ボクらの学園祭はこれからだ!

「話を戻すと……我らがわざわざ訪れた理由はに関する情報を得たからだ」


 八千代さんが言う『奴ら』と呼ぶ存在。

 かつてこの御羽火おうか島で不老不死を研究していた研究者達。

 死なない、という事を証明する手段。それは死ぬほどのことをしてそれでも生きていれば証明される。研究だから一度で終わるはずがない。再現性を求め、何度も何度も『証明』していたはずだ。

 その結果生まれたのがAYAME達『不死アンデッド』。洋子ボクらが彷徨える死体ワンダリングと呼ぶ者達だ。

 彼らは島ぐるみでその研究を行っており、洋子ボク達が通う六学園も研究の実験動物モルモット的なモノらしい。魂や遺伝子まで管理し、それを通して生徒達に命令をできる……らしい。らしい、というのはその命令は洋子ボクには効かないからだ。


(彼らにとって、洋子ボク達の命はデータでしかない)


『奴ら』は六学戦の生徒を滅ぼそうとするつもりはない。その気があるなら、生徒全員に自殺命令を出せばいいのだ。かといって、生徒達を助けるつもりもない。そのつもりがあるなら、既に何らかのアクションはあるはずだ。それに――


(ユースティティアを操っていた、ってことは少なくともゾンビでハンターを殺すことに抵抗はない、って事だもんね)


 殺すことはないが、生かすつもりもない。真綿で首を締める用にじわじわと精神的な圧力をかける。それもまた彼らの『実験』なのだろう。


「奴ら……不死の研究をしている人達のことでいいよね?」

「うむ。綾女殿から聞いたが、犬塚殿を操ろうとして叶わなかったそうだな。となれば連中の注意はまず犬塚殿に向くだろう。

 そして犬塚殿を経歴などを調べることは容易なはずだ。何分、犬塚殿はかなり目立っているからな」

「「「「……あー」」」」


【バス停・オブ・ザ・デッド】の面々は、同時に呻いた。動画を始めとして洋子ボクの話題は事欠かない。

 それ以前に彼らは洋子ボクが所属していた学園も理解していた節がある。個人情報も含めて、知られている可能性は高いと見ていいだろう。

 つまり、情報面では丸裸なのだ。


「ってことは、いつ仕掛けられるかわからないって状況?」

「そーでもないわ。、超臆病なの。百パー勝てる勝負じゃないとすぐに逃げるの。

 よっちーが操れない理由が分かるまでは、本気で攻めてこないと思う」


 洋子ボクの問いに応えるAYAME。

 勝てる勝負しかしないタイプ。逆に言えば、事前準備を怠らないタイプだ。相手の切り札を見極め、確実に相手を追い詰めていく知性派。退路を塞ぎ、包囲していくオオカミ。


(ボクが操れない理由は転生者って事で、それは福子ちゃんしか知らないわけだし。魂が見えるとか言うAYAMEも、詳細までは理解していないはず。そもそも、ゲーム転生したとか想像できるわけないし。

 ……割と安定じゃないかな、これ?)


 洋子ボクが操れないのは、犬塚洋子の魂に僕が混じっているからだ。

 犬塚洋子の魂と遺伝子を操作する彼等の方法では、ゲーム転生した僕を操れない。

 そしてゲーム転生なんて僕自身『いや、何でなのさ』と受け入れながらも納得できないのだ。そんな理不尽な理由など想像すらできないだろう。


「なので、今はよっちーを調べてる感じっぽい。言ってもどんな奴がでどういうふうに調べるかは全然わかんないんだけど」

「それは……狙ってるかも、って以外は全然わかんないってことだよね」


 AYAMEの言葉をかみ砕き、好意的に解釈しようとしたけどこれ以外に言葉はなかった。


「恥ずかしながらその通りだ。犬塚殿の目で見て、以前と変わった視線や気配を感じる事はなにかないか?」

「あるよ。始終ボクに向けて抜刀したがる戦闘狂が現れたんだ」

「はっはっは。人生長く生きていればそういう事もあろうよ」


 八千代さんの問いに、即答する洋子ボク。笑ってごまかしやがったよ、このヒトキリ女。んなもんそうそうあってたまるか。

 目を逸らす八千代さんを見ながら、思い当たることがないかを考える。


「変わった気配……というのとは違うけど――調べられることが増えたのは確かかな」

「ほう?」

「VR闘技場に出場することが決定してから、他クランが【バス停・オブ・ザ・デッド】を調査することは多くなったと思う。今までは結構舐められていた部分はあったけど、そう言うのなしで調べられている感じ」

「そうですね。動画の特集も結構増えてました。VR闘技場に参加する16チームの情報を纏めたサイトもありますし、各クランの参加者インタビューも出そろっています」

「ま、あくまで動画や書類上の情報ネ。実際に話したり戦ってるところ見ないと分からない事はたくさんあるデスよ」


 それだけこのVR闘技場には興味があり、最強のクランはどこかというのはハンターやそうでない者も注目しているという事である。


「どのクランが犬塚殿の事をよく調べている、とかはわからぬか」

「わかんないね。

 そもそもボクはキュートでプリティでセクシーなんだから、調べられても仕方ないしさー。困るわー。ボク、カワイクて困るわー」

「サスガー、センパイカワイイデスネー」

「……ごめん、棒読みされると割とショック」


 福子ちゃんの冷たい視線プラス棒読み返答に、頭を下げて謝罪する洋子ボク。まだスルーしてくれる方がダメージが少ない。


「やはり分からぬか。然もありなん。後手になるが出たとこ勝負と行こう」

「けっ。結局ここまで来て無駄足か。出張ることはなかったんじゃねーか」

「……そんな事、ない。直接彼女達の『音』を聞いて、ウソがないことと、既に操られてないことが分かった。それだけで、成果がある」

「確かに間抜け面を確認できたのは大きいな」


 八千代さんのため息に反応するカオススライムとナナホシ。


「このきゃわわなボクの顔の何処が間抜け面だって?」

「カオス殿は細胞と遺伝子の方向性から、ナナホシ殿は『声』からの汚染を受けていないかを診てもらったのだ。

 なので口が悪いことに関する罰則はそれぐらいで許してもらえないか」


 カオススライムを雑巾のようにねじる洋子ボクに対し、八千代さんが止めに入る。どうやらこの二体の役割は、洋子ボク達が不死研究者に操られていないかどうかの確認の為のようだ。


「動くかどうかわかんないはオマケオマケ! ガクサイ楽しもうよ!」


 話がひと段落したのを確認したのか、あっけらかんと答えるAYAME。AYAMEからすれば、本当に『奴ら』のことはついでだったのだろう。


「ボクからすれば、オマケで済ましていい問題じゃない気がするんだけど」

「ダイジョブ! 何かあったらあやめちゃんが守るから!」

「む。先輩のサポートは私の役目です」

「回るとするならどう回るかデスネ。時間的には内回り線で光華で動物を愛でにいくか、外回りで柊華の超能力アイドルライブを見に行くカ」

「あ、音子は動物触りたいです」

「そんじゃ、内回り線ルートでけってーい!」


 奥義問題作送りで、不死研究者の事はとりあえず置いておく。AYAMEの言葉ではないが、動くかどうかも分からないのだから、気にするだけ無駄だ。

 音子ちゃんの言葉で動き出す洋子ボク達。早速駅に向かい、学園を繋ぐ環状線に乗って各学園に遊びに行く。夜になればゾンビとの戦場になる場所も、昼間は学園生徒がダベる憩いの場だ。


「時々思うんだけど、ゾンビ達って昼間何してるんだろ?」

「基本的には地下に居るよ。日光に当たるとウィルスの効力弱っちゃうからねー」


 何とはなしにつぶやいた言葉に反応したのは、以外のもAYAMEだった。

 そう言えば、彼女はウィルスパワーで不死なのだ。ゾンビウィルスに関する見識は洋子ボク達よりあってもおかしくはない。


「日光で弱まるって、吸血鬼かよ」

「パパが言うには、太陽光とかの環境変化でウィルスの活性が様変わりして肉体が変異するんだって。。基本的には夜間の環境条件が一番安定するみたい。それを本能で察してるんじゃね?

 あやめちゃんはその辺を一億パーコントロールできるから問題なっしんぐ!」

「よくわかんないけど、太陽を浴びると死ぬ……アイツラ死んでるけど……とかじゃなくて、ウィスルがどう反応して体が変わるかかわからないから隠れてるって事?」

「そそ。あの天秤女……っていうかはゾンビの遺伝子に『命令』して、変化を止めてたとかそんな感じ」

「遺伝子に命令とか、ホントわかんない」


 なんだかなぁ、と思いながら内回り線に乗り込む。心地良い揺れと共に、電車が動き出した。

 目指すは光華学園。先ずは動物で癒されますか。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その日と次の日は、【バス停・オブ・ザ・デッド】&彷徨える死体ワンダリング四体と共に学園内を遊びまわった。

 光華学園で超もこもこした巨大羊に抱き着いたり。

 氷華学園で超高難易度な軍隊式アスレチックに挑んだり。

 苺華学園で疑似デスゲームな脱出ゲームで死ぬほど殺されたり。

 櫻華学園で様々な僧侶や騎士のコスプレをしたり。

 柊華学園で超能力アイドルライブで感動したり。

 ……橘華学園で洋子ボクのメイド喫茶で、オムライスに『美味しくなーれ光線びーむ。萌え萌えっ、きゅーん♡』して、福子ちゃんとAYAMEが大爆笑したり。ちくせう、こういう時だけ仲いいなキミら!

 楽しい時間は矢の如く。そして六華祭三日目。

 六華VR闘技場の開幕だ――

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