不死を望む研究者
ボクは亡霊戦車を問い詰める
「キミ、彼らの情報知ってるんだろ? あと魂の扱いとか得意だよね?
『命令』の解除方法とか、もしかして知らないかな?」
「ししししししし知らん! あ、あれは俺の魂術式に電子的なプログラムを上乗せしたものだ。俺が解除できるものじゃない!」
「そっか。じゃあもうキミに用はないね。それじゃあ――」
「まままま待ってくれ! 確かに『命令』の解除自体は無理だが、その研究に関する情報はもっているんだ! それを教えるから壊さないでくれ!」
バス停を振り上げる
「そんじゃ、それ教えてよ」
「それはできん。教えれば俺の価値はなくなって壊されかねないからな。ギリギリまで秘密にさせt――すみませんごめんなさい調子に乗ってました! だからもう殴らないで水をかけないでくださいおねがいしますなんでもするから!」
ペットボトルのふたを開けた瞬間に、必死になって叫ぶパンツァーゴースト。本気で水は駄目みたいだ。パソコンだしなあ。
「じゃあとりあえずこのパソコンもってくか。っていうかプログラムが本体? とかだったらネット回線とかで移動とかできないの、キミ?」
「それが出来れば苦労しねぇよ……! データとして転送された『俺』はあくまで魂のコピーでしかねぇんだ。全く同じ存在だけど、別人だ。
『俺』本体はあくまで機械なんだよ」
よくわかんないけど、このPC自体を持っていくしかないようだ。
パンツァーゴーストの入ったPCを戦車から外したことで、戦車とドローンの動きが止まっていた。本当にこのPC一つでこれだけの兵器を制御して動かしていたのだろう。そう考えると大したものだ。
「肉体を機械化することで不死を得たってのがキミなのかな?」
「ああ。不死の第二モデル。『機械化』だ。肉体を完全に捨て、魂そのものを機械に宿らせる。機械が持つスペックを人間の思考で最大限発揮させ、さらには改造することで不死にして最強の存在になるって寸法だ」
「ボクに負けたけどね」
「うっせぇ。っていうかオマエがおかしいんだ! なんなんだよあの動き! 何から何まで裏をかいてきやがって!」
負けたからか、パンツァーゴーストは
自分に手が出せないと思ったら交換にビジネス用語で人を見下し、追い詰められれば謝って延命を図る。その危機が過ぎればこのザマだ。
なんていうか、ボクらに捕まった後のカオススライムに似てるんだよね。っていうかそれ以上に人間臭い。まるで自分が負けると思っていないからこその余裕で、その余裕が崩れれば途端に素が出る。
『む。あやめちゃんのことをゾンビって言うとぶっ殺すわよ』
AYAMEのような、一本芯が通った生き方をしているのではない。オウカウィルスにより生まれた自分と、同じ経歴で生まれたゾンビと一緒にされたくない彼女。
『――ほう。防いだか』
八千代さんのような、ただひたすら己を鍛え上げる武の極み。道半ばが死んでも構わないという求道者とも違う。
AYAMEと八千代さん。二人に共通するのは『不死』以外に生きる理由があるか否かだ。AYAMEはオウカウィルスに関して、八千代さんは武を極める為に。
二人の『不死』は相応の対策を取ればなんとかなる能力だ。実際、一度【バス停・オブ・ザ・デッド】は総力でAYAMEの首を斬り取ったし、八千代さんの『ツカハラ』は不死と言うよりは武術の技術継承でしかない。
つまり、油断すれば死ぬ。そして彼らは間違いなくその能力を知っていて、対応策も練っていてもおかしくない。つまり、彼らに挑むことは死ぬ可能性が高くなることだ。
それを理解しているんだろうけど、あの二人は研究者に挑むことに怯える事はない。
少し脅しただけでびくびくするパンツァーゴーストとは大違いだ。
「前も言ったけど、可愛い女の秘密さ」
「くそ、自分で自分のことを可愛いなんて言う女は――」
「怒りでパソコン地面に叩き落とすかもしれないなー。思わず手が滑るかもなー」
言って抱えているPCをゆすってみる。手が滑って落とすかもしれないぐらいに大きく。
「調子に乗りましたまじすんません」
「……なんでそこまで卑屈になるんだよ。キミ、一応不老不死なんでしょ? 殺しても死なないとかそんなんじゃないの?」
体があったら土下座してそうな謝りっぷりである。AYAMEとかだと『やーん。よっちが苛めるー』とか余裕ぶって答えてきそうなんだけど、どうもこいつにはそれがない。
いや、AYAMEのは性格なんだろうけど、それで死ぬわけじゃないんだしそこまで卑屈にならなくても……。
「死なないから、だよ」
陰鬱な声――電子音だけどなんとなくそんな雰囲気で――パンツァーゴーストは答えた。
「何されても死なない。粉々にされても、燃やされても、溶かされても死なない。それでも自我は残るんだ。
分かるか? 手足も動かず、見ることも聞くことも感じる事もできないけど意識は残って生き続けるんだ。そんなの地獄でしかねぇ」
分子と同じぐらいに分解され、この世界のことを何も感じなくなっても、『生きている』のだ。誰にも気づかれることはないまま一人で無限にそこに『生き続ける』不死。
「同じ『機械化』された奴らはそれに耐えきれず、精神が摩耗して死んじまったからな。ある意味幸運だろうよ。
俺は別の『不死』研究で学んだ死霊術を使って何とか死なずに済んだが、逆に言えばこの不死からは逃れられない。もう俺の魂は人間の身体には戻れず、機械にのみにしか宿る事はできないんだ」
こいつがここまで卑屈なのは、死にたくないからじゃない。死ねないからなのだ。
ここでPCを破壊されれば、自分という存在は誰も認識してくれない。もう何もできないまま、暗い孤独の中で生きていくことになる。
「土人形に生徒の魂を憑依させれたのに?」
「あれも弱点だらけだろうが。お前も知ってるだろうけど、文字消されたら消滅だ。最後の逃げ道程度にはできるだろうけど、まっぴらごめんだぜ」
「今まさに絶体絶命だと思うけどね」
「お前はまだ謝れば止まるからな。チョロイ奴で助かったぜ」
イラっと来て思わずその場で止まってぐるぐる回る。ジャイアントスイングっぽいポーズで、PCを投げようと腕を伸ばして。
「さーん、にーぃ、いーち、ぜーr!」
「うぎゃあああああああああちょうしにのりましたほんとごめんなさいゆるしてえええええええ」
あまりにかわいそうなので、そこで止めといた。うん、ボクって優しい。
「なんでそんなこと言うかなぁ? 自分の立場分かってないでしょう」
……コイツ、本質的にはかまってちゃんなんじゃなかろうか? 誰かと会話していないと寂しくて死んじゃう系の悪ガキ。だから最初はマウントとろうとして、事あるごとに何か悪態をついてくる。
「話を戻すけど、不死の研究をしていたヤツらの情報と『命令』に関して知ってることを話してもらうからね」
「はい。その、すみませんでした」
「っていうか、何でその研究者の情報とかAYAMEとかには言ってないの? キミら仲間なんじゃないの?」
ふと思いついた疑問をぶつけてみると、その答えは何とも言えないモノだった。
「……もしかしたら、『研究所』に戻れるかもしれないと思って」
「は?」
「あのゴリラ……AYAMEの仲間のふりをして情報をリークすればそれを土産に『研究所』に戻れるかもと……。いや、オレが知っている情報を
しどろもどろになるけど、要するに――
「
「仕方ねぇだろ! 俺は壊されたら何もできなくなる『不死』なんだよ!?
生き延びる可能性が高い方についていくしかねぇんだよ!」
「…………あー、そうだねー」
必死になるパンツァーゴーストに憐れみを感じて、追及の言葉を引っ込める
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