ボクはB棟を進む
「――てなわけなんだけど」
研究室B棟を走って進みながら、
それら全部を聞き終わった後、ミッチーさんは頷いて告げた。
「今日はエイプリールフールじゃないデスヨ」
「うん。素直に受け入れるとは思ってないし」
「マア、それが正しい前提でいくナラ、いくつか納得できることもアリマス。
<特別補習>の生徒達デスネ」
ミッチーさんの口から、予期せぬ単語が出てきた。
<特別補習>。今学園に出されている制度。テストの点数で下位の者を特別補修と称してどこかに連れていく制度だ。
「<特別補習>の生徒達?」
「イエス。その生徒たちがどこに連れていかれてるか、というのは誰にもわからないデス。わかっているのは、戻ってこないということダケ。
それがハンター委員会がかかわっているのだとシテ、じゃあハンター委員会はなんで生徒が必要なのかと思ったのデスガ」
「あ。ヤな想像したっす。まさかとは思うんすけど、その生徒たちの足取り調べたらここについた、とかって感じっすか?」
「正確には、不死研究者を調べているうちにその流れが見えてきた感じデスネ」
確かにヤな流れだ。つまり――
「<特別補習>の生徒達はここに運ばれて、不死の研究のために利用されている……ってこと?」
不死の研究。
AYAME達も言っていたけど『死なない』ことを証明するということは、『死ぬ』ことをしても生きていることが前提だ。
そして『死』にはいろいろな形がある。
単純な物理ダメージによる肉体的死亡。毒物などの化学的要因。疾病などによる衰弱死。体の欠損、血液不足などの肉体欠損。ほかにもいろいろあるだろう。
それは拷問どころじゃない。相手が死なないように痛めつけるのが拷問で、殺すことが目的の行為だ。そして死ねばそれで終わり。しかし死ななかったら終わらない。その『成功』が偶然なのか、あるいは別の要因なのかを調べるために反復実験は行われる。そしてサンプルは複数必要だから、それだけの人を同じように殺す。
不死を生み出すために、死を重ね続けるのだ。
「あくまで推測デスネ。そしてそうだとして、あのハンター委員会会長はそうすることでタイキョクズーンを完成させようとしている感じ?」
「太極図、ね。小鳥遊はどっちかっていうと不死はどうでもいい感じだったからなあ。死を繰り返す実験を重ねて、生と死を繰り返すほうが重要なのか。
となると、ここの研究者も小鳥遊に利用されているのか」
「どっちにしてもぞっとしないっすね。差し当たっては宇宙の真理とかよりも目の前のおぞましい研究者が怖いっす」
ファンたんの意見は正しい。
太極図が完成してヤツの望む世界が完成したとして、
だけど不死研究者は違う。同じ生徒が何度も殺されているというわかりやすい脅威があるのだ。
「ここの研究、
「……あれ、なんでそうしないんだろ? 全員に『命令』できるんだから、そうしてもよかったんだろうし」
ミッチーさんの言葉に、
不死研究者にとって、六学園の生徒は実験動物だ。その冷徹さは前に話して十分に理解している。彼らが学園生徒の命に慈悲をかけるなんて、ありえない。
『その『全人類』の中に、六学園の生徒は含まれていないんだよね』
『当然だ』
彼らは六学園の生徒を『全人類』だなんて思っていない。
つまり、六学園生徒に『命令』できるのなら、そのまま全員実験に使えばいいのだ。それをしない理由がわからない。
最初は
だけど、前者は
そして後者は実際に全生徒に『命令』できているのだから、これは否定できる。
「つまり、どういうこと? ボク達の命は実験に使っても構わないって神経だけど、実験に使わずに生かしておく理由があるの?」
「えーと……ゾンビとか
「そんなところカモですね。実際、そのハンター委員会会長も研究者の仲間デスシ。そのために生徒をハンターにして防衛させているとかはありそうデスネ」
「うーん……? 違う気がする……」
不死研究者が自分の部下である小鳥遊に銘じて、学園生徒をハンターにしてゾンビや彷徨える
それは確かにあるんだろう。だろうけど、だったら『命令』で捨て駒にしそうな雰囲気がある。
どっちにしても生徒全員に『命令』をしない理由にはならない。育てるにせよ、捨て駒にするにせよ、自分たちの思うままに動かせるに越したことはないのだ。
「そのあたりは『命令』がどんなものかがわからない以上、推測以上の答えはでないデスネ。
全員に『命令』はできるけど、何らかのデメリットがあるってカンジ? で、そのデメリット以上のことがあってなりふりかまわなくなったトカ」
ありえそうなのはそのあたりか。確かにこれ以上の議論は意味がなさそうだ。
「で、その『命令』の資料がある場所はこっちで間違いないんすか?」
「パンツァーゴーストの情報が正しければ、ね」
『……今更嘘言わねぇよ。ここで捨てられたら、復活の見込みはなさそうだからな。おい、本当にこれが終わったら
パンツァーゴーストが渋々応じたのちに、確認するように問いかけてくる。
この施設の場所と、『命令』に関する資料の情報。その情報を交換にパンツァーゴーストには再び活動できる用の機械を与える。そんな条件で情報を得たのだ。
まあパンツァーゴーストからすればこのまま動けない状態は嫌だろう。それに少し同情しての交換条件だ。
「うんうん。ちょうど機械に詳しそうなお姉さんも仲間になったしね」
「ワタシの事?
「正直、自分も同意っすけど」
「まあまあ、はっきり言ってボクもこいつを調子づかせるのはやだなあ、って思うけど」
『なんだこの流れ! 本当に
「自業自得って言葉知ってる? まあ、約束は守るよ。情報が正しかったら、っていう前提だけどね!」
パンツァーゴーストの情報が正しければ、この先を行った場所にその情報はある。
幸いにして肉団子以降、邪魔をするゾンビは出てきていない。A棟で暴れるAYAME達の対応に向かっているのか、あるいはこっちにはもともと配置していないのか。
「……でもまあ、さすがに資料を守る場所ぐらいはそうもいかないか」
扉の前にいるのは、二体の機械的な人形。二本の腕を持ち四本足で体を支え、砲塔のようなものを肩に備え付けた兵器のようなフォルム。明滅する赤いランプが、稼働中であることを示している。
「ロボですネ」
「ロボっすね」
「ロボだね」
突然のSFチックな敵に戸惑う
だけど、パンツァーゴーストの言葉がそんな場違いな心境をぶっ飛ばした。
『あれは……俺と似た存在だ』
「は?」
『機械化による不死……人の精神を持ちながら機械の体を持つ。そんな存在だ』
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