ボクらは互いににらみ合う

「会場の皆様お待たせしました。ただいまより、第一回六華VR闘技場、抽選を行いたいと思います。

 司会進行は僭越ながらら、ハンター協会委員長の小鳥遊が務めさせていただきます」


 ハンター委員会会長の小鳥遊の言葉と同時に、会場から割れんばかりの拍手が巻き起こった。

 最強のハンタークランはどこか?

 ゾンビハンターとして学園を護っているハンター同士の戦いはご法度である。……まあ、昨夜思いっきりそれに反することが起きたわけなんだけど、それはともかく!

 ハンターの強さはハンターランク等、ハンター委員会を通して公開されてはいるがそれはあくまで数値だ。端的に言えば、ハンター委員会の物差しでの話だ。実際に自分の目で見てこそ、実感できると言うものである。

 夜に出没するゾンビに怯え、日本本土とも連絡は取れず、怯えるように過ごす六学園の生徒。その不満を解消するという名目もあるのだろう。そしてハンター同士の戦いを見たいものは、学園生徒だけではない。


「俺達【アイアンヤマアラシ】の銃撃戦に勝てると思うなよ」

「おおっと、【ナパームマジシャン】の罠をかいくぐってからそれを言うのだな」

「はっはっは。【フランケンズ・ブライド】の頑強さは全てを踏み荒らすぜ!」


 各クラン――ひいてはそのハンター達も己の強さを誇示している。

 ここにいるクランは日々はゾンビと言う人外の存在相手と戦い、生き残った者達だ。己の戦術に自信がないわけがない。他クランと挑発とも取れる軽口を交わしながら、同時に火花も交わしている。


「おーおー。派手ににらみ合ってるなぁ」


 そしてその視線が集まっているクランはというと――


「はン! 言ってろ【バス停】の。テメェを倒して名をあげてやるぜ」

「しかし一六位とはな。少人数ゆえの火力不足。そこが弱点か」


【バス停・オブ・ザ・デッド】とそして――


「最強チームで参戦とはな。やる気満々だな」

「神原本人が出てくるか。お手並み拝見だ」


 ハンター委員会が『最強』と認めたハンタークラン【ナンバーズ】――

 その代表である神原刹那が、洋子ボクに話しかけてくる。


「予選の戦いは見た。他のクランを見捨てれば、お前達の独壇場だったな。流れによってはこちらを抜いて一位を独占できただろう」

「誉め言葉として受け取っておくよ。でもまあボクとしては十六位程度のクランと侮ってくれた方が楽なんだけど」

「戯言だな。ここにいるクラン全員、【バス停・オブ・ザ・デッド】をただの小規模クランとは思っていない。強豪の一翼と認識している」

「あら残念。油断してくれれば隙も付けたんだけどな」


 神原の言葉はウソではない。洋子ボクに向けられる目線は強く鋭い。雑魚は帰れと言ってくるようなテンプレ三下なクランは予選でふるい落とされている。

 予選時に同じ戦場で戦ったクランも、こちらに相対する敵クランと言う視線を向けている。予選では励まして共闘し感謝の言葉を告げられた仲とはいえ、仲良しこよしと行かないのが勝負の世界だ。

 上等だ。むしろそうでなければ意味がない。


「それではくじ引きを開始しましょう。予選順位の低いクランから順番にくじを引いていきます。

 先ずは現在人気急上昇! ハンターランク100未満ながら個々の実力はトップクラスのハンター達。先の北区警察署戦ではユースティティアを倒した功労者!

【バス停・オブ・ザ・デッド】です!」


 会長の哨戒と同時に前に出る洋子ボク。湧き上がる拍手と注目の瞳が、思わずきゅんきゅんする。


「いやはや。大人気だね」

「ま、当然の結果だよ。時代がようやくボクに追いついてきたのさ」

「はっはっは。闘技場でそれを示してほしいものだね」


 会長とそんな会話を交わした後に、首の入ったボックスに手を入れる洋子ボク。ほい、と適当に指に触れたボールを掴み取る。そこに赤く書かれた番号は――


「一番! 【バス停・オブ・ザ・デッド】の枠は一番です! 初戦から大注目の戦いとなるのでしょうか。では次は――」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「トーナメント表が決まったところで、改めて今回のVR闘技場の大会ルールを説明させていただきます。

 解説は会長に変わって、井口が務めさせていただきます」


 壇上に上がったのは、眼鏡秘書属性の井口さんだ。


「対戦するクラン同士、試合ごとにランダムに選択されたフィールドで戦ってもらいます。フィールド内にはゾンビやフィールド特有の罠があります。また、時間経過ごとにフィールドは崩壊し、移動不可になります。崩壊の際に巻き込まれたハンターはどのような状態であったとしても倒された扱いとなりますのでご注意ください」


 よくあるFPSのフィールド崩壊ルールだ。戦場を狭めていき、戦いがダレないようにする処理である。これをやらないと、スナイパー同士が延々とにらみ合う事になりかねない。

 ……まあ、フィールドにゾンビがいるのは流石『AoD』と言うべきだろうか。実際に闘技場が実装されればそう言う仕様になっていたのかもしれない。


「各ハンターの装備はVR模擬戦に準じます」


 ハンターの装備加工はハンター委員会に登録された場所でしかできない。そこで行われた加工はハンター委員会に送られ、データとして保存される。VR空間での強さは、それを参照にしているようだ。


「勝敗ですが、両クランは一定時間フィールドで戦ってポイントを稼ぎ、最終的にポイントが多いクランが勝ち残ります。

 ポイントは相手クランのハンターを倒せば一律50ポイント。相手のクランリーダーを倒せば200ポイントとなります。クランメンバーが倒された場合、クランは同数の点数を失います」


 単純なポイント制だが、色々と考える所はあるルールである。

 先ず『ハンターを倒せば』と言う所がポイントだ。加点方法はあくまで相手ハンターを倒すだけ。フィールドに存在するゾンビを倒しても点数にはならない。となれば相手クランのハンターをどう倒すかが主眼になる。

 じゃあゾンビを放置していいかと言うとそうでもなく、『クランメンバーが倒された場合、クランは同数の点数を失います』と言う文言。『相手ハンターに倒された』ではなく単に『倒された』とあるという事は、ハンター同士の戦い以外にも倒される可能性があるという意味である。

 そしてクランリーダーの200ポイント。ハンター四人分の価値があり、率先して狙いたいポイントだ。リーダーを守りつつ、ポイントを稼ぐか。あるいは囮にして相手を誘い出すか。クランごとに戦術は変わるだろう。

 

「倒されたハンターは各クランのスタートポイントから、二回まで復帰可能です。状態異常などはすべて解除された状態での復帰となります」


 そして復活ルール。復活可能、とあることは復活しない事を選んでもいいことだ。相手との相性が悪い場合などは、復活せずに待機しておくほうが有利になることもある。

 復活回数は二回。つまり三回目で復活不可能となる。何度も復活できるなら、それこそ自爆特攻とかやられかねない。


(単純だけど、わかりやすさを重視したルールかな。戦いを見せる事に趣を置いたルールだね)


 見る人に分かりやすく。そんな感じだ。


「――以上で説明を終わらせていただきます。それでは」


 一礼して説明を終える井口さん。

 壇上のクランリーダーたちはルールを脳内でリフレインさせながら、やる気だか闘気だかそう言ったものをぶつけあっている。ぶつける相手はトーナメントの相手と、強豪と呼ばれるクランに対して。洋子ボクにも幾ばくかそう言ったものが飛んできている。

 だが、一番強く感じるのは――第一回戦での相手だ。


「…………」


【ダークデスウィングエンジェル零式】――そのクランリーダーである四谷和馬。

 眼鏡の奥に闘志を燃やし、洋子ボクと目が合うと背筋を伸ばして小さく頭を下げた。正々堂々戦いましょう。言外にそう伝わってくる。


(真面目で努力家で才能があって、尊敬できるおっぱい属性金髪先輩がいて、陽キャな姉がいて、しかも厨二入ってて。

 ……あっちの方がラノベ主人公ぽくね? 洋子ボク一回戦で負ける当て馬存在っぽくね?)


 そんなことをなんとなく思うのであった。 

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