そして日常は――
ボクはアイツと話をする
六華VR闘技場準決勝第一試合――
【バス停・オブ・ザ・デッド】VS【ハンドオブミダース】!
……が始まる三十分ほど前、
幸か不幸か、目的の人物はすぐに見つかった。ハンター委員会のある建物。その入り口でばったり出会ったのだ。
「おや、犬月くん」
「はいはい。犬塚ね。まあその辺も含めてお話しようか、会長!」
ハンター委員会会長の小鳥遊。彼に会いに来たのだ。
「いいのかな。キミはもうすぐVR闘技場に出る予定だったはずだけど。キミがいないと戦力が大幅に下がるんじゃないかな」
「うん。なのでサクッと質問に答えてもらえると嬉しいね。
キミ、不死を研究する人とどういう関係なのかな?」
いきなり確信を突いたセリフを告げる。
「……ふむ。何を言っているのかわからないけど」
「ボクのハンターとしての戦闘経験を知りたかったら、ハンター委員会を調べるのが一番だ。彼らがハンター委員会に対して遠慮する理由なんてないしね。なのにそんなことはまるでない。まるでハンター委員会から情報は会得済みとばかりに。
ボクのクローンデータとかVR闘技場の対戦相手が分かったりとか、さすがにできすぎだろう。そもそもこの闘技場自体が今回の騒動の為に作ったものじゃないの?」
彼らは
だとして、その情報はどこから手に入れた? VR闘技場の対戦トーナメントを入手したとして、その試合がいつ終わって、ハンター達がいつ帰還して、どういうルートを通って帰るか。それを入手した後で襲撃場所や方法を短時間で決めることができるのか?
まず無理だろう。これは行き当たりばったりの襲撃ではない。彼らにとってはデータ入手の実験だ。余計なトラブルなどが無いように条件付けはしっかりするはずである。……結果として、
「まあ、こういう話を急にされて落ち着いている時点で確定的なんだと思うよ。普通は焦るか何のことか問いただすかするけど。無理やり平静を装おうとしている時点で自白同然じゃん」
「いや、結構焦ってるよ。まだ疑われているぐらいで軽く探りを入れてきたかと思ってたのに」
「あいにくとウダウダやるつもりはないからね。確信が得られたら一気に突撃。それがボクなのさ!」
「成程ね。とりあえずあまり人に聞かれたくないので、場所を変えよう」
小鳥遊は言って
「さて、改めて話をしようか。不死研究者の話だね?」
「そーそー。あ、お茶とか要らないからね。長話をするつもりはないので。
先ず確認しておきたいことは、キミとその研究者の関係性だ」
「君はどう思っているのかな?」
試すように問い返されたので、遠慮なく思ったことを告げた。
「キミは不死研究者と協力関係にある。少なくともハンターの情報をリークしている。
だけどキミ自身は不死研究者に協力的じゃない。むしろ背信的なんじゃないの?」
会議室に沈黙が落ちる。
「どうして、そう思うんです?」
会長さんも、まさかこの返事は予想していなかったのだろう。何でもない問い返しだが、明らかに言葉を選んだ慎重さがあった。
「バス停」
はっきりと
「ボクと言えばバス停。バス停と言えばボク! 今じゃボクのじゃないバス停使いがいるけど、犬塚洋子と言えばバス停というのはもうハンターの共通認識だ。
人目を誘うピンクのショートカットのバス停使い! ふわりセーラー服の可憐なバステ―使い! たなびく赤いマフラーのバス停使い! キュートなお尻の女の子バス停使い! すらり太ももバス停使い! ああん、きゃわわ! ボクかわいい! そう、ボクはそう言われているんだ!」
「私が掲示板などで見る限りでは『血まみれバス停娘』『バス停ホラー女』『バス停ゴリラ』『バスターバス停』『バッドエンドバス停』『バス停は死の入り口』『バス停教教主』『バス停ガス爆発』とかですが」
「ネットの罵詈雑言酷いなちくしょう!」
会長の言葉に胸を押さえる
「とにかく、ボクと言えばバス停! なのに襲撃してきたボククローンはバス停なんか持ってなかったし、ボククローンを通して会話した彼らもボクが『バス停』っていっても反応薄かったしね。
その時気付いたんだよ。ああ、この人達は犬塚洋子をデータとして見ていない。バス停を使って戦うハンターという認識がないんだって」
『
犬塚洋子をデータ的に見れば、持つべき武器がバス停という考えには至らない。武器としての威力も低く、レアリティも低い。はっきりきっぱり言って、バス停はネタ武器なんだから。
勿論、それは犬塚洋子をきちんと調べればそうじゃないのは解る話だ。
そして彼らは
「つまり、犬塚洋子がバス停で戦うハンターだという事は彼らに伝わっていない。間違いなく誤情報をリークした人間がいる」
「それが私だと」
「それ以外にあり得ないんじゃない? 少なくとも、キミが彼らの何らかの情報を握っているんだと思っているけど。ハンター委員会を成立させた手腕を持っている人間が、個人情報を横流しされて気付かないはずがないし」
「いや、御慧眼。見事な推理です。まさかバス停が決定打になるとは思いもしなかった」
降参です、と手をあげる小鳥遊会長。
実際のところ証拠はまるでなく、むしろ会長も操られて利用されている可能性もあった。
ただ今の反応を見る限りは、以前会った会長の性格そのままだ。少なくとも学園生徒を見下すような態度は見られない。
「まさかとは思うけど、まともに名字を呼ばないのは彼らが使う上位命令とかの関係? 名前を呼ぶと命令しちゃうとか」
「そうですね。生徒の名前と学園ID、そのどちらかを告げる事で学園生徒を意のままに操ることが出来ます。いやあ、厄介ですよ。普通に会話したら命令したことになりますからね」
「……つまり、キミも彼らと同じ力を持っているわけか」
「上位命令権をもって六学園のハンターを統括。島に氾濫した『
――というのは名目で、真の目的は生徒のストレス度合いコントロールですね。自殺しない程度に生徒達に精神的負荷を与え、極限状態における生存能力の増加。それに生存本能を活性化させればあわよくば不死の手がかりが得られるかもしれない、という程度です」
ハンター委員会そのものも彼らの作り出したモノ。いわば学園の護りさえも手のひらの上。
ゾンビとハンターを支配し、争わせることで実験動物である生徒のストレスを操作する。もしかしたらその結果、自分達の望むモノが出てくるかもしれない。
「だけど、キミはあまりその実験に乗り気じゃないって事かな?」
「ええ。むしろクソ食らえです。こんなやり方で不死に到達できるはずがない」
言ってから小鳥遊会長は
「現状、不老不死に一番近いのは貴方だと思っていますよ。犬塚洋子さん。
女の身体に男の魂が入った貴方が」
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