ボクとAYAMEがベッドの中で
「あの、AYAME?」
「なによっちー?」
「どーして服脱がされてベッドに投げ出されたのか教えてほしいんだけど!」
最後の治療、と称されて仮宿舎にしている404号室に戻ったとたんにAYAMEにベッドに投げ出され、圧倒的な力で服を脱がされたのだ。気が付けばブラとショーツのみ。
そのままネコを掴むように片手で捕まれ、ぽーいとベッドに投げ飛ばされたのだ。
「うんうん。その下着似合ってるよね。あやめちゃん、よっちーに似合うと思ってパクってきたんだ」
「まあね。ボクはカワイイからね。何着ても似合うよ」
「もー、そこはあやめちゃんのセンスを誉めないと。オトメゴコロが傷つくー」
ぷぅ、と頬を膨らませるAYAME。うわ、拗ねてるAYAME可愛い。
「誤魔化されてるぞ犬塚殿」
「はっ! このボクを惑わすなんて流石
「惑わすっていうかチョロイっていうか……まあ、この辺もメモ通りっすね。容姿を誉められると弱いってのも」
八千代さんの指摘で我に返る
「だーかーらー、治療だって。オウカウィルスを体内で活性化させて傷を癒すの。ある程度よっちーも肉体が復活して来たからウィルス治療に耐えれそうだし」
AYAMEは服を脱ぎながらそんなことを言う。全身程よく焼いているのか。見惚れそうな体だ。張りの在りそうな健康的な肌。形のいい胸のライン。そして腰。
そんなAYAMEの身体から目を逸らすようにしながら、問い返す。
「あー、えーと。ウィルス治療の事?」
ウィルス治療。学園でも保健室で使われる治療だ。ゾンビウィルス……AYAMEにあやかってオウカウィルスを体内に投与する治療法だ。ゾンビの再生能力を利用したとかで、正直原理とかはあまりよく分かってない。
(要するに、そのウィルス治療をAYAMEが出来るって事?)
AYAMEの不死性は『オウカウィルス操作能力』だ。本人曰く1000%の能力引き出しができるとかで、肉体能力を格段に引き上げて、死に至る傷を受けてもすぐに癒しているのだ。病気もバステもなんのその、である。
以前は首を断っても平気……少し気だるそうにパワーダウンしたぐらいで、全然死にそうになかった。それぐらいの力を持っているウィルスを操れるのだ。
「AYAMEが嘘をつく子じゃないのは解るけど」
うん。そこは信じれる。AYAMEは人を騙すような性格じゃない。
「なんで脱がすの。そして脱ぐの!?」
「? ウィルス治療だって」
「ウィルス治療するのに二人で裸になる必要あるの……?」
「あるある。体内にいるオウカウィルスを活性化させるためには、その部分に触れないとといけないの。
服越しよりも直で触れてるとウィルスの活性高まるから」
なるほどー。接触させて振動とか波とかそう言うのを送ってとかそんな感じか。よくわかってないけど!
「AYAMEが嘘をつく子じゃないのは解るけど」
二度目。繰り返すようだけど、AYAMEは人を騙すような性格じゃない。
「なんでAYAMEまで脱ぐの? その、目のやりどころに困るというか、えーと、ボクの体を触るだけなら、脱ぐ必要ないよね?」
「だからー、触れないと駄目なんだってー」
言って
そしておなかとお腹が重なる。足を絡められ、体中拘束されるように抱きしめられる。突然のことで驚いたけど、今の状況を理解してなお驚いた。
「では我々は席を外しておこうか」
「えー、ここからが面白くなりそうなのに――引っ張らないでほしいッス!」
八千代さんがファンたんを引っ張って部屋の外に出て行く。いやその、この状況を放置されると、その止めてほしいわけじゃないけど、その理性がー!
「ほぁわああああ! AYAME!? その、なになになにぃ!」
「んふー。よっちーあったかーい。そしてその反応かわいー。女の子同士なんだからそんなに恥ずかしがらなくてもいーじゃない。あ、魂は男なんだ。てへぺろ」
「てへぺろいいながら密着してくるし!? いや、その、あばばばばばば」
驚きもあるが、僕の精神の男性部分が喜んでいる。蕩けるような熱が触れた部分から広がり、心臓の鼓動を高めていく。
「ふふふふふふ、触れるってもしかしてこういうこと!?」
「そーよ。触れる面積が大きい方が、こーりつてき? とにかくいーじゃん」
「それはそうかもしれないけど!」
早鐘のようになる心臓を感じながら、肌を摺り寄せてくるAYAMEの感覚に翻弄される。背中に回された手は優しくなでるように動き、少しずつ上から下に移動している。AYAMEの吐息がかかるほど近づいた唇が妖艶に動く。
「よっちードキドキしてきた?」
「この状況でドキドキしない人がいたらそれはそれだと思うけど!」
いきなり裸にされてベッドに投げ出されて、治療と称して体を絡められたらね!
体中を撫でられながら、確認するように問いかける。驚きとか緊張とか、それ以外でドキドキしているのを自覚していた。
「うん。だって体内のウィルス活性化させて、治癒力高めてるんだもん。そのおかげで心臓の鼓動数上がってるはずだし」
「…………へ? あ、ちりょうのこうかなんだー。ダヨネー」
……えーと、このドキドキは、そういう事なの? いやいやいや。そういう効果もあるかもしれないけど、こんなことされたらドキドキするよ!
「あー。よっちもしかしてエッチなこと考えてた? やーだー。よっちー、えっちー」
からかうように耳元でささやくAYAME。熱い吐息と、からかうような声に鼓動がさらに上がっていく。
「いや、いやいやいや! えっちなのはAYAMEのほうじゃん! AYAMEにこんなことされたら、ボクだってそんな考えしちゃうから!
可愛くて綺麗で陽キャで自由奔放なくせに世話焼きで見た目エロ可愛くて、力在るのに皆に合わせるような気遣いできるイイコなのに! そんな子にこんなことされたら誰だってドキドキするよ!」
「…………っ。え、あ、うん。よっちー、そういうふうにあやめちゃん見てたんだ」
思わず叫んだ言葉に、AYAMEは顔を逸らして言葉を返す。思わぬ反撃を受けたような、そんな顔だ。
「あ、ごめん。ドンビキした? 治療してくれてるのに。
でも、AYAMEは自分を大事にした方がいいよ。その、女の子なんだからさ!」
「……んー。ありがと、よっちー。あやめちゃんの事、そういうふうに見てくれて」
ぎゅ、と抱きしめるように力を籠めるAYAME。
彼女が本気で抱きしめたら、
優しく、愛おしく。
「……AYAME?」
「あやめちゃん、こういうふうに誰かを抱きしめる事ってできないって思ってた。
本気でぎゅってしたら、死んじゃうから。今も結構我慢してるんだよ? すごく嬉しいのに、マジハグしたらよっちー潰れちゃうし」
力があるが故の葛藤。バケモノと人の違い。能力が違い過ぎるがゆえに、共に歩むもうとするなら、片側が遠慮しないといけない。
「うん。白状するね。治療は触れないとできないのは本当だけど、脱いだり抱きしめたりはちょっと悪ふざけ。
こうしないと、誰かににハグとかできそうにないし」
震える声。震える手。
本当に
「よっちー、『
あやめちゃんが本気でハグしても死ななくて、何度も何度も本気でハグしても大丈夫な風に」
強い、という事は孤独だ。
ましてやAYAMEはまだ子供なのだ。誰かと遊び、誰かと笑い、そんなことを満足に経験していない子供なのだ。
「あやめちゃん、よっちーが『
ねえ、どうかな? よっちー、こっちに来ない?」
過去に何度もAYAMEに問われた事。その度に断り、そしてまた誘われる。
人か不死か――ではなく、
「……小守んは、よっちーの事忘れてるんでしょ? だったら――」
福子ちゃんかAYAMEか――
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