六華祭開催!

ボクは予選の結果を確認する

【バス停・オブ・ザ・デッド】……十六位!


『化けの皮が剝がれたな』

『所詮クラン規模100に達していないクズクランだからな。むしろ予選突破できたのが奇跡だ』

『女四人で何が出来る』

『っていうかバス停はないわー。もうバス停飽きたわー』

『やっぱり【ナンバーズ】一強だな。あとはドングリの背比べ。大きく離れて最後にバス停w』


「手のひら、くるんくるんだねー。もう笑っちゃうよ!」


 洋子ボクが見ているのは、ネットの記事。先日行われたVR闘技場予選の結果発表の記事だ。

 戦場に現れたドラゴン。そのドラゴン相手にいかに傷つかずにダメージを与えたか。仮想空間内で各クランが入り乱れての戦い。そんな見出しの後に、クラン順位が乗せられている。

 一位は堂々と差をつけた【ナンバーズ】だ。硬いタンク役。足止めするサブマシンガン部隊。トラップを仕掛ける部隊。スナイパー部隊。そのどれもが学園最高峰だ。巨大なゾンビに対する対策がばっちりされており、納得の一位である。

 そして二位以下はほぼ団子状態。少しでも何か別要因が重なれば、これら順位は大きく逆転していただろう。それぐらいの接戦だ。

 そして――洋子ボクら【バス停・オブ・ザ・デッド】は十五位から頭一つ抜かれた数字だ。


「ま、しょうがないネ。点数がダメージ量で決まる以上、火力低いワタシ達があの状況で追い抜かれるのは」


 洋子ボク達が十六位に収まったのは、ミッチーさんの言う通り。単純な火力と言う意味では、【バス停・オブ・ザ・デッド】はそれほど高くはない。人数差もさることながら、使用武器がバス停にブレードマフラー、コウモリ眷属、毒ガス、暗殺用の単発銃ときた。サブマシンガンの一斉掃射などに勝てるわけがない。


「あそこまで全クランが一斉射撃できたのは、ヨーコ先輩が的確に指示してくれたからなんですけどね。あと発破もかけましたし」


 肩をすくめる福子ちゃん。

 ドラゴンの動きを封じるように展開し、皆に指示を出したのは確かだ。常に動き回ってダメージを与えることで巨体のアドバンテージを封じ、攻撃の的を絞らせない。そうしなかったら、かなりこちらもダメージを負っていただろう。

 そして委縮していたハンター達を鼓舞し、戦線に復帰させたのも洋子ボクだ。


「まあ、その方が面白そうだったし。皆で戦ってる、って感じがよかったじゃん!」

「その人たちが私達よりも点数を取って、私達は一気に追い抜かれてギリギリ予選突破なのですが」

「…………そういう事も、あるよね」


 福子ちゃんの追及に、目を逸らす洋子ボク。その先に並ぶ順位。そのクラン名は、予選で洋子ボク等と共に戦ったクランだ。

【バス停・オブ・ザ・デッド】がドラゴンゾンビの動きを封じ、その後に洋子ボクが一緒に攻撃するように委縮していたクランを挑発し、彼らがドラゴンを攻撃して点数がたまっていき……洋子ボクらの点数を追い抜いたのである。


「いえ、ヨーコ先輩を攻めはしません。結果は結果ですし、批評も今更です。ヨーコ先輩ではありませんが、世間の反応には呆れましたし」

「面白ければイイ。叩ける相手は叩ク。第三者なんてそんなモノネ」


 散々な批評だが、それだけではない。


「でも一緒に戦ったクランのヒト達、音子達にお礼を言いに来ました。すごく嬉しかったです」


 音子ちゃんの言うように、共に戦ったクランからお礼の言葉を言われたのだ。


『俺たちだけじゃ何もできなかった。感謝する』

『そうだよな。ビビっちゃ負けだ。逃げ癖がついてたみたいだ』

『動画が嘘じゃないってわかった。むしろあの時以上だ』

『嫉妬していろいろな事を言ってたな。反省する』


 ……等々。動画では信じられないが、直で見れば信じざるを得まい。それが自分達が苦しめられた体験があるからこそ、信用度は高いようだ。


「……もしかしたら、会長はここまで考えていたのかも?」

「ヨーコ先輩の行動まで予測していたとはとても思いませんが、共闘することで通じ合えるぐらいは考えていたかもしれません」

「日本のことわざでいう所の、タイマンはったらマブダチですネ。ウンウン」

「タイマンじゃないし。マブダチでもないし」


 感謝の言葉を告げたクランの連中を思い出し、うんざりとした表情を浮かべる洋子ボク

 いや、その心意気は分かる。洋子ボクの超絶ウルトラグレイト神がかった鬼スーパーファンタスティック愉快痛快モンスターな戦い方を見て、感銘を受けるのはもうどうしようもない事だ。そう言って胸を張ったら少しドン引きされたけど、まあそれはそれで。

 だけどあれとマブダチっていうのは遠慮したい。尊敬のまなざしのついでに、洋子ボクの身体をいろいろ見てたしね。男だから仕方ないけどね!


「そうですね。あの人たちのうちの三十五名はヨーコ先輩の胸を凝視してましたし、十七名は太ももを見ていました。皆さん顔は覚えましたので、何かリアクションあれば対処するとしましょう」


 薄い笑いを浮かべる福子ちゃん。うわ、やっばい。皆逃げてー。


「ヨーコ先輩もそれに気づいて、少し顔を緩めてたみたいですし」


 ……あ、矛先こっちに向いた。


「いや待って福子ちゃん! ボクがきゃわわで男の目を引いちゃうのはもうどうしとうもなくて、褒められて気分がよくなるのは――」

「ええ、自分の身体を誉められてうれしい気持ちは理解してあげますよ。ですけど、それを見た人がどう思うかも考えた方がいいかと。

 今夜は容赦なく手が滑ってしまいそうですね。ヨーコ先輩」


 言って自分の唇に指を這わせる福子ちゃん。思わずぞくりときて胸と太ももを防御する洋子ボク。や、待って。今まで容赦してたの? 嘘だって言って? ねえ、あれで容赦があったとか、マジなの!?


「コウモリの君の独占欲と恐怖状態のバス停の君は置いとくとして――」

「弁護人を要求する! せめて減刑を! ボク悪くない!」

「すでに判決下ってるっぽいので諦めレ。

 予選の結果が本選に影響することはないデスけど、トーナメントのくじ引き順番は順位の下から順番のようデスネ」

「くじ引きは明後日やるみたいです。クラン代表者は出席してください、ってメールが来てました。時間と場所は――」


 音子ちゃんがメールの内容を読み上げる。それを聞いて、自分でもわかるぐらいに洋子ボクは表情を歪ませた。


「めんどくさいなあ。クジなんか誰がひいても同じだし、ランダムなんだから適当でいいじゃん」

「そうかもしれませんが、不正がないようにクランの代表にひかせているんです」

「不正ねぇ……」


 大会の形式がトーナメント性である以上、全部の相手と戦えるわけではない。組み合わせによっては強豪同士が潰し合い、あまり強くないクランが最後に勝ち残る可能性もある。

 その組み合わせが誰かにコントロールされていたとなれば、盛り上がりに欠けると言うものだ。不正の有無ではなく、『不正はないように運営する』のが大事なのである。


「まあ予定はないし、そこに行く分には構わないけど」

「けど?」

「クラン代表者と顔合わせするとか、なーんか嫌な予感はするんだよね。自己主張激しそうなイメージが高くて。

 会場でケンケンゴウゴウと言い争い合ったりしなければいいんだけど」


 クラン代表者にも色々いるけど、今回は自分のクランの戦闘力に自信があるクランの代表者だ。血の気が多かったり、自己主張が激しい人もいるだろう。

 そんな人間たちが集まって、大人しくクジを引いて終わり、となればいいんだけど……。


「? どうしたの、皆」


 腕を組んでそんなことを考えていると、福子ちゃんたちは互いに顔を見合わせていた。何かを言いたげにしているけど、どう切り出したらいいかわからない表情だ。

 やがて意を決して、口を開く。


「音子は洋子おねーさん以上に自己主張が激しい人はそうそういないと思います」


 1HIT!


「バス停の君、鏡とか見た方がいいデスヨ。あ、いつも自分の姿に見惚れてますネ。そういう所とか」


 2HIT!!


「一番トラブルを起こしそうなのはヨーコ先輩と思っています。『サイキョーでカワイイボクがこの大会で優勝するのは、目に見えて明らかだけどね!』とか言って」


 3HIT!!!


「あ、洋子おねーさん胸を押さえて崩れ落ちました」

「何か言いたかったけど、反論できなかったんでしょうネ」

「自業自得です。反省してくれるといいのですけど……無理でしょうね」


 見事なクランメンバーの連携を喰らい、地に伏した洋子ボクであった。

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