ボク VS 吸血妃プラス……
ビルの三階。ご丁寧に放送室と書かれた案内板がある部屋。
そこに通じる廊下に、彼女はいた。
片目を隠し、牙を思わせる装飾を施されたマスク。ゴシックな黒ドレス。背中から生えたコウモリの羽根。浮遊ブーツ。そして彼女を守るように展開しているコウモリたち。
小森福子。
敵意に見た視線を真っ向から受けながら、そのストレスを誤魔化すように口を開く
「いやー、ラスボスが福子ちゃんとか会長分かってるよねー」
あははー、と笑いながら頭をかく
うん、本当にわかっている。福子ちゃんを持ってくるなんて、
『命令』されて操られているということが分かっていても、やっぱり手を出しづらい。ここで完全に心を氷に出来るほど、
「ハンター委員会会長の小鳥遊を襲撃する犯罪者、犬塚洋子。『
「やだなー。同じクランの深い仲なんだからせめて『どうしてこんなことをしたんですか!?』的なドラマとかしない?」
「そんな事実はありません。妄言を吐くと聞いてましたが、どうやらそのようですね」
そうかい、そう言う設定かよ。
どうやら今の福子ちゃんは
出会ってからこれまでの事を『妄言』の一言で切り捨てられたのは、流石に腹が立った。この怒りは思いっきり会長にぶつけてやろう。あとはこんな技術を作った彼らにも、かな。
「会長に会いたいんで、退いてもらえるかな」
「通すと思ったんですか?」
「止められると、思ってるのかな?」
これ以上の問答は必要ない。今の福子ちゃんは
「咎人よ、己の罪を数えよ! その罪科が汝の鎖となり、痛みをもって拘束しよう!」
『中二病』特有のセリフ。その台詞の文だけ攻撃に遅延が発生し、その分精神が高揚して攻撃力が高まる。同時に『中二病』は他のハンターとパーティを組むことが出来ない。
だから
そんなことは、当然福子ちゃんも知っているはずだ。
だからこんな所に一人で立っている――はずはなかった。
「…………え?」
受け止められるバス停。近くの部屋に隠れていたハンターが、
受け止めたのは銀の剣。流れるようなロングの金髪。背中にコウモリの羽根を生やし、夜を思わせるゴシックなドレス。そして福子ちゃんと対になるような牙のマスク。
見たことはなかった。
正確に言えば、生きている姿を見たことはなかった。
見たのは『
福子ちゃんの唇が動く。
「カミラ
愛おし気に、信頼を込めた言葉で。
福子ちゃんはその名を呼んだ。
「…………あ」
ぐちゃり、と何かがつぶれた音がした。
それは物理的な音ではない。心にある何かがトマトを床に落としたように潰れ、どろりと崩れたような。そんな音。
(やめ……)
カミラ=オイレンシュピーゲル。福子ちゃんの『前』のパートナー。
同じ光華学園のコウモリ因子を持つ先輩後輩。前衛の先輩と、後衛の後輩。似た装備を着た二人は、まるで人形のようにお似合いだった。金髪でクールな美形と、銀髪で姉を慕う夢見がちな少女。
彼女は死んだ。でもクローンの
それはすごく、しあわせそうで――
(そんなこと、かんがえたくない)
二対のコウモリ姉妹。あたかも絵画に描かれたかのような美しい二人。二人が並んでいるだけで、人は多くの想像をするだろう。まるで創作の一部を切り取ったかのような二人。
少なくとも、バス停に拘るお調子者よりも、ずっと形になっている――
(だって、でも……!)
そうだ。実際は違う。これは『命令』されて自分のことを忘れているだけだ。本当にそこにいるのは
「ありがとうございます。信じてましたわ、カミラ
「消えなさい、下郎。私の福子に触れないで」
「う、あ……!」
だけど、これが現実。
彼らがそれをしなかったのは、人の心の機微が分からないからだった。
だが、小鳥遊は違う。生徒と同じ目線に立ち、生徒の動向を気にかけ、生徒のよく観察していた。そんな人間だから、人間関係の重要さを理解していた。
「
福子ちゃんの声と共に、コウモリたちが
今の
(あ、れ……?)
走れなかった。
気が付いたら全身の力は抜け、見上げるようにカミラさんと福子ちゃんを見ていた。共に信頼し合った二人の戦いの距離感。それを見上げるように崩れ落ちていた。
「あ、そっか……」
動けない理由は、いやになるぐらいに理解できた。
ここで勝っても、もう
小守福子との仲は戻らない。
【バス停・オブ・ザ・デッド】の関係は戻らない。
……いや、戻るのかもしれない。会長を倒して、『命令』を解除して、二度と手出しできない様にすれば。
そうだよ、その為に立たないと。立ってここを突破して、会長の元に向かわないと。だから立て、立て、足を動かし、立ち上がって、立って。立って、立ってよ、
――――――――
――――
――
「最後はあっけなかったですわね。あの神原さんを倒したと聞いたのですが」
「ここまで来るのに体力を使い果たしたのでしょう。事実、先ほどの一撃は鋭い鍛錬を感じるほどだったわ。
でも、それで終わったみたい。燃え尽きる前のろうそくの如く、最後の一撃だった様ね」
倒れた
もう指一本動かすこともできず、バス停も遠くに飛ばされている。
「これでお仕事終了ですね、お姉様」
「ええ、帰ってゆっくりしましょう。今夜は狩りをお休みして、朝まで二人で」
「お手やらかにお願いしますわ、カミラ
言いながらカミラさんは福子ちゃんの頬に手を当てて引き寄せる。福子ちゃんも抵抗することなくカミラさんに顔を近づけ、マスク越しに唇を重ねる動作をする。
それがとどめの一撃。
立つ体力も気力も何もかもなくなった
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