激突! 三クラン戦!
ボクは罠にはまる
【ダークデスウィングエンジェル零式】【ハンドオブミダース】【聖女フローレンス騎士団】……三クランの総出ではなく、それぞれの長所を兼ね備えたチーム。それが駅前に集まっている。
『ようこそハンターの諸君! ボクの名前は犬塚洋子。世界一可愛くて世界一美人で世界一えろきゃわわ……エロはなし! とにかく美と強さを兼ね備えた存在だ。
決してバス停魔人とかバス停ゴリラとかバスターバス停とかバーサーカーバス停とか言うなよコノヤロー!』
集まってきたハンター達に向けて、駅のスピーカーを使っていってやる。いくら何でも言いすぎなんだよぅ。ちょっと泣きそうになったんだからね、ゴリラは。
『せっかくの障害物なしのフィールドだ。そっちも少数精鋭できたみたいだし、真っ向勝負と行こうじゃないか。全員出てきてもいいし、お勧めはしないけど、代表者同士の一騎打ちとかでもする?』
言ってから駅に姿を現す
(スナイパーが隠れれそうな場所は駅の下のくぼみぐらいだろうし、何かするなら隙を伺うかな? どのみちここまで開けたステージだと狙撃はむしろ目立ちすぎるしね)
狙撃の利点は、相手の意識外からの攻撃だ。十分に距離を取り、どこに隠れているかわからないからこそ狙撃は最大限の効果を発揮する。この駅はそれにマッチしない戦場なのだ。
まあそれでも無警戒というわけにはいかない。何せ相手は音子ちゃんだ。自分でいろいろ教えといてなんだけど、今この瞬間に背後を取られていないかドッキドキしている。っていうか、狙ってるよね?
「いいでしょう! 貴方の名乗りに応じます。我が名は【聖女フローレンス騎士団】のクランリーダー、フローレンス・エインズワース! 文武両道にして品行方正、紅口白牙にして羞花閉月の美貌を前に恐れおののくがいいでしょう!」
複数の盾役と共に出てきたのは、目立つ女性用の服を着た【聖女フローレンス騎士団】のクランリーダー、フローレンス・エインズワース。自分の周囲の人間を回復させるスキルと、的確かつ無駄のない采配を持つ女性だ。
「その程度の数で、ボクを止められると思ってるのかな?」
「わが騎士団を甘く見ないでくださいませ。日々努力を欠かさない我らが騎士団の守りは難攻不落にして金城鉄壁。堅牢堅固の意味を身をもって教えましょう!」
「硬い城だからこそ、攻略のし甲斐があるってもんだよ!」
敵の大将が自信満々に前に出てくる。それは自分が鍛えたクランメンバーを信頼している表れなのだろう。実際VR闘技場ではかなりの連携を見せた。自慢をするだけのことはある。
だからこそ。
「でも、罠なんだよね」
わざわざこんな挑発に乗るほど、この聖女さんは好戦的ではない。緻密に計算し、己をさらすことがこちらの被害を最小限にすると判断しての行動だ。
「ええ、そうですわ」
首肯するフローレンスさん。罠であることを隠すつもりはない。
だからここでいきなり攻めるのは愚策だ。間違いなく、待ち受けられている。ここに見えない【ダークデスウィングエンジェル零式】や【ハンドオブミダース】。そして音子ちゃんも。
「ええ。私は囮です。私を盾にして、ほかのメンバーであなたを攻める。それこそが現状での最上の策。それを看破できないようなお方ではないと知っています」
威風堂々。そんな四文字熟語を背負っていそうな態度で笑顔を浮かべるフローレンスさん。今の彼女は相手を侮るような人ではない。
「そんな貴方を」
「そんな罠を」
「「真正面からねじ伏せてこその、勝利!」」
ハードモード上等! その環境下で勝利条件を満たしてこそ、
「防御、構え!」
「はいさ!」
フローレンス産の声に合わせて彼女を守る守備隊が透明な盾を構える。その盾に
頭上を飛び交う飛行物体。航空力学とかまるで無視した羽すらない銃。それが何らかの力で操作されているかのように
「浮遊砲台!?」
超能力を持つ人間にしか扱えない課金アイテムだ。
「わはははは! ミーの浮遊砲台を食らうがいい! テレキネシスを持ち、かつ財力のある者しか扱えない選ばれし者の武器だ!」
「えーと……十条? え、あいつ【ハンドオブミダース】なの!? しかもあのバッジはクランリーダー!? うっそだー!」
ノコギリザメで情けなく土下座していたあの成金変態野郎がクランリーダー!? ってことは大したことないんじゃない……かな?
「ミーの事を知っているようだな。残念ながらミーはクランリーダーだがその実力は最弱! 【ハンドオブミダース】の面汚しとはミーの事よ!」
「自分で言って情けなくない!?」
「ふん。ミーのリーダーたる資格は戦闘力ではなく経済力! クランハウス施設にかなりのカネをかけ、メンバーもふんだんにカネをかけた施設で鍛えさせているのだ!」
クランハウス施設。<
「それありなの!? いやシステム的にありなんだけどさ!」
「豊富な財力が生む優れた武装と優れた訓練のハンター。一朝一夕では身につかない技術を埋める最短の手段! さあ、今だ!」
「AKM!? なんつー銃をそろえたんだよキミは! 解禁アイテムの最強アサルトライフルじゃないか!」
挟み込むように回り道をしていた【ハンドオブミダース】の部隊が銃を撃つ。前言撤回。冗談じゃないよ、この火力と弾幕! とっさに線路に飛び込むようにして回避する。そのまま足を止めずに移動する。いったん仕切り直して――
「逃がしはしない。その翼、ここで焼却する。我が腕に抱かれて堕ちよ魔人!」
「やっほー。動画投稿な姉さんは元気? 姉から金髪美人のえっちぃ動画を送られてたりしない?」
「な、何故それを……! いや、そもそもなんで貴様が姉さんのことを知っているんだ!?」
おい、ファンたん。なにやってんのさ?
「ち、ちがう! 俺はただ尊敬できる先達がたまたま金髪女性だっただけで、それを勘違いした姉さんがそういう
「…………本人は、善意なんだろうけどね。多分」
実姉に、好きな女性に似たえっちいアイテムを送られる。
同じ男として、同情するよ。っていうかファンたんなら狙ってやっている可能性がある。あの性悪パパラッチ。
(でもまあ、イヤらしいのは性癖だけじゃなさそうだね)
だけどその隙間を抜けたところに、別部隊が隠れて待機しているのだろう。【ダークデスウィングエンジェル零式】は隠密系ハンターをそろえたクランだ。それぐらいはやってくるだろう。っていうかやる。
「ガスの密度が甘いね。隙ありだよ!」
でもあえてその罠にはまる。マフラーを口に押し当て、熱波に耐えながらガスの隙間を目指して走る。
迫りくる隠密部隊。
「わざわざ襲いやすい状況に飛び込んだんだから、しっかり攻撃してきてよね!」
ガスが晴れるまでの数十秒間。この数十秒間が、
音子ちゃんをどさくさ紛れに『命令』から解き放つ機会は、これを逃せばきっとない――
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