ボクは完全勝利する
病院二階。
強大なパワーを持つゾンビの襲撃で崩壊した病院。そんな設定なのか、建物内は瓦礫とゾンビが溢れかえっている。多数の瓦礫でまともに歩く足場も少なく、安定した足場にガスを撒くことで相手の動きを制限できる。
「炎は全てを燃やし尽くす。原初の生物である龍が持ちし炎の吐息。それをここに再現しよう!」
「生物学的に生命の起源は未だ決定されたないデスけどね」
「
「オウ、シュレディンガーの猫理論デスネ」
「音子、ネコさんを殺すお話嫌いです」
そんな会話が二階の廊下で交わされていた。だが、目視できるのはミッチーさんだけだ。他のハンターは皆闇に紛れ、音を消して動いている。
廊下はミッチーさんの冷凍ガス『EFB』――エターナルフォースブリザードと、四谷君の高温ガス『HCD』――ホーリークリムゾンダークネスで充満している。……ガスはそう言う名称でもつけないといけないというルールでもあるのだろうか?
とまれ、二種類のガスが入り混じる廊下。まともに歩くことも難しい環境だ。
だが、ミッチーさんは<ドクフセーグ>がある。あらゆるバッドステータスを無効化する化学防護服の前にはHCDの燃焼効果も意味を成さない。故にガス攻撃はいたずらに【ダークデスウィングエンジェル零式】の動きを狭めるだけ――というわけでもない。
(EFBばら撒いても、アッチ側の動きは健在デスネ。やっぱり何かしらの対策してきてるネ。日本のことわざでいう所の、確定的に明らかデス)
【ダークデスウィングエンジェル零式】……というよりは和馬君はミッチーさんのガスのことを知っている。それは当然クランに話しているだろうし、その対策を施すのは当然と言えよう。
なのでガスは決定打にならない。
なのにミッチーさんはガスの噴射を止めない。
それが――無駄ではないと知っているから。
(
(こちらが対凍結用の装備を持っていることに気付いていないのか?)
(ガス兵器の開祖ともいえるほど頭がいい上に、兵器運用のマニュアルまで仕上げたと聞いたが……。実戦経験は浅いという事か)
【ダークデスウィングエンジェル零式】の隠密部隊は通信機越しに相談しながら、ミッチーさんへの包囲網を狭めていく。<ドクフセーグ>はガスを完全遮断するとはいえ所詮は防護服だ。物理的には高い防御力を持っていない。射程距離まで近づき、銃弾を叩き込めばそれで終わる。
――だが、それは【ダークデスウィングエンジェル零式】も同じことだ。
(――『闇刃』の反応消失! 一撃死だと!?)
(スナイパーのヘッドショットか!? いや、【バス停・オブ・ザ・デッド】にスナイパーはいなかったはず。臨時で雇ったかの――何っ!?)
(――『夜鴉』の反応消失! 暗殺効果――
きづいた時には、もう遅い。猫は足音なく背後に迫り、古ぼけた銃を脳天に当てて引き金を引く。
(ばら撒いたガスの隙間を移動してきたというのか……!? あんな細い隙間を!)
(
【ダークデスウィングエンジェル零式】がミッチーさんの『EFB』を知っていることはこちらも知っているし、その対策を立てる事も知っている。
同時に【ダークデスウィングエンジェル零式】も毒ガス対策にミッチーさんの<ドクフセーグ>を宛がう事は予想できたはずだ。
となれば、互いにガスは囮。そこからどう戦略を立てるかだが――
『隠密を得意とするチームに、隠密勝負で勝つ!』
『これこそ、完全勝利だよね!』
試合開始前に
そして【バス停・オブ・ザ・デッド】の調査兼隠密担当の早乙女音子は、クランメンバーからの期待という圧力を感じながら、
「は、はひ……。お、音子頑張ります……!」
半泣きになりながらも、確かにそう言って頷いた。
かくして作戦は決行された。そして試合は――
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「第一試合終了! 勝者――【バス停・オブ・ザ・デッド】!」
仮想世界から覚醒し、勝利の言葉を受け取る
「点数はなんと120:0! 【バス停・オブ・ザ・デッド】は誰一人倒されることもなく【ダークデスウィングエンジェル零式】を下しました!
そしてMVP! もっとも点数を稼いだのは、早乙女音子さん!」
「ひゃうぅ! ああ、あああああ、あのあのあのあの!」
突然当たるスポットライトに困惑する音子ちゃん。こういう称賛を浴びることに慣れていないのか、テンパり具合も半端ない。
「その、音子は洋子おねーさんの言う通りに動いただけで。だから音子はそんなにすごくなくて、だから」
「違うよ。ボクは指示を出しただけで、その通りに動けたのは音子ちゃんの努力の結果だから」
自分は偉くない、とネガティブに陥りそうになる音子ちゃんの肩を掴んで、はっきり言い放つ。
「ええ、そうですとも。あのヨーコ先輩の超過激スパルタな訓練に耐えて、かつ完全勝利という名目で負担をかけられたのにそれを乗り越えた。お見事ですわ」
「ソーソー。だいたいあれだけ密集したガスの間をほぼノーダメですり抜けていくとか、どんだけ」
「あうあうあうあう。……はい」
福子ちゃんとミッチーさんの言葉を受けて、頷く音子ちゃん。そしておずおずと手をあげて、スポットライトに応えた。同時に湧き上がる万雷の拍手。それがこの戦いで皆が感じたハンターへの敬意を示していた。
「負けたよ」
やってきたのは【ダークデスウィングエンジェル零式】のクランリーダーだ。清々しいほどさわやかな笑顔を浮かべ、こちらに手を差し出している。負けた悔しさはあるだろうが、それを表に出さずに
その手を掴み、握手しながら言葉を交わす。
「こちらの作戦を見事読み取るとはな。これでも軍師としては自信がある方だったのに。陰に潜む闇の手にして三国一の智謀の使い手であるこの私の上をいくとは」
「
どうやらクランメンバー全員が<厨二病>らしい。というかあのクラン名についていこうというのだから、そういう事なのだろう。
「ま、ボクが強すぎるだけだよ」
胸を張って言い放つ。相手が困った顔で苦笑しているけど、気にしない気にしない。
なお、相手の戦術が読めた理由は『
「大した自信だな。うぬぼれでない事を祈ってるよ」
「ボクの実力はぶっちぎりで優勝して証明するよ。キミ達が最初にボク等と戦えたことが誇りと思えるぐらいにね。ボク等の活躍、ゆっくり見ててよ!」
握手した手を離し、軽く握って突き出す。相手もその意図を察したのか、握った拳を
その光景に、再度拍手が沸き上がった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
結果として、【ダークデスウィングエンジェル零式】は次の【バス停・オブ・ザ・デッド】の戦いを見ることが出来なかった。
その夜のうちに、【ダークデスウィングエンジェル零式】のメンバーは一人を除いて行方不明になってしまったのだ。
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