ボクは研究施設に突撃する
山の上にある研究施設。
しかしそこにたどり着くまでには、分かりやすい障害があった。
「ウガアアアアアア……」
「オオオオオオオオ……」
ゾンビ。
口から涎を垂らし、肉は削げ落ち、眼球はない者も存在する。腐りに腐ったゾンビ。この島ではよく見る光景だ。
ただそれがただのゾンビじゃない事は聞かされている。
『自発的に生み出されたゾンビだ。空中に散布されたウィルスが死体に感染した自然発生じゃない。死体の各部位にウィルスを投与して生み出されたモノ。いわば疑似的なAYAMEだ』
パンツァーゴーストはそう告げる。
ゾンビは死体にウィルスが感染したモノ。あるいはウィルス感染率が100%を超えた際に死亡して生まれるモノだ。
だが、あそこにいるゾンビは人工的に生み出されたゾンビ。不死研究者が研究に研究を重ね、生み出された存在。おそらくその失敗作。
「本当に上手くいったのなら、外に放置などすまい。重要箇所を守らせるか、或いはさらなる研究の為に保管するだろう」
「とはいえ、その辺のゾンビよりは強いし厄介そうかな。それなりに数も多いしね」
「嬉しそうだな、犬塚殿。修羅の血が滾っているようだな」
八千代さんに言われて、自分がワクワクしているのに気付く。早く戦いたい。早く行きたい。そんな興奮が止められなかった。
「楽しみだけど、八千代さんみたいに戦闘がどうこうじゃないよ」
そうだ。僕は喜んでいる。
未知のマップ。未知の敵。未知の展開。
これまでは前世のゲーム知識があった。敵の強さは完全に把握してるし、攻略法も頭にあった。
だけどここは違う。強化されたゾンビがどの程度のものかは知らないし、研究施設の中には『成功作』がいる。それがどんなものなのかも見てみたい。
これはゲーマーとしてのサガだ。未知のシステムや未知のギミック。それを踏破したいという征服欲。それが心臓を動かしている。
とはいえ――
「ま、ボクの本命は研究施設だしね。不死研究者とガチバトるAYAMEや八千代さん達の方に強い敵が集まるだろうから頑張ってねー」
それはAYAME達も理解している。なので研究施設には行ったら二手に分かれる予定だ。
「よっちーと一緒に戦うの、楽でいいんだけどなー。あやめちゃんの見えない所をカバーしてくれてやりやすかったのにー」
「八千代さんとカオススライムとかナナホシとかいるじゃん」
「あの三人、自分勝手だもん。気が付いたらどっか行ってるし」
コンビネーションとか、そう言う概念がまるでない
一応元ハンターだった八千代さんの方を見てみると、
「うん。私も基本ソロだからな。ああ『ツカハラ』になる前からだ。どうも群れるのは苦手でな」
「そういえば<戦闘狂>持ちだったね、八千代さん」
『パーティもしくはクランメンバーが全員いなくなるまでは戦場から離脱できない』という厄介なデメリットを持つスキルだ。確かに集団戦向きじゃない。
「今回は集団戦だから多少は補った方がいいよ。相手の強さとかわかんないんだし」
「善処しよう」
あ、これ言うだけ言って考えない
「まあ、基本デタラメな強さだからどうにかなるとは思うけど」
「むしろ不死でもないのに我らに匹敵する犬塚殿がどうかしていると思うがな。
太極図の片割れになれる、という才が関係していたのかと思ったがどうも無関係のようだしな。ただの人間だというのにここまで我らに肉薄できるのは実に興味深い」
「つーかナナホシっぽい復活が出来たんだから、もう俺達サイドでいいんじゃねーか。強さもデタラメだしよー」
「予備のクローン体……用意しておこう、か……?」
「あ、いいねー。死にかけてたら声かけよっと。そしたら断れないし」
八千代さん、カオススライム、ナナホシ、そしてAYAMEの順番に言う。
「生憎でした。ボクは寿命以外じゃ死なないもんね」
「ついこの前まで行方不明だった人が言うセリフとしては、どーなんすか……?」
「死んではないもん。魂はこの世じゃない所にあったけど」
「それってやっぱり死んでたんじゃねーっすかね?」
ファンたんの質問には答えない。
言われてみればそうだよなー、と納得したんじゃないからね。ないからね!
「それじゃあ、行くよ! 先ずはあのゾンビの群れを突っ切る!」
「うむ。先陣を切らせてもらおう」
「AYAMEちゃんも行くー!」
言って
カオススライムはAYAMEの腰にぶら下がっており、パンツァーゴーストはファンたんのカバンの中である。
「一番槍は頂こう。改造されたゾンビなど何するものぞ!」
先陣を切ったのは八千代さんだ。
すでに抜刀してある『凩』を振るい、改造ゾンビを袈裟懸けに切り裂く。研ぎ澄まされた刃、強い踏み込み、苛烈な振り下ろし。正しい姿勢、正しいか前から繰り出される一撃がゾンビを肩から切り裂く。
二分されたゾンビはそれでも動きを止めない。胴体部分が腕を振るい、頭部分が噛みついてくる。しかし八千代さんの刀が翻り、自分を狙う腕を斬って飛ばす。そのまま返す刀で近づく頭を突いて貫いた。
通常のゾンビならこれで終わる。むしろ過剰な攻撃ともいえた。だが――
「まだ動くか」
斬って飛ばした腕が動く。蛇が這うようにして地面をうねり、八千代さんに襲い掛かってきた。同時に頭を貫かれたはずのゾンビが暴れ出し、刀を押さえ込もうとする。行動自体はただの嫌がらせ。だけど命がかかった戦場で、その嫌がらせは致命的な隙を生みかねない。
「温いな」
だがそれは、普通の相手なら、だ。
多くの人を切り、多くのゾンビを斬ってきた『ツカハラ』。その戦闘経験の蓄積は高く、それは対ゾンビに関しても同じ事。八千代さんは慌てることなく刀を振るって突き刺した頭を振り払い、自分に向かって襲い掛かる腕を切り裂いた。今度こそ、完全に動かなくなる。
「確かに並の死者ではない。しぶとさはかなり増したようだな。
しかしそれなら念入りに切れば済む話。脅威としてはさほどと言った所か」
「単体ならともかく、あれだけの数がいると面倒だけどね」
八千代さんの分析通り、この改造ゾンビは異常にタフだ。腕を飛ばしてもその腕が襲い掛かり、足の骨を折っても這って迫ってくる。おまけにパワーもスピードも増しているようで、動きこそ乱暴だが当たればかなり痛そうだ。
「うん。分かってきたかな」
モーション、スピード、そしてしぶとさ。大雑把だけどこの改造ゾンビの動きは見れた。これを元に戦い方を組み立てていく。それが僕の戦い方だ。
もちろん、八千代さんの一戦で全部を知れたわけじゃない。まだ出していない何かがあるかもしれない。でも0と1の違いは大きい。
「うっし! じゃあボクも負けてらんないぞ!」
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