VR闘技場と蠢くモノ

ボクは中二病じゃないのでよくわからない

 六華VR闘技場第一回戦――

【バス停・オブ・ザ・デッド】VS【ダークデスウィングエンジェル零式】!


「……成程。見事です」


 厨二病な福子ちゃんは相手チームを見て、真剣に頷いた。色々感じる所があるのだろう。

 なお、対戦相手のチーム名を見た時は、


『ダークでデスウィングなエンジェルの零式。天使と言う光をダークと言う闇で染める事で光と闇を交えた二重螺旋を醸し出し、その間にデスという空虚かつ終わりを巻き込むことでエッジを利かせ、ウィングが次のエンジェルに対して違和感なく融合している。

 それだけにとどまらず零式という初号機――あるいは試作品を思わせる漢字を入れる事で、破壊の後の再生という一つのテーマを含んでいますね。つまりこれは光と闇による破壊の後の世界の再生! 深いですね』


 とまあ、想像以上に共感してた。そっかー、そういうものなのかー。

 そして相手チームは判で押したかのような黒い学ランだ。軍人学校の氷華と天才学校苺華の違いこそあるが、速度重視&暗いステージ内での隠密成功率増加という奇襲特化型な構成だ。


「クール且つダークな学生が、夜になると死をまき散らす天使となる。敵ながら見事です」

「福子ちゃんそろそろ戻ってきて」

「はっ! すみませんヨーコ先輩。相手のちゅうに力に圧倒されてました」

「何その謎パワー?」


 何やら洋子ボクには理解できない何かがあるらしい。

 VR世界に入る用のヘッドギアをつけ、専用のベッドに横たわる。着ているのは狩りの時に着る橘花学園制服と赤マフラー。そしてバス停。仮想世界に行くのでわざわざ持ってくる必要はないけど、周囲へのアピールと気分の問題だ。


『仮想空間での戦いなので意味はないんだけど、周囲に分かりやすいように狩り装備で来てくれると助かるかな』


 と、言ったのはハンター委員会会長の小鳥遊だ。この闘技場はハンターの宣伝も兼ねているとか。上の人は色々大変だね。


『プログラム起動。ステージ:ホスピタル。対戦モード、開始します』


 落ちていくような浮遊感。睡魔に似た軽い落下の感覚のち――目の前には夜の病院の光景が広がっていた。ここで戦えという事らしい。


「全員いるね。そんじゃ、作戦通りいくよ!」

「この『吸血妃ヴァンピーア・アーデル』の実力、とくと見せてあげますわ」

「うぃうぃ。派手に行くデスヨ!」

「はい。音子は地味ですけど頑張ります」


 スタート場所は病院エントランス。表示には西棟受付と書かれてある。西館と東館に分かれている病院で、棟のエントランスを繋ぐ廊下は崩落した天井により分断されている形だ。おそらく東側に相手クランがいる形だろう。

 表に出て病院の外を通って東棟入り口に回り込むか、階段を上がって二階から進むか。そんな二択だ。そして外にも二階にもゾンビがいる、という戦場だろう。

 音子ちゃんとミッチーさんは二階から。この二人は密室内及び隠れる場所が多い方が選択肢が広がる。そして洋子ボクと福子ちゃんは病院外に。福子ちゃんは浮遊ブーツのおかげで縦横無尽に動き回れる戦場が持ち味を発揮できる。


「いっくぞー! 目指すは完全勝利!」


 宣言と共に扉を開けて病院の外出でる洋子ボク。夜空の駐車場と、そこに蠢くゾンビ達。救急車を始めとした車が遮蔽物となり、射線は狭い。少なくとも見える限りは、【ダークデスウィングエンジェル零式】のメンバーは見えない。


「冥府に行けぬ死にぞこないと闇に潜み暗殺者アサシン達に告げる。今宵は宴、サバトの時! 汝らの血を『吸血妃ヴァンピーア・アーデル』捧げるがいい!」


 あ、福子ちゃんノリノリだ。

 そんな言葉に応えるように、姿なき声が聞こえてくる。


「血を捧げるは汝なり。影は速やかに死を運ぶだろう。永劫なる死天使の翼を垣間見よ」

「闇こそ我が領域。それに踏み入った無礼と無知を、今は許しましょう。儚き命散る血花の美しさに免じて……。せめて『吸血妃ヴァンピーア・アーデル』の戦果をを彩る景色となれ」

「夜の天秤は等しき哉。死は平等に訪れる。終わりは全てを約定する。貴族も奴隷も皆ゼロの前では等しくちり芥。みなごろしの烙印をその身に刻むがいい」


 そんな会話の後に、福子ちゃんはふっ、とほほ笑んだ。


「敵ながら見事……! 相手は油断なりません。ヨーコ先輩、気を付けて!」

「今の会話でむしろ気がそげたんだけど。もしかしてボクにはわからない応酬でもあったの?」

「ええ。一歩気を抜けば彼らのオサレに飲み込まれてしまいそうな、そんな刹那の戦いでした」


 よくわからないけど、そういう事らしい。

 まあしかし彼らが福子ちゃんと同じ<厨二病>のスキルを有するなら、この会話時間というデメリットと引き換えに攻撃力が上がっているのだから、侮っちゃいけないのは事実である。


(……まあ、よくわからないけどよくわかった)


 周囲のゾンビを駆逐しながら、同時に彼らが隠れて居そうな場所に当たりをつける。彼らが隠密による襲撃……福子ちゃんの言葉を借りるなら暗殺者というのなら、今はゾンビに武器を向けている洋子ボクの隙を狙ってくるはずだ。

 誘うように、半身動かして隙を作る。黒塗りの車の影。そこに隠れている『何か』からすれば格好の隙だ。


「隙あり! その首貰った!」


 黒の学生服。宣言と同時に【ダークデスウィングエンジェル零式】の一人がナイフを放っていた。不意打ちであるならば、対応できずに言葉通りに首を貫かれていただろう。隠密のレベル。投擲の正確さ。全てにおいて高水準だ。

 だが、洋子ボクはそれをバス停で弾く。一瞬だけ交差する互いの視線。事前に確認した【ダークデスウィングエンジェル零式】のクランリーダーだ。ナイフが弾かれることは想定内だったのだろう。投擲と同時にこちらに迫り、地を這うように体を低くして洋子ボクに迫る。

 目視はできないが、手のひらにナイフを隠しているのだろう。不意討ちからのナイフ投擲――それをあえて防がせての接近戦による攻撃。それが必殺パターンなのか、動きに無駄がない。ソロでゾンビを狩っても、いい所まで行けそうな熟練度だ。

 一秒も経たないうちに彼はこちらに肉薄するだろう。ナイフの防御に使ったバス停を立て直すのにコンマ三秒。洋子ボクは迎撃するために向き直――らない


「そこだぁ!」


 態勢を整え直した洋子ボクは、躊躇なく少し離れた茂みに向かって走り出す。そして全力でバス停を振るった。

 ――そこに隠れていた、【ダークデスウィングエンジェル零式】の一人が洋子ボクの一撃を受けて動きを止める。相手が態勢を整え直す前に体を回転させブレードマフラーによる一撃を加えた。耐久度HPがなくなったのか、光の粒子となって消えていく。

 それを確認するより早く、洋子ボクは次の場所に向かう。隠れて居そうな場所には当たりを付けている。


「なにぃ!? 気付いていたのか!」

「とーぜん! 一人が敢えて見つかって囮になり、他の隠れてる人を隠す。そんなの基本中の基本だよ!」


 クランリーダーが敢えて『不意打ち失敗&接近して時間制限を与えて判断力を乱す』と言ったことをしながら、同時に他のメンバーは不意打ちの為に周囲に展開する。リーダー自らの不意打ちと言う高水準の技術を捨て札にし、本当の刃を隠す。

 敵ながら見事だよ。洋子ボクを難敵とみなして二重三重の罠を仕掛けたのだ。その判断は間違ってない。ただ――


「相手が悪かったね。ボク以外なら引っかかっていたかも!」

「くそっ!」


 数名の仲間が倒され、立て直しは不可能と悟ったのか【ダークデスウィングエンジェル零式】の一人がボール状の何かを投擲する。地面に転がると同時に白い煙幕を噴出し、洋子ボクの視界を奪っていく。


「わぷっ、煙幕か……。でもま」

「愚かなり。夜を統べる『吸血妃ヴァンピーア・アーデル』の魔眼からは逃れられぬと知りなさい」


 電灯の上に足った福子ちゃんがコウモリを放ち、逃げる【ダークデスウィングエンジェル零式】を追撃していく。……あの、魔眼じゃなくて、単に高い場所から見てるだけだからね。

 ともあれ、福子ちゃんのコウモリが煙幕から出てきたハンター達を、次々と傷つけていく。


「圧勝! 完全勝利に一歩近づいたね!」


 煙幕が晴れれば、死屍累々。この場にいた【ダークデスウィングエンジェル零式】は皆倒れ、光の粒子となって消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る