ボクはあの子と再会する
「では綾女殿と合流してくる。健闘を祈ってるぞ、犬塚殿」
施設に入るなり、そう言って走り出す八千代さん。行動に無駄がないというか、遊びがないというか、単にやるべきこと以外はどうでもいいというか。
『第一種警報発令。施設内に暴力的な侵入者が潜入しました。職員はマニュアルに従って速やかに行動してください。現在、A棟6階にて被害拡大中です。繰り返します――』
正面のドア(当然叩き壊した)から入って、ずっと聞こえる警報の音。おそらくAYAMEが屋上から侵入してずっと鳴ってるのだろう。
八千代さん達
で、
なのでA棟エントランスからB棟に通じる廊下に向かい、
「いきなりかー!?」
そこで蠢く肉団子を見た。
何と言われると肉の団子としか言えない存在だ。廊下の一面を埋めつくほどの巨大な赤く脈打つ肉の団子。複数個の目玉やら口やら腕らしいものやら触手らしいものを生やしている。はっきり言ってみた目グロイ。
「ひいいいいいいいい!? これは流石に動画に出せないッス!? 正気度チェックモンすよ!」
なんだかよくわからない事を言いながら、スマホをしまうファンたん。まあ、動画に出せない云々は解る。これは見た人がブラウザバックするグロさだ。
「どういう類のゾンビかわからないけど、とりあえず近くの椅子攻撃!」
そもそもゾンビなのかさえ分からない相手だ。いきなり突撃するのは危険すぎる。エントランスにあった椅子を投げつけてみると――椅子は肉塊にぶつかって、そのまま地面に落ちた。
「ふぇ――」
肉団子の複数の口が同時に開き、
「ふえええええええええええええええん!」
いきなり泣き出した。目から涙を流し、大音響で泣き出す。思わず耳を防ぐが、それでも耳にダメージを受けたのか、少し痛い。
『なにやってるんすかー!?』
てなことを耳を塞ぎながらファンたんが言ってるんだけど、聞こえなーい。口パクと雰囲気で察するけど、こんなの予想できないよ!?
迂闊に殴ってたら、鼓膜破れてたかも。それぐらいの音響だ。そして、
『転がってくるッス!?』
てなことを耳を塞ぎながらファンたんが以下省略。いや、転がってきそうなのは予測できたけどね。団子だしね!
泣きながら転がってくるお陰で、耳から手を離すのはちょっと辛い。大声をあげながら突撃してくる。子供じみた行動だけど、地味に行動に制限がかかって厄介だ。事前に知っていれば、無視するかあるいは何かしらの対策はとれたんだけど。
最悪、鼓膜を犠牲にしてでも戦わないといけない。そしてそのリミットラインは、すぐ迫っている。覚悟を決めて足を止め――
「これが日本のことわざで言う所の、ヒャッハー! デスネ!」
耳から手を離した
B棟から電動キックボードで駆け抜けてきた<ドクフセーグ>を着た毒ガスタンクのマッドガッサー。それが肉団子に向けて、毒ガスを放出する。
「……ミッチー、さん?」
美鶴・ロートン。通称ミッチーさん。
【バス停・オブ・ザ・デッド】のムービーメーカーにして切れ者。なんだかんだで
「貴方、誰? なんでワタシの愛称をご存じデス……のぉわ!? どうして泣くデスカ!?」
「だって……だって……!」
分かってる。
だから、
「生きてて、生きて、会えるとか、思わなかったから……! 死んでないとは聞いてたけど、でもやっぱり……!」
今目の前に、かつての仲間が生きている。その元気を損なわずに戦っている。
たったそれだけの、奇跡的な事実が嬉しかった。ここが狩場じゃなかったら、きっとわんわん泣いていただろう。
「そこの動画配信者、なんかご存じ?」
「色々あったんすよ。その辺はファンたんも巻き込まれたっぽいんすけど。とまれ説明は後っス」
「そうだね。今はこの団子をぶっ倒すよ!」
涙を拭いて、バス停を構える。
こいつのおおよその特性は理解した。あとは――
「ボクがぶっ叩いたら全員離脱! ミッチーさんは殴りに行くボクの背後辺りに毒ガス撒いて!」
「は?」
叫んだ
「こいつは衝撃を受けた方向に突撃する程度の本能しかないんだ。毒ガス撒いてれば自然に突っ込んできてくれるよ!」
「違ったらどうするデスか!?」
「その時はいつもの出たとこ勝負!」
言いながら、バス停を構えて肉団子に迫る。渾身の力を込めて、バス停を叩き落とした。ざっくりと肉を裂き、そして肉を削り取る。
「ふぇ――」
「全員退避ー! 泣き出す前にどこかに隠れて耳塞いで!」
「ふえええええええええええええええん!」
泣き出す肉団子。だけど
「ふえええ――ごぼげほげごほぉ!」
そしてミッチーさんは
一度パターンにはめれば、後は同じことの繰り返し。泣き止むと同時に走り出し、毒ガス設置と当時にバス停を振るう。泣き出した肉団子が転がり、ガスを吸って自爆する。危険を回避する知識も知恵もなく、ただ痛みを受けた方向に転がるだけの存在。大きいこともあってタフではあったけど、
「これで、トドメ!」
振るわれるバス停。十に満たないルーチンで、肉団子は動かなくなった。ドロリ、と溶けるように崩れ去り、自壊する。
「ふふん、このボクにかかればこんなもんさ!」
言って胸を張る
「んー。よくわからないケド、なんか既視感あるデスネ。このボクスゴイオーラ」
「実はいろいろあって忘れてるらしいんすよ。自分ら六学園全員、このバス停娘を」
「あー。もしかしてワタシが忘れてるのっテ、こんな子の事だったデスカ。うーん……バス停振るう変な子だったとか、少し信ジランネー」
「なんか酷いこと言われてない!?」
……そこが普通じゃない、って言われそうなのでぐっと我慢する。今はそれよりも聞かないといけない事がある、
「所でミッチーさんはなんでこんな所に?ここ、結構危険な所だけど」
「オウ、そうデス。実はワタシ、半年前から『とある事象』に関して記憶喪失デシテ。その記憶に関することでこの施設が関係していることが分かったんデス!
なんとここは、不老不死を研究している施設だったんデスヨ!」
あ、うん。知ってる。
そんな顔をすると、明らかに落胆するミッチーさん。ごめんねー。
「トニカク調べようとしていたんデスガ、強いゾンビがうろついて、狙撃兵とかデカカラスがいたりで隙を伺ってたんデスガ、ついさっきその警戒が薄くなったので侵入しマシタ!」
「あー、こっち側で戦ってたから隙が生まれたんすね。意図せぬ陽動って所っすか」
ミッチーさんの言葉を聞いて、ファンたんが頷く。
なるほど、
「でも一応目的は達したんじゃない? 失われた記憶の理由と原因とそのものがここにいるわけだしさ」
「ムムムム……。いえ、信じられまセン。ワタシは貫くような衝撃的な出会いだったと記憶してマス。バス停もった変わりモノじゃないはずデス」
「いや、まあ、確かに貫くような衝撃的なファーストコンタクトだったけど」
ゾンビになった貴方を殺しました、などとはまあ言えない。言ってもいいけど、多分信じないだろうし。
「ま、いいよ。どの道その『命令』の解除法を探しに来たんだ。道すがら、詳細を説明するよ。
だから、一緒に行こう」
言いながらミッチーさんに手を差し出す
実の所、断られるんじゃないかってビビってた。そして拒否されたら、心に傷が残っただろう。
「オッケー! 了解ネ!」
だけど、ミッチーさんは親指立てた後で
その変わらない笑顔とノリが、とてもうれしかった――
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