ボクは未知の施設に足を運ぶ

「ここがのハウスか!」


 御羽火おうか島中央にある『大鳳山』。かつて不死鳥がいたとされる山の長女。そこに立つ建物を見上げる洋子ボク

AoDゲーム>では『白の病棟』と呼ばれた場所だ。次のアップデートで開放される予定だった新種ゾンビが出るとか言うマップ。残念ながらそのアップデートを前にサービス終了が発表され、その謎は闇の中。

 そう、僕も知らないマップだ。

 ここにやってきたのはパンツァーゴーストを問い詰めて『ココに不死研究者がいる』という情報を聞いたからだ。そしてAYAME達はそこを叩くために洋子ボクと一緒にやってきたのである。


がここにいる、っていうんならあやめちゃんも頑張るぞー!」


 洋子ボクの後ろで拳を振り上げるAYAME。なんというかノリノリである。彼女からすれば自分の身体を改造され、父親の研究品? であるオウカウィルスを悪用した相手だ。恨み骨髄あろうものである。

 まあ実の所、その辺の話は詳しくは聞いてない。あまり聞く事でもないかな、という遠慮みたいな部分があった。パパ、とか言ってたし家族がらみならなおのことだ。


「そうっすねー。『命令』の事が知れるのなら僥倖っス。ファンたんの情熱返してもらうっすよ」


 同じく気合を入れるファンたん。彼女は『命令』により洋子ボクのことを忘れてる。勝手に記憶やら価値観やらを書き換えられてしまったことに関する怒りは大きい。

 ……まあ。洋子ボクとしては、彼女が持つマル秘情報とかや永遠に忘れてほしくはあるんだけど。なんとかならないかなぁ、あれ?


「しかし知っていたのなら教えてほしかったな『亡霊戦車』。は我らの怨敵だと思っていたのだが」


『ツカハラ』こと八千代さんは冷ややかな瞳でそう告げる。彼女達彷徨える死体ワンダリング不死研究者の因縁は浅くはない。彼女達が語る事だけでも、敵と言っても過言ではないだろう。

 八千代さんの言動は怒りと言うよりは、呆れだ。然もありなん。『亡霊戦車』ことパンツァーゴーストが不死研究者に抱いてきた想いを考えれば、そのことを黙っているのは裏切りに等しい。しかもそれを教えなかった理由がではなあ。


『う、うるせぇ! スペック差を考えれば当然だろうが! まともに戦ったら死ぬわ!』


 返ってくるのは電子的な音声。むき出しになったハードディスクとCPU、そこにつけられた小型のスピーカー。外部バッテリーを含めて重さにすれば5キロもないパーツでしかない存在。そこから答えは返ってくる。

 その中にあるデータこそが、パンツァーゴーストの本体。データ化された『元人間』だ。このCPUを完全に破壊されてしまえば、もはや死ぬことも消える事もできないまま『そこにある』だけの命となる存在。


「ま、同情はするよ。あんだけガチガチに固めていたのにあっさり洋子ボクに攻略されて、今じゃこんなむき出しの記憶媒体。これ破壊されたら永遠に誰にも話しかけられずに一人ぼっちだもんね。

 安易に『機械化』っていう不老不死に乗っかる前にデメリットぐらいは考えた方がよかったのに」

『乗るしかない状況だったんだよ! 死霊術の腕はボーンザウルスに劣るし、ウィルス適合率はAYAMEに負けるし! 他の『不死』も適正なしだったんだ。『機械化』以外は生きる道がなかったんだよ!』


 の実験体として『不死』達がどんな扱いを受けていたか。それは想像もできない。あのニコニコしているAYAMEが露骨に怒りをあらわにするぐらいだ。穏やかな相手ではないのは事実だろう。

 まあ、その辺の因縁はノータッチ。やる気のある人に任せよう。


「ボクの目的はあくまで『命令』の解除法。そのきっかけになる資料だけ。だからの相手はそっちに任せるよ」

「む。よっちー手伝ってくんないんだ」

「そう言うな。因縁は我々の方が深い。むしろ仇を取らせてもらえると思おう」


 洋子ボクの言葉にAYAMEが不満げな声を上げ、八千代さんがそれを諫める。実際問題として、洋子ボクの顔を知らないし、恨みもない……わけではないけど、その辺りは彷徨える死体ワンダリングの方が強いだろう。


「けっ。どさくさ紛れにオマエを後ろから食ってやろうと思ったのにな!」

「また、ぬいぐるみになるよ……?」


 声をかけてくるのは大きさ20センチぐらいのぬいぐるみと、30センチぐらいのテントウムシだ。ぬいぐるみの名前はカオススライム。テントウムシはナナホシ。共に彷徨える死体ワンダリングの一員だ。

 、不死研究者に恨みを持つということで、協力する流れになっている。いるんだけど……。


「キミ、まだヌイグルミなの? 半年間ずっと?」

「うっせぇ! AYAMEがお前を探すとかで俺は放置だったんだよ!」

「あー、そりゃ失敬」


 少し前――半年以上前にがっつり殴り倒してぬいぐるみ状態にしたのは洋子ボクである。あれから元に戻してもらえず、ずっとぬいぐるみだったとは。


「不老不死になっても満足に動けなくなるとか。それもそれで不便だよね」

「ぐぬぬぬぬ……! 誰のせいでこんな体になったのかと思ってやがる!」

「キミがボクに襲い掛かったせいじゃない? それで負けたからだけど」

「ぬごおおおおおお!? 言い返せねぇ!」

「苛めるのはそれぐらいにしてくれ、犬塚殿」


 カオススライムとそんな会話をしていたら、八千代さんに止められた。


「戦いに敗れ死ぬこともできない生き恥をさらしているのだ。それ以上の屈辱を与えるのはさすがに酷と言うものだろう」

「さり気に追い打ちかけるね、八千代さん。っていうか『ツカハラ』は自分を殺した相手に継承するわけだから、実質負けっぱなしなんじゃないの?」


 ――剣閃が煌いた。

 それをバス停で受け止める。


「はっはっはっ。犬塚殿、唐突だが真剣勝負と行こう」

「言う前に切りかかってくるんじゃないよ、この人斬り……!」

「些細な事だ。試合開始の合図など実戦にはないのだからな」


 あっぶねー。気配に気づくの遅れたら首切られてたぞ、今の一撃。

 暫く鍔競り合いして、同時に距離を離す。


「むー、二人でじゃれあって。あやめちゃんもよっちーと戦いたいのにー! よっちーめちゃくちゃ虐めたいのにー! よっちーぼろぼろに泣かせたいのにー!」


 そんな洋子ボク達を見てほほを膨らませてぐちをいうAYAME。何恐ろしいことをかわいい我儘風に言ってるのかな、この子は。


「戦えばいいではないか。我慢するなど綾女殿とは思えん」

「今はあっちに力を溜めときたいの」


 AYAMEがあっち、というのは山の上の研究所の事だ。

 不死研究者。六学園の生徒を実験動物のサンプルとし、不老不死の研究を行っている者達。ウィルスをばら撒き、この島の死体をゾンビ化した奴ら。

 AYAMEを始めとした彷徨える死体ワンダリングのメンバーは因縁浅からぬ存在だ。


(小鳥遊も元々はの仲間だったっぽいことを言ってたしね。まあ、お礼参りっていうか八つ当たりはさせてもらうよ)


 洋子ボク達の到来に気付いているんだろうけど、動きらしいことは何もない。余裕の表れか、或いは本当に気づいていないか。


「ここで無駄弾を撃たないあたり、風格が違うよね」

『……何が言いたい?』

「べっつにー。案内よろしくね、ってだけ!」


 パンツァーゴーストが入ったパーツ類は、洋子ボクが持つことになった。洋子ボクだけだと資料を見ても何が何だかだ。分かる人間(?)がいるに越したことはない。それに激戦区で戦わないのでパンツァーゴーストにとって都合がいいという事もある。


「まったく、パンちゃんがもっと早く教えてくれたらよかったのに」

「それに関しては同意だが、そこを攻めるのは終わってからにしよう。今は戦いの時だ」


 AYAMEと八千代さんが愚痴る。パンツァーゴーストがこの研究所の情報をもっと早く渡していれば、洋子ボクの状況は変わっていたかもしれない。まあ、それは已む無きことだ。


「ボクとファンたんとパンツァーゴーストは施設の情報を得るために資料室に、AYAME達は研究者倒すために実験棟にいく。

 何かあったら連絡するって事でいいよね」

「おけ! あやめちゃんが全部ぶっ壊すから!」

「周りを巻き込まぬようにな」

「人間組のファンたんはこの人についていくっす」


 かくして『白の病棟』攻略は開始されたのであった。

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