ボクは警察署を攻める

 北区警察署――

 ここから発生した警察ゾンビが北区を占拠したのだ。島の規模から考えれば一〇〇〇を超える警察官がいるはずもない。そこはゲームだからだとかボスのユースティティア……よし、覚えた。じゃなくて……の能力なんだろうとか言う事もできる。


「……考えたくないけど、この島で行われていた研究の規模でこれだけの警察が必要だったのかなぁ?」

「むしろ正規の警察とは思えまセンね。警察の服を着た研究関係の警備員と考えるのが妥当じゃないデスかね」


 何とはなしにつぶやいた言葉に、ミッチーさんが反応する。そう考えると、ますます闇が深まってくる。どれだけの規模の研究だったのか。


「その手の陰謀系動画はファンたんの管轄外っスね。聞かなかったふりするっす」

「そういう暴露系は興味ないんだ」

「自分で編集してて面白くない、って思う動画は作りたくないッス」

「じゃあボクの戦いは楽しんでもらえるんだ。良かった良かった」


 うんうんと頷く洋子ボク。どういう形であれ、ファンが出来るのは悪いことではない。行き過ぎた行動はもう勘弁だけど。


「少なくともここに居る人達は皆犬塚さんに惹かれてると思うッスけどね。……しかし、マジで四〇〇体の警察ゾンビに挑むッスかぁ……。正気を疑うっスね」

「まさか。相手するのはその二割ぐらいだよ。要は敵ボスを倒せばいいんだから。地形を上手く利用して、突破するだけさ」


 ゾンビの数がどれだけ多くとも、ひとりの人間に攻撃できる数は知れている。ましてや警察署内と言う限定空間だ。


「まあそうなんスけど、問題はユースティティアがどこにいるッスかで――」

「あ、その人の居場所はバステト様が見つけました。音子が誘導できます」

「流石<オラクル>持ち! ありがと!」

「二階の執務室デスね。それでも援軍無しで一〇〇体は突破すると思ったほうがいいデスよ」


 スマホに送られる地図を確認し、脳内で計算する洋子ボク。決して楽ではないが、


「どうにかなるなる! 【バス停・オブ・ザ・デッド】のメンバーに加えて、AYAMEまでいるんだから!」

「んー。前も言ったけど、あやめちゃんあまり力でないからね。ワンパンで頭蓋骨砕くのが精いっぱいかも」

「それはそれですごいのですが……」


 気だるそうに告げるAYAMEに、肩をすくめる福子ちゃん。

 ともあれ作戦は決まった。ならば行動あるのみ!


「いざ、出陣――!」

「あやめちゃんぱーんち!」


 開始の口火を切ると同時に、AYAMEが警察署前のゾンビに向かい、跳躍する。真っすぐ跳んで、落下の勢いのままに拳を振り下ろした。格ゲーでいえば『対空技に迎撃されそうなジャンプ攻撃』だ。ただ跳び、そして殴る。

 そんな無謀ともいえる攻撃を受けて、ゾンビは頭部を破壊されて動かなくなる。そのまま周りのゾンビに無造作に腕を振るい、ビンタを放つ。警察ゾンビの首が回転し、捻れ落ちた。


「……どう見ても格闘素人なんスけど、全部パワーで補ってるッスね」

「日本のことわざでいう所の力極振りネ。あれで弱ってる、っていうんだから大したもんデス」

「華麗さも優雅さもありませんね。ですがけして弱くはない。それは認めます」


 皆の感想は、大まかそんな感じだ。ハンターが会得する戦闘技術スキルと言ったものはないが、間違いなく強い。これがゾンビウィルス……彼女曰くオウカウィルスの真価と言った所なのだろう。


「一番槍はとられたけど、負けてられないぞ!」


 勿論、洋子ボクだって負けてられない。AYAMEの邪魔にならない場所に位置取り、AYAMEの背後から迫る警察ゾンビを攻撃していく。バス停を振るって腕を叩き落とし、走りながらブレードマフラーで切り裂いていく。


「およ? 殴りやすいって思ったらよっちーが後ろにいたんだ。そろそろ後ろから殴って来るかな、って思ったけど何もないんで何事と思ったわ」

「あー、いつもは殴られても気にしないぐらいに特攻してたんだ」

「もち。あやめちゃん無敵だもん。殴られても殴り返せばいいんだし」


 不死ゆえの雑な戦術だ。

 考えてみれば、死なないことが前提にあるなら考える必要もない。フルパワーで殴りに行けばいいのだ。自然と単純な戦術になる。


「今日の所はボクらの戦い方に付き合ってもらうよ。とはいっても、全力で突き進むでいいんだけど!」

「なんだ。いつものままでいいのね。了解!」


 拳を振るい、蹴りを放つAYAME。確かに洋子ボクと戦ったときに比べてパワーは落ちているが、それでもかなりの威力だ。


「サポートするこちらの身にもなってほしいんですね。ヨーコ先輩も含めてですが!」

「きこえなーいきこえなーい! でもいつもありがとう!」


 福子ちゃんの言葉に返し、戦端を切り拓いていく。いや、感謝しているのは本当だからね。


「あやめちゃんえるぼー! ……ところでよっちーって攻撃する時技名とか叫ばない系?」

「え? そんなの叫ぶ人とか普通――」

「――疾風をここにシュタイフェ・ブリーゼ!」

「えたーなるふぉーすぶりざーど!」

「いるねぇ。……えーと、ば……バス停斬りー!」

「無理に言わなくてもいいかな、って音子は思いました」


 そんな会話をしながら警察署一階部分を突破し、二回に続く階段を上る。廊下にも当然とばかりに警察ゾンビが控えていた。警棒を振るい、手錠で拘束しようとしてくる。

 ゾンビを撃退しながら、音子ちゃんの誘導に従いユースティティアがいる執務室に続く道を進む。それと同時に非常階段への道を確保するミッチーさんと福子ちゃんと音子ちゃん。


「ほいほい。こっから外にでれるデスね。じゃ、作戦通りにイクね!」

「些か口惜しいですが、適材適所なのは否定しません。この『吸血妃ヴァンピーア・アーデル』がここを死守しましょう」

「執務室はあの奥です。退路は音子も確保します」


 一定空間に持続的に攻撃領域ガスを設置できるミッチーさんと、浮遊ブーツで階段の上下を容易に行える福子ちゃん。そして腐肉缶などででゾンビの行動をコントロールできる音子ちゃん。この三人が非常階段の防衛役として適任なのは間違いない。


「ヨーコ先輩をその女と一緒に行動させるのは非常に不愉快ですが。その女を守るためにヨーコ先輩が戦うのは非常に不愉快ですが」


 作戦決行までごねていた福子ちゃん。嫌、と言うよりは洋子ボクに遠慮なく感情をぶつけてくるようになった。それが洋子ボクに対する好意の裏返しなのだと思うと、少し顔がにやけてくる。

 

「よーし、サクッとボスを倒してイベント終わらせるぞ!」

「いべんと? よくわからないけど天秤女を早く倒すっていうのは同意ね」

「いた! あれだね!」


 洋子ボクが指差す先には、ローマだかギリシアだか分からないけど、それっぽい白い布を着た一人の女性がいた。天秤と剣を持ち、警察ゾンビを従えている。


「汝の存在は罪。故に断罪します。我が名は天秤と正義の女神ユースティティア! 己の罪科に悔いるがいい!」


 言葉と同時に警察ゾンビの士気が上がる。同時に今まで散発的だった動きが統一化された。指揮能力が高く、支援力の高いボス。大橋での戦闘ではそんな感じだった。


「罪ねえ。ボク何しただろう? そんなに恥じる事は……器物破損、危険物所持、騒乱罪、その他ゾンビに対する暴行……うん。結構重いかも」

「うわー、よっちーひっどいわね。あやめちゃんドンビキ」

「……AYAMEがそれを言うの?」


 言いながら周囲の状況を確認し、同時に作戦を立てていく。

 洋子ボク達の勝利条件は、非常階段への道が塞がれる前に撤退すること。最悪これが守られればいい。そしてそうなる前にユースティティアを倒せればなおよしだ。


「かかれ!」


 ユースティティアの号令と同時に、警察ゾンビ達は銃を構えた。

 

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