ボクはハンター委員会会長に相談する
ハンター委員会会長、
学園にゾンビが溢れ出ると同時にハンター委員会を設立。各学園の生徒会から様々な武器を集め、それを管理。ハンターランクやクランなどの制度を定め、パニックに陥りそうになる状況を一気にまとめ上げた人物だ。
彼がいなければ今のハンターはなく、最悪学園生徒全員がゾンビとなっていた可能性もあったのだ。まぎれもなく学園の功労者である。
「やあやあ、中塚君。キミとはもう一度話をしたかったんだよ」
ただ、どうしても人の名前を憶えないのだという。ハンター委員会副会長の井口でさえ、まともに名前を憶えてもらえないのだという。最終的には、そう言う芸風なのだと皆が納得したのだとか。
「い・ぬ・づ・か! まあ、ボクの名前はいいや。要件なんだけど――」
「事前に聞いているよ。心無いハンター達によるメールや手紙が立てつづけに来ていると。コピーを見せてもらったけど、確かに酷いものだね」
ハンター委員会には事前に手紙やメールの内容を送っている。それを受けての委員長との邂逅だ。
「ただまあ、注意喚起以上のことはできないのも事実だね。これで罰則を与えるのは難しい。悪意の有無を証明もあるが、しらを切られればそれで終わりだ。
『そんなつもりはなかったんです』『その手紙は僕らを騙った誰かのものです』……あたりかな」
それは
ハンター委員会はハンターを統括する立場ではあるが、警察のような法を司る機関ではない。現状、六学園の秩序を守っているのは各学校の生徒会である。だけどゾンビで法が機能しているない状態なので、強い捜査権を持っているわけでもない。
法律が意味を成さない状態でそれでも秩序が崩壊しないのは、ゾンビという外敵がいて一致団結しないと生き残れないというだけにすぎない。そしてゾンビに対抗できるのがハンターなのだ。
何が言いたいかと言うと、ハンターが生徒を守る以上、生徒会はハンターを強く糾弾できないのである。ならハンター委員長が強くいさめればいいんじゃないか、というとそうでもない。
「規則で締め付けてばかりじゃ、不満がたまってしまうんでね。この辺りのバランスを誤れば、それこそハンター個人個人で暴走しかねない。事を力づくで押さえ込むのは悪手なんだよね。
その不満の発散を含めての今回の闘技場だったのだよ。ただまあ、始まるまでに不満が集中したようだ」
色々溜まった不満の矛先が、闘技場を機に【バス停・オブ・ザ・デッド】に向いたという事である。
「しかし大したものだよ。かつては無名過ぎてカオススライム討伐の功績を譲ってもらったというのに、今では有名過ぎて狙われることになるとは。実はカオススライムを倒したのはキミ達だ、って公開してもいいかもしれないね」
「それでこの状況が解決するならいくらでも言っていいよ。でも火に油だけどね」
冗談めいた小鳥遊会長の言葉に、肩をすくめる
ここで【バス停・オブ・ザ・デッド】の名声をプラスしたところで、ボク等を倒したい連中のモチベーションをあげるだけだ。そんなボク等を倒そうとする自分達に酔っているのだから。
「確かにそうだ。となれば、キミ達が直接戦って実力を示すしかない。
聞けばこの前【
会長の言う事は一理ある。というか、一番わかりやすい解決策だ。
ボク等を挑発するクランやハンターは、ボク等に勝てると思っているから挑発するのだ。動画で有名になっただけの弱小クラン。たった四名で何が出来るか。そんな舐めた態度が透けて見えている。
ただまあ、それには大きな問題があった。
「いや無理だろ? どれだけのクランを相手しないといけないのさ、それ」
そういう意味では直接対決して実力を示すのが一番なのだが……あの数全員を一気に相手するのは、無理がある。実力云々ではなく、手間暇の意味合いで。
「ただ一度戦うだけで十分さ。それだけで君達の実力は他のクランに示すことができる。もっとも、【バス停・オブ・ザ・デッド】に実力がないというのなら意味がないことだがね。
おおっと、大前提を確認していなかった。六華VR闘技場、参加してくれるのかな?」
「安い挑発だけど、乗ってあげるよ。それで、どんな魔法で大人しくさせるのかな?」
「そう驚く事じゃないよ。参加するクランが多いので、予選という形でふるい落とすつもりなんだ。そこで――」
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それはまさに巨獣と言っても過言ではなかった。
咆哮をあげる顎は家一つは丸呑みできそうなほど大きく、その牙は鉄すらかみ砕くほどの鋭さと強さを持つ。腐った翼は空を飛ぶことはできないが、
ドラゴンゾンビ。
「…………正夢って、あるんだね」
小さな山ほどあるゾンビを前に、思わずそう呟いてしまった。
「何をのんきなことを言っているんですか!? あんなのを相手するなんて聞いてませんよ!」
あまりの相手を前に大声をあげる福子ちゃん。うん、
ハンター委員会会長は、六華VR闘技場に参加する旨を示したクランを大会の予選と称して招集し、こう告げた。
「これから皆さんにはVR空間でゾンビを倒してもらいます。クラン十組ごとに一つの戦場に送っての戦いになります。ハンターがゾンビにダメージを与えるごとに、プラスの点数が。最終的なハンターのダメージ量がマイナスになります。
最終的な点数の上位16位までが予選突破となります。皆さん、頑張ってくださいね」
といって仮想空間にログインしたら、フィールドは駅近くの街中。そこに現れたドラゴンゾンビ。そんな状況である。
クランメンバー同士はすぐ近くに配置されたのか、近くには福子ちゃんだけではなくミッチーさんと音子ちゃんもいた。
すでに戦闘は始まっているのか、遠くから悲鳴のような叫び声が聞こえる。ドラゴンの吐息を受けて、十名単位が大ダメージを受けている。
「これは……なまじ人数がいるとデメリットな状況デスね。ダメージの分だけ、クランの点数がマイナスされマスから」
そう。この形式はクラン全体の得点が問題となる。メンバーが10名いたとして、ゾンビに攻撃を仕掛けてプラスの点数をえたとしても、半数が足手まといでダメージを受け続ければそれでプラスマイナスゼロになる。
クランメンバー全員の実力が重要になるのだ。単に人数を集めた人海戦術では、あのドラゴン相手には意味を成さない。
「隠れていれば、見逃してもらえるかもしれません」
音子ちゃんの戦術も、この状況では有効だ。ダメージを受けず、相手に見つからなければ点数はマイナスにならない。総合点数がマイナスになるクランも多く出てくるだろう。現実の戦いでも『死なない』『生き残る』ことが一番大事なのだ。
「うん。マイナスを出さずにあのドラゴンゾンビから逃げ回る。きっとそれがこの予選の趣旨で最適解なんじゃないかな」
改めて、ドラゴンゾンビを見る。
体中腐ってはいるが、ファンタジーとかで出てくるドラゴンそのものだ。翼は所々穴が開き、空を飛ぶことはできないだろう。だからと言うわけではないが、その四肢は強靭で爪も鋭く、牙は生半可な建物をかみ砕けるほどだ。
ウィルスを含んだ毒の吐息。咆哮による恐怖心の発露。存在するだけで受けるプレッシャー。大地を腐らせ、足場を不安定にさせる能力。ぱっと見でわかるのはそんな感じだ。戦えばさらに能力が出てくるかもしれない。爪に猛毒とか、噛まれたら即死効果とか。
スペックを解析すればするほど、まともに戦うのが間違っている能力だ。
「――だからこそ、攻める! ボクのバス停を舐めるなよ!」
「そう言うと思ってました。因みにプランは?」
「ノープラン! だけど、なんとかなる!」
背後で福子ちゃんがため息をつく気配が感じられた。いつものこと、いつものこと!
「それじゃ、ドラゴン退治と行きますか!」
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