ボクはヤンキーなハンターに絡まれる

 食堂についた洋子ボク達は席に座り、料理を注文する。

 基本工場生産のコンビニご飯が当たり前のこの世界だが、苺華学園は魚の養殖に成功したとかで、高品質の魚料理があるという。他の学園ではあまり見られないのは、保存とか出荷率の低さとかその辺があるらしい。

 そんなわけで、久しぶりのお寿司料理だ。醤油もわざわざゼロから作ったとかで、実は期待していたのである。


(……そう言えば、この世界に来て初めての純和食かもしれない)


 運ばれてくる料理を前に、少し感動する洋子ボク。前の僕がどんな生活でどんな料理を食べていたかは思い出せないが、和食を食べたことがないという事はないようだ。


「ヨーコ先輩、ワサビとか大丈夫なんですね」

「この刺激がいいのさ。って濃すぎない、これ!?」

「すりおろし直後のワサビはこんなもんデスヨ。キクー!?」

「お魚……ネコさんにお土産にしたいです」


 並ぶ寿司を食べながら、歓談する洋子ボク達。

 そんな会話の間に、食堂に備え付けられたモニターからニュースが流れる。最初は明日の天気だったり流行りの音楽だったそれは、近々始まる文化祭のニュースとなった。


氷華ひょうか苺華いちか光華こうか柊華とうか櫻華おうか橘華きっかの六学園がそれぞれの特色を生かして行われる文化祭――六華りっか祭の開催はもうすぐです!』


 夜はゾンビで生活が脅かされ、武器を持たない人達は学校に籠ることでしか身の安全を確保できない。そんな状況だからこそ文化を絶やしてはならないと奮起する学園生徒会達。その活躍により行われるのが六華祭である。

 ……まあ『AoDゲーム』では祭と称して六華ガチャと言う限定ガチャが発生し、様々なコスプレ衣装が出たぐらいなんだけど……。もうその頃には運営会社はサービス終了を予定していたのかな、と思わせる節もあった。


『各学園から選りすぐりの商品が配られます! まずは光華による各種のケモノミミ! これで貴方もバニーガール!』


 あははー。ウサミミ洋子ボクとかまじきゃわわ! 想像して笑ってしまった。

 その後でウサミミ福子ちゃんとかウサミミミッチーさんとかウサミミ音子ちゃんとか想像する。銀髪フリルバニー福子ちゃん。金髪逆バニーミッチーさん。ロリ黒髪和風バニー音子ちゃん。

 ……イイ! むしろ歓迎!


「よーこせんぱい」

「ふひゅああ!? やめてよいきなり現実に戻すの!?」

「むしろいきなり妄想にふけこまないででください」


 ド正論過ぎて、ぐうの音も出ない洋子ボクであった。


『そして今年の目玉はハンター委員会が満を持して完成させたVR闘技場! クラン同士がしのぎを削り合うハンター同士の決戦所! 最強のクランはどこなのか。最強のゾンビハンターは誰なのか。それが決定されるのです!』


 あー。闘技場か。現実の『AoDゲーム』では未実装なコンテンツだったけど、そんな売れ込みだったよね。


「ま! 最強のハンターはボクで確定だけどね!」


 いつもの軽口を叩き、トロを口にする洋子ボク。他の三人も適度にスルーして、この話題は終わるはずだった。

 ――ここが、苺華学園のスパ施設食堂で、かつ他の学園のハンターが集まってなければ。


「言うたな、そこの娘ェ」

「ワシ等の前で最強を謳うとは、ええ根性やのう」

「おんし……あの動画に出てた女か? ほなら遠慮はいらんなぁ」


 突如湧き上がる殺気と熱意。

 食堂のハンター達が立ち上がり、こちらを向いたのだ。特攻服を着た一世代前のヤンキー暴走族を思わせるハンター達だ。総勢二〇名ぐらいか。奇妙な髪形をした自己主張の強そうな男達である。


「え? え?」

「ちょっと動画でちやほやされたからって、調子にのっとるんちゃうか?」

「せやなぁ。バス停なんぞ目立つ武器持って暴れた程度の小娘が最強? 世の中そんなに甘いもんちゃうってワシ等【特攻ブッコミ矢螺霊之ヤラレイノ】が教えてやるわ」

「ちょい来いや。ここのVR訓練所でいっちょもんだるわ」


 お、おう……。なんかいろいろ刺激したみたいだ。


「あー……。じゃあ行ってくるね、皆。すぐ帰ってくるから」

「はい。お寿司は包んでおきますので」


 なんだか収まりそうもない雰囲気を前に立ちあがる洋子ボク。福子ちゃんたちは特に気にした様子もなく、送り出してくれる。


「アア? 仲間が危機やのに助けたりせんのか。白状やのう、オンナは」


 煽るように言うヤンキー……ヤンキーっぽいハンターの一人。

 その言葉に頷き、福子ちゃんたちは次々と告げる。


「そうですね。危機のようですので助けを出しておきましょう。ヨーコ先輩を見たら迷わず攻撃した方がいいです。一秒遅れれば致命的ですから」

「バス停の君は攻防共にこなすから、戦術はどうスキを作るかがいいデスヨ。この人数なら、四×五チームでの波状攻撃トカ」

「洋子お姉さん相手にするなら、地形は大事です。段差と射線は特に。あ、音子のアドバイスは要りませんよね。ごめんなさい」

「……おい、どういうこっちゃ? この女、助けんのか?」


 矢次に出される助言を怪訝に思った男。それを受けて、冷静に福子ちゃんが返す。


「言いましたよね。危機のようですから、助けると。

「ふざけんな! ワシらが危険てどないな事や!」

「こんな女相手にしかもマジモンの喧嘩やないのに危機とかどないなつもりや!」

「アハハー……。そりゃ信じられないデスヨネ」

「あの、やめるなら今のうちです。そうすれば、洋子おねーさんも許してくれますから」

「ふざけんな、今更退けるかボケェ! おう、ギブアップなしのサドンデス設定や。覚悟せいや」

「そんじゃ行ってくるねー」


 連れられるままにVR訓練所に向かう洋子ボクと……ぶっこみなんとかかんとか。様々な設定を定めて、仮想世界に感覚をリンクさせる。手慣れたバス停&ブレードマフラー装備。


「フィールドは雪山か。二〇人倒さないといけないから、先ずは場所の確保だね。移動移動、と」


 そして戦いは始まった――


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 そして二時間後――戦いは終わった。


「「「参りました」」」


 一斉に頭を下げる【特攻・矢螺霊之】の人達。この態度が、洋子ボクの勝利を示していた。


「早かったですわね、ヨーコ先輩。あ、皆さんは大丈夫ですか?」

「大体一〇戦位デスかね。むしろアナタたちは根性みせた方デスヨ。バス停の君の攻めにそんだけ耐えたんですカラ」

「あの、胃薬要ります? 音子、これ飲んだら楽になれましたよ」


 帰ってくるなり【特攻・矢螺霊之】達の心と体を心配するクランメンバー達。


「むしろヤンキーに絡まれたボクの方を心配してもいいと思うんだけどね、そろそろ!」

「ヨーコ先輩は手加減と言うものを覚えるべきだと思います。実力差から言って大人げなさすぎるかと」

「福子ちゃん容赦ない!」

「もう二度とバス停の姐さんには逆らいません!」

「キミ達もそこまでしなくてもいいから!」

「……そりゃここまでされれば、ネエ」


 試合のログを見ながら、ミッチーさんが同情するように言う。


「一〇戦一〇敗。そのほとんどが何もさせてもらえず、バス停の君を発見したと思ったらその瞬間には倒されてるんデスから」

「音子、参考になります。<キャットウォーク>なしでもここまで不意がつけるんですね」

「ゾンビ戦とは違う動きですね。思考する相手の裏を上手くついた動きです」

「まっこと御見それいたしました。ワシ等正直舐めてました。動画に出て目立っただけのお調子もんかと。まさかここまでとは!」

「あ、お調子者なのは間違っていませんので謝らなくてもいいです。むしろ皆さんが怒りを感じたのは先輩のその性格が原因です。今回の件はこちらから謝罪すべきことですので」

「最近の福子ちゃんは辛辣だー!」


 悔しいけど反論できないのであった。

 こんなドタバタがあったこともあり、事の起こりが何なのかがこの時頭の中からすっぽり抜けていた。

 VR闘技場。ゾンビハンター同士が戦える大会。つまり対人であること。


【バス停・オブ・ザ・デッド】と何らかの決着をつけたいクランやハンターは、洋子ボクの想像以上に居たという事を後に知ることになる。

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