ボクは出鼻をくじかれる

「やっばい。みんなの本気と戦えるとか、ワクワクする」


 福子ちゃんが連れてきたチームを前に、驚きはしたものそんな気持ちがむくむくと膨れ上がってきた。こんな機会、もう一生ないのかもしれない。そう思うとむしろポジティブになってくる。

 いや、もちろん目的を忘れてるわけじゃない。むしろ『福子ちゃんの命令解除』を第一義にしてどうするかと条件をどう達成するかはブレない。【バス停・オブ・ザ・デッド】のメンバーを取り返す。そのためにここまでやってきたのだ。

 僕のゲーマーとしての血が騒ぐ、と言うのはある。

 だけど何よりも、洋子ボクがこの世界に来て出会って育てた福子ちゃんが、どう成長したかを肌で感じることができることは、そうそうない。


「まあ……ああも露骨に敵意をぶつけられるのは、ちょっと心にクるけどね」


 思いっきりヘイトを込められた福子ちゃんの言葉にさっくりダメージを受けたり、隣に立っているカミラさんとの距離にうずくまりたくなるけど、何とか復帰。NTRイクナイ。少なくとも当事者になるのはヤダ。愛を取りもどせ!


「チーム構成的には【ナンバーズ】と【聖フローレンス騎士団】で攻めてきて、後は遊撃部隊ってところかな。隠密役の二人が『命令』されていないけど、いい感じで手を抜いてくれると――」

「いやあ。無理っす。手、抜いたらいろいろバレそうっすよ」

「だよねー。仕方ない……え?」


 頭をかいて立ち上がる。その目の前にはファンたんがいた。え? さっき展開したばかりだよね。なんで速攻でこの位置バレるの!?

 福子ちゃんとの会話の後、洋子ボクは隠れて場所を変えた。五分ぐらいはばれずに様子見しながら、遊撃部隊を強襲するつもりだったんだけど……。


「いきなり位置バレ! なんで居場所を特定できたの!?」

「ふっふっふ。蛇の道は蛇っす。犬塚さんの事完全に思い出したんで、行動パターンとかも完全把握っす。さっき小守さんに敵意向けられて傷ついたから、小守さんから逃げるように移動して一息つくとかも理解してたっす」

「蛇怖い! もうヤダこの子!」

「姉さんに目をつけられたのか。……いろいろ済まない」


 そして背後には一人の男性。【ダークデスウィングエンジェル零式】の新リーダー、四谷数馬だ。ファンたんの弟だ。属性的には『姉に逆らえない弟』というよりは『姉に振り回される弟』か。


「数多のハンターを倒してきた犬塚さ……バス停魔人を速攻で倒す! そうすればカズ坊の株もダダ上がり! それを動画にできればファンたんのチャンネルもバズりまくり! そんなわけで行くっすよ!」

「姉さんの動機はどうあれ、ここで禍根を封じて未来を切り開く。それが呪われた炎を生み出したこの俺の宿命だ!」

「その動機もどうかと思うけど!」


 いろいろ言いながら襲い掛かってくる四谷姉弟。この場所にいることは報告されているだろう。応援が駆けつけてくるまでに突破して、仕切り直ししなくちゃね。

 洋子ボクに迫るファンたんと、逃げ道をガスでふさいでいく弟クン。まずはファンたんを先に倒して返すバス停で弟クンの流れ――


「ちょわ、おおっ! この距離で避けるのつらいっすね、さすがに!」

「うええええ、今の避けるの!? しかもスマホ片手に!」


 なんだけど、避けに徹しているファンたん。スマホで洋子ボクを撮りながらなのに攻撃が当たらない。バス停の範囲外に逃げるんじゃなく、攻撃の軌跡を見切って避ける。直撃しそうになって初めて大きく後ろに飛んでかわす。そんな動きだ。


「そういえば、八千代さんも動き褒めてたもんね。<軍隊格闘>持ってたんだっけ?」

「うぃっす。ゾンビ群がる狩場で最高の動画を取るために学んだんっす。やー、苦労したっすよ。あ、今のお気持ちどうっすか?」

「たいしたもんだよ。じゃあ、ギアを上げていくね!」


 手加減してたらバス停を当てることはできない。それを理解して動きを加速していく洋子ボク。相手の動きを見て、次の動きを予測。その後に攻撃。思考と行動はほぼ同時。瞬きの間に無数の攻防が繰り広げられる。

 正確に言えば、攻めているのは洋子ボクだけ。ファンたんはその動きを動画にとっていたが、そのうちその余裕もなくなったのかスマホを胸ポケットにしまう。


「うっひぃ、これはたまんねぇっす。カズ坊交代っす!」

「わっぷ! 煙幕!?」


 ファンたんの言葉と同時に白い煙が洋子ボクの近くで炸裂する。煙たいけど、毒性はない。ただの目くらましのようだ。

 背後にぞわりとした感覚を感じる。感じたと同時に手足は動き、バス停を構えていた。ガツン、という強い衝撃とともにバス停と鉄パイプが交差する。弟クンが煙幕に紛れて殴りかかってきたのだ。


「おおっと! いい不意打ちだったね」

「この武器は並行世界における聖剣の転生体にして、数多の血を吸った吸血鬼の魂が宿った武器。その攻撃を塞ぐとは、まさか貴様も第三の瞳に覚醒したというのか。第六感を超えた、あの感覚に!」

「心の中の宇宙は燃やせないかな?」

 

 会話しながら攻撃をしてくる弟クン。悪くない腕だけど、姉には劣る。それは本人も自覚しているのか、どちらかと言うとけん制的な動きだ。後、セリフ自体は多分素で言ってる。


「本命は後ろ手に隠した燃えるガス手りゅう弾かな?」

「いや、俺の武器はいつだって一つ。燃え盛る魂の炎だ!」

「わけわかんないよ!」


 鉄パイプで攻撃しながら、隠したガス手りゅう弾で攻撃する。弟クンの身体スペックを考えれば一番の手だ。来ると分かっているのなら避けることはたやすい。いまだ視界の晴れない煙幕だが、地形は頭に入っている。近くにあった階段の踊り場に向かって走り――


「よっす、お待ちしてたっす!」

「おわぁ!?」


 そこに待っていたファンたんにタックルされた。タックルっていうかダイブ? 押し倒されるようにされて、そのまま床ドンの形で動きを封じられる。

 洋子ボクの動きが読まれてた!? 


「今っすカズ坊!」

「やっば! いや、ガス攻撃だとファンたんも巻き込まれるじゃん!」

「無論対策済みっす!」


 言ってガスマスクを着けるファンたん。洋子ボクを押さえたまま、弟クンにガス攻撃させるつもりだ。マフラーとガスマスクじゃ、ガスに対するダメージが違う。このままだとこっちが大ダメージだ。


「お姉さんをガスに巻き込むとかそんなことしないよね、キミは!」

「姉さんの死が、新たな覚醒を生む。許してくれ……!」

「うわダメだ! 状況に酔ってるよ!」

「っていうかファンたん傷つけたら『アレ』っすからねカズ坊」

「ごめん姉さん冗談ですだから『アレ』だけは」


 いきなり中二病解除してガチ謝罪する弟クン。この姉弟の人間関係が垣間見えた。放物線を描いて飛んでくる丸い金属。洋子ボクの隣に落ちたと同時に爆発するように黄色のガスが広がる。

 セリフから察するに殺傷力が高いガスじゃないだろうが、かといってまともに食らってやるつもりはない。


「んにゃろ!」


 その直前でファンたんを蹴っ飛ばし、急いでガスの範囲から逃れる。ファンたんも深追いせずにいったん引いた。弟クンも同じように気配を消している。


「やばいかも、これ」


 二人に足止めされて、かなりの時間を失った。その間に向こうは展開しているだろう。いい感じで時間を稼がれた感じだ。四谷姉弟、恐るべし。


「ダメージがないだけ、マシと思うか」


 思考をポジティブに切り替える。どうあれここから巻き返していくしかないのだ。


「状況開始」

「さあ。リベンジと参りますわ。捲土重来の精神で挑みましょう!」


 時間を稼がれた結果、【ナンバーズ】と【聖フローレンス騎士団】がやってくる。【聖フローレンス騎士団】がマンションの各所で退路を断ち、【ナンバーズ】がメインで攻めてくる。そんな布陣だ。

 


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