ボクは人間だった機械に挑む

『機械化による不死……人の精神を持ちながら機械の体を持つ。そんな存在だ』


 パンツァーゴーストの言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。

 いや、言っている意味は理解できる。あのロボ二体は不死研究で作られた存在で、機械に人間の魂を宿らせたものだ。

 つまり、アレは元人間なのだ。


「待ってよ。キミ以外の『機械化』はいないって話してなかった?」

『正確には俺以外の人間は精神がぶっ壊れた、だな。人間の魂に人間ではない情報が過密に注がれて、正気を保つことができなかった者や、機械の冷たさに耐えきれずに心が摩耗した奴。単純に魂移植の際に致命的な傷を負った奴。様々だ。

 そしてそんな状態でも死んじゃいない。精神が壊れても自我がなくても、生きているんだ』


 パンツァーゴーストの言葉に、ぞっとする洋子ボク

 機械に魂を移植する。そんなことが可能なら、確かに機械をメンテナンスするものさえいれば不老不死の成立だろう。人間の体よりも頑丈で、そして病気などとは無縁なのだ。食事も呼吸も不要なため、きちんとした設計さえすればどんな環境にも耐えられる。

 だけどそれは素人考えなのだろう。実際は機械であっても耐えられない環境はあるし、さびや劣化など機械ならではの弱点もある。そしてその魂自体がそんな状況に耐えられないのだ。


「……あんま考えたくないけど、あれは人間なの?」

『人間の定義が『人間の魂が宿っている』っていうんならそうだろうな。だけど人間としての自我があるかどうかは怪しいぜ。思考したり会話したりできるとは思えないな』

「もしかしたら、ユーの後期にできた成功作っていう可能性ハ?」


 ミッチーさんがロボから目を離さずに問いかける。パンツァーゴーストが離反した後に作られた存在。失敗の末に生まれた成功作の可能性は、


『――ねえな。俺の結果を最後に機械化をはじめとする不死の第二期モデルは封印された。『機械化』による不死は不完全だと見切りをつけられたんだ。

 ついでに言うとあいつらを初見でそうだと分かったのも、見覚えがあるからだよ。『訓練を積んだ軍人なら、反射的に体が動く。精神が壊れても役立つはずだ』……そんな感じでな』


 あっさり否定された。


「ぶっ壊れ前提とか、イカれてるっすね」

「っていうかもう不老不死の実験じゃないよね、これ」


 不死研究者のイカレっぷりが浮き彫りになった。いやまあ、元からそんな感じだったけど。

 とはいえ、これは厄介だ。単に強そうという意味ではなく、アレが『人間』なんだと思うと攻めにくい。


『あれは死なない。体を壊しても、魂が宿った機械が粉々になっても、生きている。そういう意味じゃ、殺人にはならねぇよ。そもそもそれを恨む自我すらない。

 そういう意味じゃ、むしろ殺したほうが救いになるかもしれねえがな』


 そんな洋子ボクの心中を察したのか、パンツァーゴーストがそう告げる。だとしても、やりにくいのは間違いない。


「……ツマリ、魂が宿った機械があって、それを回収することも可能デスカ? ちなみにそれってアナタわかりマス?」


 悩む洋子ボクの後ろで、ミッチーさんがパンツァーゴーストに問いかける。


『両方ともイエスだ。これでも死霊術はたしなんでる。魂が宿ったもんぐらいはわかるぜ』

「イエス。だったらそのパーツを回収すれば殺人にはならないデスヨ」


 ミッチーさんは言って洋子ボクの肩をたたく。


「どうしても無理なら、ここで帰るっていう選択肢もあるデスよ。『命令』を説く方法はほかにもあるカモですし」

「……それは」

「まあ、ワタシからすればその『命令』自体がユーの妄想なんじゃネ、って感覚なんですがネ。HAHAHA!」


 言って軽く笑うミッチーさん。

 まあなんというか、こういうノリも久しぶりだ。


「おっけー。パーツ回収すれば殺人じゃない。その考えで行こう。

 っていうかAYAMEも首斬ったけど生きてたし、死なない死なない!」


 頬をたたいて、気分を切り替える。そう思えば、相手を攻撃するのに躊躇はない。

 何よりも、ここで帰るという選択肢はないのだ。『命令』を解除する方法を見つけて、洋子ボクの存在をみんなに認知させるのだ。


「そういえばそうだったっすね。誰が首飛ばしたのか思い出せないんすけど」

「オウ! ワタシもデース。衝撃的なシーンだったけど、あの黒ギャルパワー系JKの首飛ばしたハンター誰でしたっけ?」

「ボク! ボクだから、それ。そのシーンは覚えてるのにボクのこと覚えてないとか、どーなの!?」


 だってこのままだと、洋子ボクの活躍とか全部なかったことになるしね! そんなの許せなーい!


 イメージ。相手の姿を見て攻撃方法を思考。肩の砲台からの射撃。腕による格闘動作。足を使った蹴り。体に内蔵されているだろう武装。

 見た目から、メインウェポンは砲台だろう。近づいてしまえば長い砲台は使いにくい。あとは四肢をもぐか、動力を抑えるかだ。ゾンビよりも体は堅いだろうけど、なんとかなるなる!


「そんじゃ、行ってくるよ!」

「ファンタンはしっかり撮ってるっすから!」

「ワタシも待機デスネ。吸引系のガス効きそうにないノデ」


 もとより戦闘する気がないファンたんと、機械を相手することを想定していなかったガス使いのミッチーさんは待機である。巻き込まれるのもかわいそうなので、パンツァーゴーストを預かってもらった。


『警告。Cランク以下の研究員はここより先に入れません。Bランク以上の研究員の許可を得て――ケースⅡ発生。迎撃に移る』

「バス停で押し通させてもらうよ!」


 警告の言葉を放っている間に一気に距離を詰める。相手も洋子ボクの突撃に悠長にしている余裕はないと判断して、肩の砲台をこちらに向けた。ジクザクに左右に移動し、狙いを定めさせないように迫る。


『行動パターン算出。射出』

『狙い補正。次弾発射』


 一人目のロボが砲弾を放つが、狙いが甘かったこともありそれを回避する。だけど二人目の攻撃は洋子ボクの動きを予知していたかのように撃ち放たれた。よけきれず、バス停の時刻表示板で受け止める。


『命中。対象、行動可能と判断。次弾装填』

『時間差による射撃続行』


 撃ってくる弾丸はゴム弾だ。それでもこの口径の弾丸なので、まともに当たれば骨折するぐらいの威力を持っている。それをこちらの動きを封じるように、絶え間なく撃ってくる。


「ちょ、予想以上に連携だって攻めてくるんだけど!」

「そういうプログラムみたいっすね。氷華がっこうの暴徒鎮圧法を見てるみたいっす」

「あー、軍人の魂をどうとか言ってたシ、そういう動きなんでショウネ」


 こちらを確実に追い詰める詰将棋のような動き。軍人的思考かつ機械的なプログラム。こちらに何もさせないようにすることを前提とした攻め。うわこれ強くない!?


「こういう時はプログラム外の行動をすればいいとかいう攻略法が!」

「多分パターンいくつかあって、ちょっとやそっとじゃ意表突けないパターンすね」

「唐突に服脱ぐとかどうデス? ハニートラップが効くとは思えないデスケド」

『だらしない乳袋でどうにかなるわけないだろうが。そのままリョナられろ』

「アドバイスありがと! ちっくしょう、正攻法で突破するしかないのかよ!」


 ファンたんとミッチーさんのありがたいアドバイスに言葉を返す洋子ボク。あとパンツァーゴーストはあとでぶっ殺す。水かけてやる。


「ま、この程度ならどうにかなるけどね!」


 唇を舌で濡らしながら、洋子ボクは意識を尖らせていく――

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