ボクは暗殺者を退ける
デリンジャー。
小型の
『小型銃=デリンジャー』の名前を決定づけたのが、フィラデルフィア・デリンジャーだ。リンカーン大統領を暗殺した銃として名を残し、その制作者の名前がそのまま手のひらに隠せる小型銃の代名詞となった。
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条件は厳しい。それを成し遂げられるほどのステレス能力を有していたとしても、倒せる相手は一体のみ。ボスキャラのような個人で強い相手ならともかく、群れて襲い掛かるゾンビにはとても使えるものではない。攻撃した瞬間に姿がばれ、袋叩き似合うのがオチだ。
使いにくいレア銃。しかし使いこなせれば切り札になる暗殺銃。
「――上手い」
乱戦という相手が常に移動する状況で、相手の背後を取ることは難しい。ましてや気付かれずとなるともはや至難の業だ。
それと同じことを、
三位一体の連携。見事なぐらいに虚を突かれた。背後を振り返りバス停を振るうよりも早く引き金は引かれ、
そして何よりも、
「けど――負けるわけにはいかないよ!」
かかとを二回蹴って暗殺ブーツからダガーを抜く。ばね仕掛けでかかと部分に飛び出した刃を、背後にいる暗殺者にむけて気配を頼りに振るった。避けられるか、相打ち覚悟で引き金を引かれれば
「…………っ!」
足から伝わる感覚と、息をのむ声。それが
「……何故……?」
バス停の攻撃をよけ、疑問の言葉を継げる音子ちゃん。何故背後からの攻撃に気づいたか。何故背後を攻撃できるような装備を用意したのか。何故古臭い銃の一撃を警戒したのか。その一言に、どの意味が込められているかはわからない。
「何故? 何故ってボクは最強無敵の美人ハンターだからね! 可愛いボクは主人公並みのチート能力で何でもかんでもお見通しなのさ!」
「……音子は【ダークデスウィングエンジェル零式】ではないので、そう言った話はあまり……」
「あそこまでどっぷりつかるのはボクも御免だよ!」
困ったように答える音子ちゃん。うん、まあ、適当に返したんだけど確かに
でもまあ、お見通しだったのは事実だ。この誘いがフィラデルフィアの暗殺効果を狙うものだったことも。そのために誘い、そのために足止し、そして忍び足で背後を取る。
(理解していたのに、見事に背後とられちゃったもんなぁ)
作戦(当然ながら戦いながら考えてた)では、音子ちゃんが隠れている場所を特定し、そこに突貫。皆の視線が見えない場所で『命令』解除のアプリを音子ちゃんに施して『命令』解除。そんな流れにしたかった。
だけど結果は散々だ。隠れている場所は特定できず、見事背後を取られた形である。最後の保険のために装備してきた暗殺シューズによる奇襲は、音子ちゃんにはもう通じないだろう。足を撃たれるか、最悪相打ち覚悟で撃ってくるか。音子ちゃんの性格的に、後者は十分にありうる。
「いったん仕切り直しかな。あっちもこっちも」
気が付けばコリンくんも闇に消えている。その行動の速さは音子ちゃんの指示か、あるいは当人の性格か。弾丸が着弾した角度からどこからライフルを撃ってきたかもわかったけど、おそらくもうスナイパーはいないだろう。
攻防している間にガスは消え、そこに並ぶ【ハンドオブミダース】のアサルトライフル部隊。純粋火力なら三クランでも一番だ。
「ファイヤ!」
号令と共に一斉射撃される。これだけの数の弾幕を抜けて前に進むの容易ではない。距離を取るように走りだす。
「ふははははは! たいしたことはないようだな、バス停魔人! ミーの財力で築き上げたハンタークランを前に手も足も出ないとはな! バス停などという拾い物の武器では何もできないのは当然だがな!」
言いたい放題の十条。うわムカつく!
「キミ何もしてないじゃん!」
「財力はその人間の努力と天運の結果! お金持ちの家に生まれ、その財力を融通できるように努力したミーを侮るな!」
「親のすねかじってるだけだろうがー!」
引き返してツッコミ入れてやろうかと思ったけど、今はそれをやっている余裕はない。少なくとも、いま
「目的はあくまで音子ちゃんの『命令』解除。忘れるな忘れるなー」
頬を叩いて目的を反芻する。
心の中で疼く好奇心を必死にかみ殺す。
この半年間でブラッシュアップされた【聖女フローレンス騎士団】の親衛隊と隠密部隊の質。数十秒手合わせしただけでVR闘技場の時とは大きく成長したのが伝わってきた。
ファンたんの弟くんが率いた【ダークデスウィングエンジェル零式】のガス連携。動きから察するにミッチーさんが入れ知恵してそうな動き。
潤沢な装備の【ハンドオブミダース】のハンター達。いい気になってるけど自分の器を理解している十条のリーダーっぷり。
やばい。手合わせしたい。戦いたい。どんな風に動いて、それをどう攻略しようかという感覚がうずうずしている。
だけどダメだ。この乱戦という状況を利用して音子ちゃんの『命令』を解除する。それが最優先だ。
全員倒した後に音子ちゃんだけ拉致って、というのは危険性が高い。そんな事実が判明したら小鳥遊は間違いなく疑うだろう。戦闘中に数十秒接触した、程度なら疑いもそこまで高くはならないはずだ。
「とはいえ、このままだと埒が明かないんだよね。少しぐらいは倒しておくのも、ありあり? そのほうが音子ちゃんを誘えるかも?」
疼く好奇心と目的との妥協点を探るように、
『音子ちゃんを助けるために邪魔者と戦うのです、洋子。今こそ聖戦の時!』
『やりたいこと我慢するなんてボクらしくないよ。音子ちゃんの事はどうにかなるって!』
天使と悪魔がサラウンドで戦えって言ってるんだけど!?
「確かに不自然に逃げ回るよりは、戦ったほうがボクらしいよね」
足を止め、舌を唇で濡らす。ハンター達の位置を目視で確認し、動くべき線をイメージする。
ワクワクを解放するように、一気に駆け出した。
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