ボクはイラつく奴らと話をする
「さて。いろいろ喋ってもらおうか」
AYAMEと
場所はゾンビパニックでシャッターを下ろした家に無断侵入。裏口扉をAYAMEの鍵開け(物理)で開けてもらった。非常事態なのでゴメンね! 中が埃臭いけど、それぐらいはガマンガマン!
尋問するのは
「我らを助けよ。キッカハイスクールID0030319。ヨウコ・イヌヅカ……やはりだめか」
「イチカハイスクールID0020643。ヤチヨ・エンジョウジ、二人に襲い掛かれ。……こちらもだめか」
彼らは学園生徒に命令し、支配することができる。
それが
操られると困るので、福子ちゃん達は席を外してもらった。カバンの中に入れたスマホの通話をオンにして、こちらの会話は聞こえるようにしてある。フローレンスさんをクランハウスに送ってもらいながら、話は聞いているはずだ。
なお八千代さんは、
『『ツカハラ』の継承は魂に依るものだからな。遺伝子と魂をキーとする上位命令は弾けるだろう』
という割と大雑把な理由で同行した。確証のない自信だったので、念のためにバス停は構えている。
あ、【聖フローレンス騎士団】の服装は返しました。これから空き巣まがいのことをすると言ったら、フローレンスさんが激怒したので。まあ、仕方ない。
「しっかし、ホントよくできてるね。声までボクと一緒とは」
「そりゃよっちーの遺伝子情報を元にしたクローンなんだから。筋肉とかの成長する要素は別として、声帯なんかは基本変わんないでしょ」
「犬塚殿の秘密を探る目的もあるから、肉体条件はほぼ同じにしてあるはずだ。差異はないと言ってもいいだろう」
「さて、色々聞きたいんだけどいいかな?」
「答えると思うのか? クローンを痛めつけても、痛みは我らには届かない。無駄な行為だったな」
彼らにとって、ボククローンは遠隔操作しているドローンのようなものだ。視覚や聴覚などは伝わるだろうが、痛覚は伝わらない。つまり、拷問の類に意味はない。
カオススライムとかにはグロ画像見せるぞと脅かしたことはあったけど、流石にこいつらにそんなのが効くとは思えない。
「あ。意味ないんだ。でも面白そうだからやりたーい。苛めたいー。爪はいでー、指折ってー、歯抜いてー」
「試してみたい技があるのだがいいか? 首を薄皮一枚残して切り落とすのだが」
「……君達、恐いから黙ってて」
そんなことを理解したうえで――むしろ理解して嬉々としてそんなことを言うAYAMEと八千代さん。この人でなしどもめ。
ともあれ、痛めつけるのに意味がないのが彼らの強みだ。
なら、そういう形ではない形で交渉するしかない。
「キミ達が知りたいのは、ボクに上位命令とかが効かない理由を知りたいんだよね?」
「そうだ。貴様の魂が変異した理由を知りたい。AYAMEはウィルスによる環境へンイト納得するが、貴様とそこのヤツは不明だ。おそらく貴様が魂に何らかの影響を及ぼしているのだろうが、その理由は解らん」
あ、八千代さんが操れない理由を
「知りたかったら直接ボクに交渉しに来ればいいじゃないか。なんでこんな回りくどくてややこしくて暴力的なことするの?」
先ず分からないのはそこだった。
「ふん。貴様が『
……あー。そう言う警戒か。
そう言えば初めて彼らとあった時もAYAMEと共闘してたしな。そりゃ不審に思うわ。
「精製したクローンが通常実験で死亡したところを見ると、貴様の異常性は肉体要因や遺伝子要因に依る不死ではない事は明白だ。となれば『魂』に関するものだろう。
上位命令を弾いた理由がそこにあるなら、魂の精度を近づけるのが妥当。戦闘記録を蓄積し、同一個体を生み出すのが最善と見た」
「いやだからなんでそれでハンターを襲うのさ」
「実戦こそ最大の練度。それが生命を削るほどの負荷であるなら、なおのこと。
現に貴様の戦闘記録は既に再現済み。最新のアップデートにより、魂の再現率は86.56%となっている」
実戦こそ最大の練度。
百聞は一見に如かず、とはよく言ったもので実体験程人間に影響するものはない。そうして繰り返された実戦の中で
そして何よりも、
「このアプローチで異なるなら別方向を施すまで。その先に不老不死があるならば、数多の失敗も惜しくはない」
彼らにとってこの襲撃は『失敗してもいいやー』程度なのだ。
そこまで軽くはないだろうけど、一回の実験で成功を掴めるとは思っていない。数多ある実験群の一つでしかないのだ。犬塚洋子の魂を疑似的に作り出す手法の一つとして、戦闘経験をつませているだけ。
「はん! なら直接ボクに襲い掛かればいいじゃないか! 負けるのが怖いとか臆病なの?」
「結果に意味はない、貴様を襲わない理由は、貴様が貴様と戦った記録がないだけだ。下手に記録にないデータを得ることで、予想外の事態が起きる可能性を排除したにすぎない」
うーん、徹底した研究者体質。挑発にも乗らないし、面倒だなぁ。
「つまり、ボクの戦いをとことんトレースしたい、と」
「そうだ。より正確には貴様の魂に近い個体を作り出し、そこから貴様の魂の異常性を測る。そこに現存固体にはなかった不死性に到達する可能性があるならそれを手繰り寄せる」
「不死……ねえ」
不死。その言葉に何とも言えないと言いたげにため息をつく。
「そもそも、その不死自体に懐疑的なんだよね、ボク」
不死。殺しても死なない事。
いや、いまさらその存在を疑うつもりはない。AYAMEとの戦いでその存在は理解している。首斬って死なないとかどんだけ。
「まあボクが稀代の世界三大絶世カワカワっ
「ああん、よっちーかわいい! そっか、真空パックしちゃえばいいんだ」
「やめて、悪かった」
大きく深呼吸しながら人が入りそうなゴミ袋を手にしているAYAME。それを慌てて止める
ツッコミ不在の恐怖である。迂闊なボケが死を招く。
「なんていうか、ボクを研究してもAYAMEとかみたいな不老不死っぽい特殊能力は得られそうにないと思うよ」
挑発が通じないのなら、別アプローチ。
彼らの持ち札である上位命令とかが効かないのは脅威だろうけど、彼らが求める不老不死とそれが結びつくとはとても思えない。
「……むぅ、あやめちゃんはよっちーイケると思うんだけどなぁ」
小声でAYAMEがそう呟くが、黙殺。彼らには諦めてもらうのが、一番楽そうだ。
「貴様は自分の特異性に気付いていないのか」
「は?」
「不老不死に至れる可能性が皆無と思っているから、我々のことを拒絶する。成程理解した。
ならばその意味を理解すれば、我らに与するだろう。貴様にも理解できるように説明してやるから、拝聴するがいい」
いやあの、別にそう言うことは――ある。
不老不死はともかく、この世界における自分の特異性なんてとっくに気付いている。気付くどころか、この世界を特異性前提で生きてきた。
――ゲーム転生。
彼らがそれに気づいているとは思えない。
だけど魂を研究してきた存在が、その魂をどうとらえているのか。それに少し興味がわいた。
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