ボクは機械人形を打破する
絶え間なく撃たれるゴム弾。一発一発が重く、そして正確に打ち込まれてくる。
防御を解けばその隙をつくように動くだろう。片方が足止めし、もう片方でとどめ。そんな動きだ。
相手は未知の存在。ゲーム転生した僕ですら知らない敵だ。攻撃ルーチンとかも、今見ながら覚えるしかない。攻撃の挙動が読めない状況では、攻撃をよけるのも難しい。まともに考えれば、一度撤退して仕切りなおしたほうがいい。
だけど――この武器は知っている。この武器自体は<
(暴徒鎮圧用のゴム弾。タイムラグはたしかコンマ八秒)
<
当然、このゴム弾を討つバス―カーにもタイムラグがある。一発撃って、次の発射までコンマ八秒。その隙を埋めるように、交代で攻めてきているのだ。
つまり、一度ゴム弾を発射してコンマ四秒は
(コンマ四秒ごとの時間をずらした連続射出。防御回復の硬直回復が、コンマ三秒。フリータイムはコンマ一秒)
ゴム弾が撃たれる中、
「そんだけあれば、十分じゃん!」
半歩ずつ、じわりじわりと近づいていく。半歩、また半歩。確実にバス停が届く範囲まで近づいていく。そしてその距離まで近づけば、一気に攻勢に出ることができる。
気の長い話だ。走れば数秒程度の距離を、じわりじわりとすり足で移動する。しかも防御を間違えればゴム弾を体に受けて痛打確定の緊張感の中で。コンマ四秒を図るのも体感時計のみ。時間をミスってもアウト。防御をミスってもアウト。それがどれだけの時間続くのか、想像もつかない。
「いいねぇ、こういうの……!」
生前の記憶なんてあいまいだけど、きっとこんな感覚で<
死んだキャラがゾンビ化するというクソゲー仕様だからその緊張感はさらに増した。そして今、この世界を現実として生きる僕はその時以上の緊張感と充実感を得ていた。クソゲーよりもクソな世界だからこそ味わえる、興奮。
(――残り、二歩)
真正面に機械人形が見える。ネジの位置までまで見えそうな、そんな距離。
(――残り、一歩半)
機械人形は下がらない。下がるというプログラミングがされてないのか、あるいは宿った人間としての意志か。ともあれ戦意は変わらない。
(――残り、一歩)
バス停が届くまであと一歩。ここまでくれば一足で踏み込める。
その位置まで近づいた瞬間、機械人形の一体が動く。手のひらを広げ、
「悪いね、予測済みだよ!」
その攻撃を予測していた
攻撃をよけられた機械人形はもう片方の手をこちらに向ける。正確にこちらに向かってくる手。『見る』動作が必要ない機械は、移動後の
「それも予測済み!」
迫る手に対し、バス停を振り上げる
正確に相手を追い詰める機械人形。
それは最適解を求める冷酷無比な番人。いかなる状況においても動揺せず、行動指針がはっきりしていることもありブレることがない。
だがそれは、
「ルーチンがわかれば、行動も先読みしやすいんだよ!」
本能で動く脳の足りないゾンビと同じだ。相手を食うためにただ突撃する。自分の体が傷ついても構わない。あらゆる罠や攻撃を、その肉体スペックだけでねじ伏せる本能の権化。
ゾンビとこの機械人形を一緒にするのは失礼だけど、行動パターンが読みやすいという意味では同じだ。対象を無力化するためにゴム弾や電気ショックなどを用い、最短最小の動きでそれを実行しようとする。
「おおっと!?」
もちろん、そんな簡単な話じゃない。最短最小の最適解。それは決まれば確実に
一番怖いのが、その活路すら封じられる動きをされることだ。読めるとか避けられるとか、それすら意味のない動きをされればどうしようもない。二体同時に効率的に動かれて、手数の差で詰みなんてことは普通にありうる。
だからこその、この立ち位置。機械人形と
「
一番怖いのは、犠牲覚悟で攻撃されることだ。機械人形も
だけど幸いにして、それはなさそうだ。一体の機械人形の動きを封じながら、目の前の機械人形にバス停をたたきこんで少しずつ破壊していく。
「これで、どうだ!」
バス停を叩き込み、機械人形の一体を沈黙させる。これでだいぶ楽になる。
機械人形もパートナーが動かなくなったことを理解したのか、動きを変える。いったん距離を置き、同胞の残骸を巻き込むように遠距離攻撃をしてくる。
だけど、相手は一体。そのパターンもあらかた理解したし、連携のなくなった機械人形の脅威度は大きく減っている。距離を詰め、確実にバス停を叩き込んでいく。
「は、ふぅぅぅぅぅぅ」
二体目の機械人形を倒して、壁にもたれかかった座り込む
時間にすれば七分近く。ダメージ自体は軽微だけど、精神的にかなり削られた戦いだった。
「さすがデスネ。あんな動きできるトカ、どんだけ強いんデスカ」
「もう一体機械人形がいたら、負けてたけどね」
拍手しながら近づいてくるミッチーさん。ぐったりしたまま
「この奥に『命令』の秘密があるんすね。そんじゃさっそく開けさせてもらいましょ。この手のカギは――」
ファンたんが嬉々としてドアに迫り、何やらガチャガチャやってる。電子ロックっぽいドアなんだけど、全然苦も無く作業をして、ピーと音が鳴る。そしてドアノブをつかんであっさり開けた。
「開いたっすよー」
「……深くは聞かないけど、なんでそんなにあっさりドア開けれるの?」
「いやっすよ、乙女の秘密を知ろうだなんて。プライバシーは守らせてもらうっす」
「それをキミが言うのはどーなの?」
なんかいろんな人の秘密をつかんでそうな動画投稿者にジト目を向ける。そんな視線など気にすることなくファンたんは笑顔を浮かべた。
「細かいことはどうでもいっすよ。とにかく中に入って『命令』の事調べるっす。それが目的だったんすから」
「そうだね。AYAME達が注意を引き付けている間に終わらせるか」
立ち上がって部屋の中に入る
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