ボクはドラゴンをバスターする
「いっくぞおおおおおお!」
叫びながらドラゴンゾンビに向かって走る
「に、逃げろぉぉぉぉお!」
「ブレス!? ドラゴンブレスでダメージがこんなにも!?」
「VRだっていうのにこの恐ろしさは何なんだよ! 気合入れすぎだろうが!」
ドラゴンゾンビに近づくにつれて、逃げてくるハンター達とすれ違う。仮想空間なので肉体的なダメージはないが、数字による格差と恐怖を与えるグラフィックは確実にハンター達の戦意を削っていた。然もありなん。近づいている
(いやホント、すごい出来だよね。気合入ってるなぁ!)
ドラゴンに近づくにつれて、激しくなっていく攻撃。そして大地を腐らせているのか、足元がぬかるんで移動速度が制限される。塀の上に登ってどうにかそれを避けるが、ドラゴンからは良く見える形となった。
「やあ。ボクと遊んでいかないかい?」
軽く手をあげて挨拶すれば、答えとばかりに咆哮して腐った吐息を吐く。ゾンビウィルスをふんだんに含んだ熱波。広範囲に大ダメージを与えるドラゴンの遠距離主戦力。
――ちなみにVR空間内はRPGでいう所のHP的な数値が存在しており、それがゼロになったらスタート視点からやり直しにになる。一定回数それが積み重なると、強制終了だ。
勿論、死に戻りなんて御免なのでブレスは全力で回避する。家の陰に隠れて、ブレスの直撃を避ける位置に移動する。たっぷり三秒吐き出されるブレス。それが収まった後に
「ほい、よっと、とりゃあ!」
掛け声と共に屋根に飛び乗り、ドラゴンの頭のと同じ高さを得る。そのまま跳躍し、ドラゴンの頭にバス停を叩き下ろした。硬い何かを殴った手ごたえが
ルギャアアアアアアアアアアアアア!
ダメージ、と言うよりはいきなり頭に痛みが走って驚いた程度なのだろう。ドラゴンは怒りに満ちた声を上げ、
迫るドラゴンの手。かぎ爪に裂かれれば一発でアウト。その直撃は――
「死したるドラゴンよ、汝の業はこの『
通常攻撃+待機させていたコウモリ七体。福子ちゃんによる同時攻撃がドラゴンゾンビの腕に当たって、
空いた手で親指を立てて、福子ちゃんに礼を示す。
「いくら仮想世界だからと言っても、無茶しすぎですヨーコ先輩!」
「現実でもやってることだし、気にしたら負け!」
「ああもう!」
そんなやり取りを背中越しに交わしながら、ドラゴンゾンビの周囲を移動する
「一気に溶かしてやるデス! 日本のことわざでいう所の、汚物は消毒ヨ!」
そんな
霧の範囲内に居れば持続ダメージ。ドラゴンの皮膚が硬い鱗でおおわれていることもあり、有効な戦術だ。ミッチーさんは移動を繰り返し、逃げ道を塞ぐように酸のガスを噴霧していく。
「音子も手伝います。次はこっちですね」
そしてその包囲網を狭めているのが音子ちゃんだ。隠密でドラゴンに気付かれないようにしながら移動し、ラジカセを鳴らしたり腐肉缶を開けたりしながら、ドラゴンの気を逸らしている。
ドラゴンの死角を突くように移動しながら、足音などの痕跡は全くと言っていいほど出さない。トラップを仕掛ける場所も絶妙で、すぐに遮蔽物に隠れることができる場所で行い、すぐに隠れる。それをベストのタイミングになるように繰り返しているのだ。
(ボクの指示は『見つからない事前提に、ドラゴンの気を引いて』だったのに、そこまで考えて動くようになったんだ)
元々『自分よりも他人優先』で動く音子だ。こちらの意図を読み寄ろうとする能力は高かったのだろう。……それが他人の顔を伺うという意味合いなのは、僕としては何かものを言いたいけど。
ただそう言うのを抜きにしても、自分で考えるようになってくれたのは嬉しかった。
「よーし、このまま攻めるぞ!」
作戦の概要は、ドラゴンの包囲網を維持して行動を制限する。これだけの巨体を自由に動き回らせていれば、それだけで被害が甚大だ。そして制限されたドラゴンの動きを予測し、そこに先回りするように動いて攻撃を繰り返す。
どう包囲するかを確認している時間や余裕はない。どうやって攻撃するかを考えて包囲するのは不可能だ。だから『こう包囲するだろう』『今ならこう攻撃するだろう』といった互いの性格を読み切っての行動となる。
(バス停の君なら気付いて穴を塞いでくれるネ! だからコッチ側ヨ!)
(あの破天荒な先輩のサポートが出来るのは、私ぐらいですから!)
(はい。おねーさんたちがあっちなら、音子はこっちです)
動く。考えると同時に仲間の意図を読み切って、体を動かす。
何度も同行した狩り。何度も繰り返したクランの作戦。何度も培った戦闘。失敗もあった。いき違いもあった。むしろそんな数の方が圧倒的に多い。完璧に理解できあう人間関係なんてない。
だからこそ培えた信頼。気の合うクランの仲間だから――
「ゾンビを狩るのがゾンビハンター! そして最強のゾンビハンタークランは、ボク等【バス停・オブ・ザ・デッド】だ!」
屋根の上を飛び交い、仲間の動きを把握し、信じ、助け合う。
だから
それを証明するようにドラゴンゾンビにダメージを重ねていく。紙一重でドラゴンゾンビの攻撃をかわし、仲間に向かう攻撃を逸らし、包囲網から逃さぬようにしながら。
実際の所は、ギリギリの勝負だ。ドラゴンゾンビの攻撃はかすっただけでもかなりのもの。そしてドラゴンゾンビが包囲網から逃れられれば、恐らく次はない。高火力と広範囲攻撃。それを十分に発揮できるように暴れられれば、手は付けられないだろう。
だから――
「こらぁ! なにボサっと見てるのさ、キミ達!」
口を開く
「ゾンビハンターはゾンビを狩るモノだろ! ビビってないで殴りに来なよ!」
「なっ!? 俺達がビビってるだと!」
「手紙やメールでは粋がるくせに、こういう時は保身とか情けないね! こんなドラゴンもどきに臆病風を吹かしてるなら、【バス停・オブ・ザ・デッド】に勝負を挑むなんか一〇〇年早いよ! ミルクでも飲んで、体鍛えてくるんだね!」
「ふざけんな、アマァ! 流れ弾に巻き込まれないようにしっかり避けろよ!」
「いいんですか、ヨーコ先輩。おそらく小鳥遊会長の意図は、彼らを精神的に委縮させて私達に対する反抗の意志を折るためだと思うのですけど」
浮遊ブーツを使って近くに寄って来た福子ちゃんがため息とともに呟く。
【バス停・オブ・ザ・デッド】に勝てると思っていた連中に実力を示す方法。挑戦状を送ったクランが『強敵』と認識した相手に好成績を収め、実力差を示す。自分達は逃げまわすしかできなかった相手に挑み、一定の戦果を挙げる。
そうすることでハンターとしての格差を示し、反抗心を叩き折る。そうすれば【バス停・オブ・ザ・デッド】に逆らうことはできなくなる。そういう意図もあったかもしれない。
「いいんじゃない、レイドボスみたいでさ。狩りは楽しまなくちゃ! ざまぁとか復讐とか、ボクには似合わないからね!」
「まったく、ヨーコ先輩らしいといえばらしいのですけどね。ええ、そんな先輩だからこそ一緒に居たいと思うんですよ!」
「ハイハイ、イチャイチャタイムは後にするネ! このままだと点数追い抜かれるかもヨ。攻める攻める!」
「あ、はい。音子も頑張ります。もう、あのトカゲさんは逃げるのは無理そうですし」
多数のクランにより四方八方から攻められるドラゴンゾンビ。ここまでくれば、逃げるのは容易ではないだろう。となれば一気に火力で押すのが一番だ。
「ヤバいヤバい! どんどん攻めなくちゃ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ドラゴンゾンビの体力は高く、時間内に倒すことはできなかった。恐らく体力無限大とかそう言う設定だったのだろう。
「全く、キミ達はいつも想定外だよね」
とはねぎらいの言葉をかけに来たハンター委員会会長の言葉だ。
そして【バス停・オブ・ザ・デッド】の最終的な順位は――予選突破ギリギリの16位になった。
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