ボクは作戦を考える

【ダークデスウィングエンジェル零式】を襲撃したのは……『不死研究者』。

 その目的は洋子ボクのサンプルを作り出すこと。出来るだけ洋子ボクに近づけるために、戦闘データを収集している。【ダークデスウィングエンジェル零式】を襲ったのは、一度洋子ボクと戦ったことがあるものとぶつけ、データを保管すること。


「……つまり、VR闘技場でボクらが戦った相手が襲われる、ってこと?」

「デスネ。ファンたん弟クンが後回しにされたのも、直接戦ってないからとかそんな理由じゃネ? 口封じもあったかもデスガ」

「あの……ハンター委員会に報告した方がいいんじゃないでしょうか?」


 おずおずと音子ちゃんが手をあげて提案する。その言葉にミッチーさんは悩ましい顔をした。


「【ダークデスウィングエンジェル零式】が襲撃されたコトと、その後行方不明というのは言ってもいいと思うデスガ……『不死研究者』と『クローン』の件は黙ってた方がイイカモ」

「……そうですね。相手がどこまで影響力のある相手かが分かりません。最低限、ヨーコ先輩のクローンを作れる程度には技術と権力があるようですし」


 ミッチーさんの意見に頷く福子ちゃん。

 洋子ボクの遺伝子データーを持っているのは、ハンター委員会だ。クローン復活の為に、ハンター登録時に遺伝子情報を譲渡する一文を書かされる。その後血やら皮膚細胞やらをハンター委員会が採取する形である。

 少なくとも、そのクローンを作る部署から洋子ボクの遺伝子情報や細胞なんかを奪える立場なのは間違いない。あるいは洋子ボクのストーカーで、ごみ箱を漁って髪の毛とか血のついたモノを盗んだか。


(……後者の可能性は、怖いから考えないでおこう)


 不老不死を目指す研究者がそんなキモい真似をするとか、流石にヤダ。クローン技術を独自で有していることや、生徒に『命令』できる能力を持っていることを考えれば、前者の可能性が高いだろう。


「つまりハンター委員会に協力を仰ぐのはNGかぁ……」

「下手すると護衛とか調査とか称して『研究者』の息がかかったヒトが派遣されるデスからネ。っていうかワタシならそうシマス。シシシチューのムシとかすっとろい木馬とかソーイウヤツ」

「獅子身中の虫とトロイの木馬、かな?」


 ミッチーさんにツッコミを入れる洋子ボク。惜しいけど違う。


「つまり、頼れそうなのは事情を知っているメンバーのみか」

「無益な戦いを避けて逃げる、という選択肢もありますよ」

「ボクが逃げるとかそんな無様でカッコワルいコトするわけないじゃないか。福子ちゃん」

「ええ。そう言うと思ってました」


 戦わない、という選択肢を一蹴する洋子ボク

 ……まあ、逃げようにも逃げ場所はなさそうだしね。この島でゾンビがいない場所はなさそうだし、島から逃げる事もできそうになさそうだし。


「よっちーならあやめちゃんが保護してあげてもいいよ。よっちーがコッチに来たってわかれば、ガッコウの皆も狙われないんじゃない?

 ねー、よっちー。二人でだらだら過ごそうよー。スパっと人間やめて『不死アンデッド』にならない?」

「ならない。なったら遠慮なくボクを殺したり拷問したりするんだろうしね」

「んふふー。トリカブトのキスって刺激的なんだよ。ぜーったい癖になるから♡」

「それ、アルカノイドの向精神作用ジャネ?」


 一応選択肢として彷徨える死体ワンダリング側に頼るというのもあるが、そっち側にはこういった事情も含めて行く気はない。


「ボクのニセモノを作ろうだなんて、そんな大それたことできるわけないって教えてやる! 何せ洋子ボクは唯一無二のカワカワハンターなんだからね!」

「一応【ダークデスウィングエンジェル零式】の仇とか、六華祭を邪魔されそうになったとか、そう言うのも怒ってください」

「理由はどうあれの味方にならないでいてくれるのは嬉しい限りだ。連中に屈するとか言い出したのなら、即刻斬って捨てる所だったしな」


 間違いなく本気で斬るつもりだった八千代さんが、安堵の声をあげる。あっぶねー、冗談でも降参しようかとか言ってたら間違いなく切られれたぞ。会話の選択肢ミスって殺されるとか、どんなノベルゲーだか。


「で、具体的にどうするヨ? 連中にバス停の君の情報を渡さないのなら、バス停の君が闘技場に出ないのが一番デスケド」

「そんなのボクがつまらないじゃないか!」

「はい。洋子おねーさんはそう言うと思ってました」


 ミッチーさんの案を一蹴する洋子ボク。その反応にため息をつく音子ちゃん。


「真面目に言うと、それすると相手への情報を押さえられるけど、次の行動が分からなくなるからね。

 現状は事情を知らないふりをして、相手を誘い出すのが一番かな、と」


『不死研究者』が知らず、ボク等が知っていることとして彷徨える死体ワンダリングの存在がある。八千代さんが『ツカハラ』を受け継いだことや、AYAMEの存在を彼らは知らないはずだ。洋子クローンを倒したのは八千代さんだが、それで『ツカハラ』の件が露見しているとは思えない。


「つまり……何も気づいていない演技をして、次の襲撃を待つという事ですか?」

「そそ。ボククローンが襲撃したところを押さえて、それで何かの情報を得て、それからまた考えよう」

「……まあ、アリですネ。ぶっちゃけ、手がかりナシなので相手を探しようもないデスシ」

「次の対戦相手……。確か【聖フローレンス騎士団】……」


 音子ちゃんが神妙な顔をして呟く。

 自分が元々所属していたクラン。追い出されたとはいえ、色々世話になった人がいる場所。

 彼女からすれば色々思う所はあるだろう。


「あー、囮にするのは辛い?」

「…………はい。あ、いえ、気にしないでください。でも、音子が酷い目に合うならともかく、皆さんが酷い目にあるのは、やっぱり……」

「早乙女さんが酷い目にあるのは私達が耐えられませんが……。そういう気持ちなのでしょうね」


 音子ちゃんの頭を撫でながら告げる福子ちゃん。

 音子ちゃんの意見は理解できる。実際、洋子ボクだって聖女様は知らない仲じゃない。襲撃させる、とは言ったけど怪我をしてほしいわけではないのだ。

 上目使いでこちらを見つめる音子ちゃん。やめてほしいけどやめてと言えない。そんな顔だ。


「……まあ、一番の策である必要はないよね。成功率は下がるけど、この知的で素敵で無敵なボクにかかれば、それぐらいは些細な事さ!」

「わお、よっちーすごい自信。でもどうするの?」

「相手とは知らない仲じゃないからね。ちょっと協力してもらうのさ」

「などと言いながら、今のところはほとんどノープランなので過剰な信頼は禁物ですよ」


 胸を張る洋子ボクに、呆れたようにため息をつく福子ちゃん。

 ……気付かれてたか。


「ケド協力してもらえるならそれに越したことはないデスネ。勢いで言ったにしてはナイスなアイデアです」

「……はい。エヴァンスくんは、思い付きの考えだとしても、きっと納得してくれます。音子は、信じてます」

「あーね。でもうじうじ悩むよりはがーっと行くのもアリアリ! よっちー、どんまい!」

「拙速は巧遅に勝ることもある。戦に置いて時間は千金だ」


 フォローなのか追撃なのかよくわからない言葉が飛んでくる。確かに勢いとか思い付きで言ったけど、その、そこは言わないでいただけると洋子ボクとしても……。


「まあ、そういうこと! 明日の試合まで時間がないんだ。急いで行動するよ!」


 こうなったら勢いだ。このまま突っ走っちゃえ。どうにかなるさ!

 かくして、洋子ボククローン迎撃作戦は勃発したのであった。

 

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