ボクとサムライの実況中継

 AYAMEが研究施設に向かって跳躍した後、洋子ボクと八千代さんは背中合わせで協力――


「あのカラスは頂いた。犬塚殿は死者の群れを頼む」

「強敵見たら突撃とか、猪突猛進すぎるだろこのサムライガール!?」


 協力なんかするわけもなく、刀を手にして空飛ぶカラスに突撃していく。


「ええい、チームワークとか無縁だな、あの人は!」

「いやまあ、大体そんな感じの人っすから」


 慌ててサポートに走る洋子ボク。そんな二人を見て呆れるように言うファンたん。

 ちなみにファンたんの方にも改造ゾンビは向かっているのだが、持ち前の<軍隊格闘>と足の速さで攻撃圏内から逃げきっている。そして、


「お届けもんす。あとヨロシク!」

「また!? ちょっと押し付ける数多くない!」


 こっちの邪魔にならないタイミングで洋子ボクと合流し、気配を消して去って行く。手慣れた敵の押し付け方だ。いやまあ、そうしていいよって事前に言ってたからいいんだけどさぁ。


「タフなうえに数が多いとか、純粋にうっざい!」


 バス停を振るい、改造ゾンビをいなしていく。隙を見ては手足を裂き、首を飛ばして無力化する。立ち回りながら次の動きを思考し、思考した瞬間には体は既に動いている。


「ブレードマフラーないと、地味に辛い……! 移動のロスがもったいない!」


 太極図に取り込まれる前に装備していたブレードマフラー。移動時にはためいて、中に織り込まれた鋼線でゾンビを切り裂くサブ武器だ。バス停の一撃には劣るけど、移動時に攻撃できるのはやっぱり大きい。


「あのマフラー、カッコつけだけじゃなかったんすね」

「うわひっどい! きちんとした戦術の上でのマフラーなのに!」

「レポートから見た性格からだと、貴方はかなりのカッコ付けみたいっすから。そういう事もあるかなー、って」

「まあ、赤いマフラーカッコいいっていうのはあったけどね!」


 だって男のロマンじゃん! 体は女なんだけどさ。そこに性癖とか趣味とかぶっこむのは普通じゃない? MMOキャラに趣味趣向をぶっ込むのは基本じゃない?

 ……まあ、そんなキャラに転生するなんて思わなかったけどさ。


「ああ、もう! 邪魔すんな!」


 回転するように立ち回りながら、改造ゾンビを葬っていく。パターンもリズムも理解したけど、だからこそ倒すまでの時間が分かり、ここを突破するまでの労力が計算できる。少なくとも、今すぐというわけにはいかない。


「ファンたん、あのカラスどうなってる!?」

「円城寺さんが相手してるっすよ。チョイ防戦ぎみっすけど――うわぉ、また火を吐いた!?」


 洋子ボクの言葉に応えるファンたん。そのまま実況モードに入ったのか、熱弁を始める。


「走る走る走る! 地を裂く炎をものともせず、赤き甲冑のサムライはカラスゾンビに刃を向ける! 横に飛んで相手を翻弄し、生まれた隙を逃さず突く! その一撃、まさに稲妻の如く! 追撃とばかりに下からの逆袈裟斬りぃ!」


「しかしゾンビカラスはひるまない! 鋭い爪を使っての攻撃開始! サムライはこれを刀でいなし、甲冑の袖部分で防ぐ! まさに戦国時代のサムライの如き戦い方ぁ! そう、技術は今時代を超えて顕現しているのです!」


「たまらず浮かび上がるカラスゾンビ! しかしそれを予測していたのか、サムライは腰につけていたひょうたんのようなものを投げた――おおっと、これは手榴弾か!? 投擲したひょうたんが爆発し、カラスの羽根を傷つけた! たまらず地上に落ちるカラス! それに追撃だ!」


「地に落ちたゾンビカラスはくちばしと熱線で応戦する! 傷つきながらも今が好機と攻めを止めないサムライガール! 一定の距離を取りながら刀を振るい、隙を見ては深く踏み込み強く斬るぅ!」


「ゾンビカラスの動きがもうろうとしてきた! しかし油断なく攻めるサムライ! これは伝説に聞く残心。たとえ相手が力尽きたとしても油断なく気を引き締める。礼節にして残酷な武士の心得! 今まさに、死闘の決着の時か!?」


「勝利! ついにカラスゾンビは動かなくなったァ! 5分43秒! 映像としては短く、しかし熱い命のやり取り! このわずかな時間の間に生まれたドラマは多く、そしてくぐった死線もまた多い! その全てを、皆さんは感じ取れたでしょうか!」


「それではヒーローインタビューです! 円城寺さんに直接をお話を聞かせてもらいましょう。今日の相手は如何でしたでしょうか?」

「悪くない。良き死闘であった」

「はい。いつも通りのコメントありがとうございます! それでは引き続き『謎の施設に救う新型ゾンビ!? その秘密に迫る!』の続きをごらんくださ――あれ、終わってるっすか?」

「終わったよ! なんかファンたんが八千代さんばっかり持ち上げてる間に!」


 最後の改造ゾンビにとどめを刺した洋子ボクが、残念がるファンたんに言葉を返す。


「だってその、動画映えしないっていうか。地味だったんで」

「地味って言われた!? いや、こいつら地味だけど強かったよ! そしてそんな強いゾンビをバッタバッタと倒して無双する洋子ボクカッコイイ! とか言ってよ!」

「認証欲求の塊って見てて憐れっす」

「泣きそうになるから冷静に返さないで!」


 ジト目で突っ込まれて、泣きそうになる洋子ボク。いや、自分でもちょっとアレかなぁ、っていう自覚はあるけどさあ!


「とまれ、この場は制したようだな。屋上の狙撃兵も綾女殿が上手くやってくれたようだ」

「そうだね。AYAMEはそのまま施設の中に入るとか言ってたから、もう中にいるんじゃないかな。ボクらも中に入ろう。出来れば合流したいんだけど」


 言ってAYAMEに連絡を取ろうとしたら、スマホに通知がかなり入っていた。AYAMEからだ。こっちが戦っている間にいろいろ送ってたみたい。移動しながらそれを確認する。


「うわ、えげつないなあ」


 最初は屋上でスナイパーゾンビを倒した写真だ。合計で三体のスナイパーゾンビが壁に寝かされていて、銃身が折れたスナイパーがそれぞれのゾンビの隣に並べられている。そしてピースするAYAME。

 そこからは施設内の写真だ。経年劣化した古ぼけた部分はあるけど、白を基調とした研究施設。エレベーターらしいものやよくわかんない機械とかがあり、いかにも科学者の施設でございます、という感じだ。


「……これは、キッツいなぁ」


 そしてそんな中に、血まみれのベッドや腑分けされた臓器。瓶付けされた頭部や眼球などがあった。これを撮るAYAMEもどうかと思うけど、そういう施設なんだなということを再認識させる。


「不死の研究だからな。何処までやれば死ぬか、という実験も当然行われる」

「死なない為の研究で人を殺すとか、矛盾してるっすねぇ」

曰く、臨床実験だ。医術にこの手の検証が必要なのは事実だろう。個人的には反吐が出るの一言だが」


 薬と同じようなもので、その薬が本当に効果があるかどうかを確かめないと人の身体には使えない。論理的に正しくても、実際にやってみなければわからないことなどたくさんあるのだ。


「ま、その辺の争いはボクにはどうでもいいや」


 不老不死の必要性とか、その為に必要な犠牲とか。それを今どうこう言うつもりはない。


「今のボクに必要なのは『命令』の解除法。そのついでに彷徨える死体ワンダリングを倒すってことで」


 不死研究者との戦いに関与するつもりはない。その辺りの因縁はAYAME達の方が深いだろう。

 ……とはいえ、心中穏やかじゃないのも事実なんだよね。


「ま、出たとこ勝負でいくか!」


 その場のノリで行こう、といつもの調子を取り戻し、洋子ボクは施設の扉をくぐった。

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