識の違いを逆手にとって泥沼を生む作戦は、おそらく通じない。フローレンスさんや十条と言ったそれにハメた人間がいることもあるけど、指揮しているのが福子ちゃんに……このやり方教えたことあったんだよね……。
『ゾンビにも性格みたいなものがあるんだ。基本愚直に突っ込んでくる考えなしだけど、動物型は元の動物の習性を引き継いでいたりするんだよ。
その性格の差を利用すれば狩りも楽になるよ』
『興味あります。どんなものがあるんですか、先輩』
『ふふん。まずは――』
とか、調子に乗ってべらべら喋ったんだよなぁ……。あの時はまさか福子ちゃんが敵対するとは思いもしなかったし。
今はそれを悔やんでいる余裕はない。目標を見据え、体をひねる。マンションの柵に手をかけてジャンプし、
「高いの怖ああああああああい!」
叫びながら、下にある気に向かって跳躍した。下にある木にツッコミ、落下にブレーキをかけて着地するつもりだ。叫び声が情けないのはご愛敬。だって怖いもん! ゲームだとありふれ移動方法だけど、実際やると怖い怖い!
んでもって痛い! 木の枝に引っかかるたびに擦り傷ができたりするし、落下ダメージも全部やわらげたわけじゃないからぶつけた背中が痛かったり。二度とやるかこんなの!
とにかく【ナンバーズ】と【聖フローレンス騎士団】の挟み撃ちは何とか回避できた。ここから仕切りなおして反撃開始――
「飛び降りる可能性は考えていましたが、躊躇しないのは予想外でしたね」
とっさに体を動かし、攻撃を避ける。さっきまで
「貴方の予想が当たった形ね、福子」
「ええ。しかし少しは迷うと思ったのですが意外と勇気あるジャンプでした。敵ながら、その行動力は称賛に値します。
さすがは数多のハンターを退けてきたバス停魔人。いいえ、今新しい名前を付けましょう。
そこに降り立ったのは、黒いゴシックドレスを着たコウモリの羽をはやした少女二人。ともに浮遊ブーツを履いていることもあり、高低の移動は何のペナルティもなくできる。
「私は『
「私は『
自己紹介おつ。ポーズとか決まっててお二人とてもお似合いです。ふざけんな。
まあ、二人が追ってくるのは予想していた。このジャンプで福子ちゃんだけ分離できれば一気に『命令』解除だぜヤッター、となっていた。でもさすがにそこまでヌルゲーじゃない。福子ちゃんの傍に常に立てるように、カミラさんも機動力の面で装備をそろえているのだ。
それはそれとして、
「えーと、すとっぱー?」
「はい。あらゆるものを停止させ、滞ることで人を怠惰に墜とす存在。それがあなた!
バス停。それをもってハンターの進行を止めるもの。最初はただの冗談と思っていたその武器に、そんな意味が込められていようとは。しかしこの『
いや、そんな意味は全くありませんです。
うーん、久方ぶりに中二病全開の福子ちゃんである。彼女の場合、素は普通のカワイイ面倒見のいい後輩なんだけど、敵とかにはこんな感じだ。言ってしまえば『敵』に向けた仮面に等しい。
んで、それが分かっているから
「んじゃ、それっぽく暴れてみますか!」
言うと同時にバス停を握って、カミラさんのほうに走る。獣の力で強化されたカミラさんの肉体と、鍛えられた銀の剣がバス停と交差する。視線を交差させ、カミラさん――と言うよりはカミラさんを操っている魂に、心からの悪態をつく。
「悪趣味」
「言いたいことはそれだけかしら」
うん。それだけだ。本当に言いたいことは、小鳥遊本人に伝えてやる。
拮抗するバス停と銀の剣。強引に押せば押し切れる。だけどその前に
マシンガンの射線から隠れるように、マンションの中に入る
「深追い禁止です。位置を特定し、プランKで追い詰めて!」
逃げる
ともあれ、仕切り直しは完了だ。ここから反撃開始! 飛び降りた以外はほぼノーダメージなので、元気よく行くよ!
「大丈夫ですか、カミラ
「大丈夫よ福子。ふふ、そんなに心配してくれて可愛いわね」
「そんな……私がカミラ
……遠くから聞こえる会話が、ザクザクと精神ダメージを与えてくるけどね!
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