ボクはAYAMEと抱き合いながら
「……小守んは、よっちーの事忘れてるんでしょ? だったら――」
ベッドの中、裸に近い状態で抱き合いながらAYAMEは言う。
私と一緒にいよう、と。
その意味、その意図、その想いに気付かないはずがない。
『ありがとうございます。信じてましたわ、カミラ
『消えなさい、下郎。私の福子に触れないで』
脳裏に蘇る、あの時の光景。
『命令』されているとはいえ、福子ちゃんの隣に立つカミラさん。互いに信頼し合い、互いに思い合っているコウモリ姉妹。
あのカミラがクローンで、『小鳥遊』に操られている個体であることなんかわかっている。
それでも、あの光景は心乱される。大事なヒトを奪われて、しかも――
「小守ん、幸せそーだったよ。……うん、魂弄られてよっちーの事忘れてるのわかってるけど、それでも幸せそうだったよ」
しかも、幸せそうにしている。
カミラ=オイレンシュピーゲルが生きていれば、小守福子はそうなっていただろう未来。このゾンビアポカリプスのゲーム世界の中で、確かにありえた幸せの形。
僕は、この世界からすれば異物だ。ゲーム転生したという
(今の二人の形が正しくて、それをやっかんでるのは、ボクで……)
このまま、カミラさんと福子ちゃんは幸せに過ごす方がいいのかもしれない。
「よっちー」
幸いにして、寄る辺はある。
ウィスルパワーで無尽蔵の肉体能力を持つ少女。どんな時でも元気で明るくて、自由奔放で何物にもとらわれず、それでいて優しい子。そんな子が慕ってくれている。
「AYAME……」
相手の声に応じるように名前を呼ぶ。
愛おしい、可愛い、好き。
交戦して、共闘して、学園祭を楽しんで、そして崖っぷちの状況から助けてくれて、そして、寂しいから一緒にいてと請われて。男とか女とか関係ない。犬塚洋子は間違いなくAYAMEに好意を抱いている。
この子の為なら、何だってしてあげたいと思っている。
「ボクは――」
だから、応えないといけない。
すがるように、互いの存在を確かめるようにAYAMEを抱きしめる。AYAMEの肌の柔らかさと温かさをしっかりと感じながら、
「そっちにはいけない。――福子ちゃんのことが、好きだから」
はっきりと。
「そっかー。じゃあ、しょーがないよね」
帰ってきた返事は、とても軽かった。
――その中に込められた想いを、
ただAYAMEは、
「でもさー。よっちー、あやめちゃんのこと好きだよね? 少なくともベッドで裸で寝たくなるぐらいには」
「うん」
「こんな所小守んに見られたら、修羅場よー。小守んもよっちーが浮気できないってわかってると思うけど、それでも感情ドッカンドッカンしちゃうよー。メンドクサククナイ?」
「……まあ、それは」
「やっぱさー。あやめちゃん選んだ方がよくない? っていうか、ガチフラれて相手に恋人いるのにそれでもあきらめられないとか、よっちーストーカー? 粘着性高くない?」
「うううううう……」
…………まったくもってその通りなので、返す言葉はなかった。
いや、AYAMEも本気で諦めるように説得しているんじゃなく、
「イチャイチャしてる恋人同士から略奪したいってよっちーサイテーだよね。人としてどうよ?」
「い、言わないでよぅ。その辺はボクも理解してるんだからさぁ!」
「あー、ごめんごめん。ちょっと言い過ぎた。好きなものはしょうがないよね。理性とか理論とか常識じゃなくて、どうしようもない問題だもんね。
だから、あやめちゃんもどうしようもないということでヨロ!」
いってぎゅー、っと
「小守んとよっちーに遠慮して、これで我慢してあげる。あやめちゃんの優しさに感謝してよね」
「……うん。その――」
「謝んのナシ! よっちーはそう言う所がデリカシーないんだからね!
あ、一応言うとあやめちゃんはいつでもよっちーを受け入れる準備万端だから。よっちーが心折れるとか諦めるとかはないって思ってるけど、チャンスを前にヘタレて逃しちゃうとかは普通にありそうだし」
「ヘ、ヘタレるとか。ボクはそんなことは……」
「ヘタレの自覚あるくせに否定するんだ。あ、もしかしてあやめちゃんワンチャンありかも?」
自覚も何もヘタレじゃない、よ。うん。
…………なんか、どこか遠くから『ワタシがせっつかなかったら、コウモリの君への告白答えずにヘタてたクセに』とか聞こえてきた気がするけど、スルー! そんな幻聴は聞こえない!
「あー、その話は一旦終わり! とにかくウィルス治療? を終わらせよう。あとどれぐらいかかるの?」
「あ。……えへへー」
話を切り替えようと強引に叫んだら、何かきまり悪そうに頬をかくAYAME。
「? どしたの? もしかして何か不具合でも起きた?」
「ううん。問題ナッシング。何の問題もなく終わったよ。……っていうか、よっちーがドキドキし始めた時点て終わってたんだよね」
「え?」
「ウィルス活性化して血流が上がったら、あとは流れに任せておけなの。熱とか出て体力使うから病人とかにはできないんだけど」
心臓が激しくなったのは、AYAMEが抱きしめてすぐである。……まあその、AYAMEのえろさにドキドキしたのもあるけど。だってしょうがないじゃん!
ともあれ、ここまで長く抱きしめ合う必要はなかったのである。
「じゃあなんで今もボクのこと抱きしめてるのさ?」
「よっちーの事が好きだから。こーしていたいなー、って思ったから」
…………ひきょうだ、AYAME。
そんなストレートに言われたら、責められない。
「これ以上は何もしないよ。だから今夜はこのまま寝させて。……あやめちゃんもずっと寂しかったんだから」
「まあ、その……うん」
そしてそんなAYAMEが嫌じゃない自分がいる。
好きとか嫌いとか、愛とか恋とか、倫理とか恋愛とか、そういう感情や思いを乗り越えて、この寂しがり屋を抱きしめてあげたい。
「えへー。やっぱよっちー優しい」
「さっき思いっきりAYAMEのことフッたけどね」
「あやめちゃんに真剣に向き合ってくれたんでしょ。だから優しいの。適当に答えられたら、首に手を回して骨折ってたから」
あれ、もしかして死亡直結選択肢だったの? バッドエンドルート一歩手前?
(……まあ、そう言うのも含めたうえでAYAMEなんだよなぁ)
それら全てを踏まえて、この子が好きだ。
敵で、殺し合って、いつかどちらかがどちらかの命を奪ったとしても納得できる。ああ、この子になら負けて殺されてもいいやって思える。死んであげる気はないけど、この子になら全力で負けても『ま、いっか』と言える。
「おやすみ、AYAME」
ウィルス治療の結果なのか、微睡んでくる。微熱と少し早い心臓。そして優しく抱きしめるAYAMEの感覚。それを感じながら意識が遠のいていく。
「おやすみ、よっちー」
そんな言葉を聞きながら、
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