ボクは聖女達の騎士と戦う
「つまり、こういう事ですね」
電話越しに告げた
「貴方達【バス停・オブ・ザ・デッド】と戦ったクランはクランリーダー犬塚に似た人間に襲撃を受ける。それを止めるために協力してくれ。
襲撃はハンター委員会に報告もできず、事前に止める事もできず、しかもその襲撃される理由に関しては何一つ追及するな、と。なんともまあ、いいように私達を利用しようとしているみたいですわね」
……そう言われれば、そうですねとしか言えない。
事が
「いいでしょう。協力いたしますわ」
「え。ホント。ありがと――」
「これが貴方の高慢無礼かつ我慢勝他による自業自得であるなら見捨てる所ですが、どうやらそうではない様子。孤立無援で四面楚歌な者に手を差し伸べるのは貴族の務め。このフローレンス・エインズワースの寛仁大度な性格に感謝をし、飲水思源の精神を忘れずにいるのですね!」
あ、うん。感謝はするけど、その、うん。
まあ、フローレンスさんは相変わらずなんだなぁ、という事で納得する。
「それはそれとして」
一泊置いて、フローレンスさんが告げる。咳払いでもしたのだろうか、声の質が少し変わった。
「明日の勝負、負けるつもりはありませんわよ。まさか私達が勝ったら襲撃がなくなるので、わざと負けろだなんて言いませんわよね」
「まさか。むしろボクらに勝ったなら嬉々として挑むんじゃないかな。ボクに勝てるぐらいの戦闘データを求めて」
「ふふん。ではそういう事で。ではお休みなさいませ」
通話を終え、頬をぱしんと叩く。いろいろあって気を抜きそうになったけど、目の前の戦いは油断ならない相手なのだ。それを再認識する。
作戦の細部を再確認し、明日に影響が残らないように寝床についた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
VR闘技場第二回戦第一試合――
【バス停・オブ・ザ・デッド】VS【聖フローレンス騎士団】!
戦場は廃棄された工場。その両端からのスタートだ。時間経過と共に回転する刃物のような機械が迫りくるという、ゾンビよりもそっちの方が怖いというステージである。ああもう、凝ってるなぁハンター委員会!
そんなプレッシャーの元、【バス停・オブ・ザ・デッド】四名と【聖フローレンス騎士団】の十名がぶつかり合う。向こうは少数精鋭で挑んできたらしい。下手に多数を導入すると
そしてその戦い方はというと――
「タンク役交代しました! フローレンスさんによる<聖歌>で回復しています!」
「キッツいデスネー。しかも隠密スナイパーと隠密罠師も潜んでマスからネ。それだけでプレッシャーデス!」
「ホント、戦い方を分かってるなぁ」
【聖フローレンス騎士団】の戦い方は、防御を固めた穴熊布陣だ。
回復能力を持つクランリーダーのフローレンスさんを守るように、半透明のシールドを持つ
防御役も複数用意してあり、防御力をガリガリ高めたガチタンクや閃光弾などでこちらの行動を封じながら守るバステタイプ。デコイを用意するかく乱タイプまでいる。
「クランリーダーを守りながら、本命は隠密組による攻撃。消耗戦を狙ってるね」
そしてただ守るだけではない。別動隊が陰に潜んでこちらの隙を見つけてライフルで狙撃してきたり、こちらの侵攻する場所にワイヤ―トラップを仕掛けてたり。迂闊に進めば狙い撃ちにされる形だ。
『はぅ……。音子、死亡しました。エヴァンスくんとコリンくん、すごいです』
隠密先行させていた音子ちゃんから通話が入る。情報面では<オラクル>で上をいく音子ちゃんだけど、罠とライフルのコンボにはどうしようもなかったようだ。
開始から十分経過。見事に【バス停・オブ・ザ・デッド】は相手のペースにはまり、停滞していた。
「OK! とにかく音子ちゃんはあの二人の位置を捕捉して、意識を向けさせて」
『でも、音子あの二人に勝てる自信ありません。きっとまた……』
「ダイジョブ、音子ちゃんは一人じゃないから!」
脳内で工場のマップを再現し、音子ちゃんが死亡した場所とその時の状況をイメージする。そして音子ちゃんの<オラクル>とレーダーによる敵の補足結果を代入し――
「福子ちゃんはこのルートで回って音子ちゃんの援護。二階の渡り廊下あたりに二人がいるから。浮遊ブーツであの重機伝ってあそこの鉄筋を進んで! 落ちたらお終いだから気を付けて。
ミッチーさんはこのルートで聖女様の脇を突く。途中回転刃物に巻き込まれそうになるかもだけど、そこは何とかしてね」
「あの鉄筋を渡るんですか……?」
「アウ……。あの回転刃物、見るからに痛そうで……少し興奮してきたデス!」
福子ちゃんは少しイヤそうに。ミッチーさんは少しうれしそうに同意する。作戦の内容は告げてある。それ以外に勝ちの道筋はない事も。二人は急ぎ、移動を開始する。
そして
「ボク、登場!」
――真正面から【聖フローレンス騎士団】の陣に挑む。バス停を手に、盾を持つ四名と聖女フローレンスさんの前に挑む。
盾ごしに撃ってくる弾丸を遮蔽物とバス停の時刻表示板を使って逸らし、受けきれない弾丸は体で受ける。流石にきついけど、ここが我慢のしどころ! 何とか<お調子者>のデメリットを押さえこみ、バス停が届く位置まで迫る――
「――
「イエス!
フローレンスさんの言葉と同時、彼女を守っていた者達が盾を捨て、槍を扱うかのように両手で銃剣を構える。なんですとぉ!?
「ハン、このボクに近接攻撃で挑もうなんていい度胸だね!」
「言いながら動揺は隠せないようですわね。盾の間合を想定して挑んできたのに、槍の間合に変わる。間合いの切り替えはすぐにできるかしら?」
強がる
「おそらく他のメンバーは遠回りをしてこちらの背後を突くように移動中のようですね。おそらくはガス使いのあのお方。密集する陣形にガス攻撃は最高の効果を発揮しますからね。
ですがたどり着く前に囮であるあなたを倒してしまえば問題ありません」
うわぁ、全部読まれてる。そしてここが勝負の分かれ目とばかりに、回復中のクランメンバーがやってくる。
近距離遠距離の包囲網。いざとなれば盾を拾って防御に戻ることもできる。
選択肢をいくつか用意し、主導権を握ったまま相手を追い詰める。
「――言いましたわよね、私。いずれ貴方達と雌雄を決すると。
真正面から貴方を下してこそ、その証。いざ尋常に勝負なさいませ。まさか多対一が卑怯、だなんて言いませんわよね」
「言ったな聖女様。このボクと正面勝負を挑むなんて、ね!」
やっばい。自分でも想像以上にワクワクしてるのが感じられる。これが
バス停を握る手に力がこもる。脳内で構築されていく乱戦のルート。どう体を動かし、どう攻めるか。コンマ一秒で全てを構築し、その時には体は動いている。
「
「いっくぞぉぉぉ!」
――後にVR闘技場十番名勝負に数えられる戦いが、始まった。
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