ボクは意外な仲間を得る

首斬り御免クリティカル! 勝負あった!)


 AYAMEが身体を硬くしたりするのは、こちらの攻撃に呼応してからだ。常に体を固めていては、身動き一つ取れないからである。おそらくは命中するだろう場所を集中的に硬くして、こちらの攻撃を受け止めていたのだ。

 冷凍ガスに晒された時も、似たような感じで身体を低温に対抗させていたのだろう。低温火傷のような跡はなく、僅かな時間で凍結から復帰していた。


(だからAYAMEが攻撃を認識するより早く攻撃すれば、その不死性は無視できた。波状攻撃に加えてダミー人形シャドウワンでのかく乱――と言うフェイントを乗せての不意打ち)


 これにより彼女の虚を突き、硬化するより先に首に攻撃を加えることが出来た。この攻撃で首が狩クリティカルれなかったら、反撃を受けてかなりヤバいことになっていただろう。

 策に策を重ねて、最後は運頼み。その賭けに勝った――んだけど、 


「よっちー、すごい! さすがあやめちゃんが見込んだだけのことはあるわ♡」


 元気良さそうなAYAMEの声。その出所を見て、洋子ボクは呆然とした。他の皆も同じような感覚だろう。


「途中の連携もすごかったけど、やっぱり最後の一撃は強烈! あやめちゃん癖になりそう!」


 胴体から離れ、地面を転がるAYAMEの首。それが喋っているのだ。

 しかも胴体は倒れることなく、AYAMEの頭(?)の感情を示すように、拍手までしている。


「え? ええ、えええええええええ!? 確かにゾンビも首刎ねた後、体動いたりするけどさ! ノーダメージは酷くない!」

「むー。これでもダメージキッツいのよ。少しは心配ぐらいしてくれてもいいと思うんだけど!

 あとあやめちゃんとゾンビを一緒にしないでよね!」


 当人はキツイと言うが、どう見てもあまりダメージを負っていないように見えるのは――まあ、それよりも、


「あ、いやでも……うん。前も気にしてたよね、ゾンビ呼びの事。ごめん」

「うんうん。分かればよろしい。よっちーは素直だから大好き♡」

「はあ……」


 首のないAYAMEの身体に頭を撫でられ、何とも言えない声を返す洋子ボク


「……あの、生きてるんですか、貴方。首切られたのに」

「もち。身体も動くよ。ちょっと電波の状況悪いんで反応遅いけど」

「そんなスマホみたいな感覚でいわれても困る……あまり困らないネ」


 福子ちゃんの問いかけに、Vサインを返すAYAME。喋っているのは少し離れた頭の方だが。

 彼女曰く、少し体の反応が悪いらしい。あまり分からないけど。


「マジマジ。今ならナナホシちゃんに毒責めされると、うぇーってなるかも。身体の修復と維持にウィルスパワー使ってるし」

「とことん不条理なウィルスですね……」

「――ま、だからこそ研究したかったんじゃない? いろんなこと隠してさ」


 軽く告げるAYAMEの言葉に、眉を顰める福子ちゃん。

 AYAMEがここまで『不条理』なのは、かつてこの島で行われていた研究の結果だ。不死の研究。彼女はその『成功』者なのだ。首を刎ねても問題なく動ける不死者。理不尽ともいえる生存能力。

 まあ、それはもうどうしようもないことだ。とりあえず現状の問題を解決しよう。


「で、満足してもらったのかな? ボクとしてはこれで終わりにしたいんだけど」

「モチのロン! やっぱよっちー達は銃しか使わない奴らとは違うわ。あの手この手で攻めてくるもん。危なくなったらすぐ逃げるとかもないしね」


 ゲームで遊んだ後のように笑みを浮かべるAYAME(首)。

 念入りな調査と情報収集。爆発物によるかく乱から遠距離からの銃掃射。作戦から外れれば即撤退。そんな軍隊にも似た戦術こそが、最適解のゾンビハンターだ。AYAMEもそう言ったクランと戦ってきて、それらを撃破してきたのだろう。

 彼女からすれば、ハンターの相手など造作もないことだ。ワンパターンな攻め。適度に痛めれば逃げる。その繰り返し。だからこそ、洋子ボク達のような銃に依らないハンターとの戦いは『楽しかった』のだろう。

 満足してもらったという言葉に、ニマニマする洋子ボク


「ま、ボクは最強で最高で無敵で可憐できゃわわなバス停アンドマフラーハンターだからね! AYAMEが満足できて当然さ!」

「うわ、すごいどや顔。よっちーってそんなキャラなの?」

「ええ、残念ですが。おおよそこんな感じです」

「むしろ久しぶりにエンジンかかった感じデスね」

「洋子おねーさん、色々心のつっかえとかあったみたいでしたから……。あ、音子は元に戻って嬉しいですよ」


 胸を張る洋子ボクにドン引きするAYAME。あとフォローしてくれない仲間達。


「そんなわけで満足したのなら、しばらく大人しくしてほしいんだけど。ボクらが北区の警察署を開放するまでは」

「ケーサツ? ああ、あの天秤女を倒したいの、よっちー?」

「天秤女……ゆーあーでっどのこと?」

「ユースティティア、です」


 AYAMEの問いに応える洋子ボク。その間違いを訂正する福子ちゃん。ああん、ちょっと忘れてただけじゃないのさ。


「いいわよ。っていうかよっちー達、あいつ倒しに来たんだ。なんで?」

「あー。この辺でゾンビが大量に沸くといろいろ難儀だから……?」

「北区にある物資は今後の生活にも必要なモノです。ゾンビに占拠されるわけにはいきません」

「ついでいうと、ゾンビを軍隊のように命令できる存在は看過したら厄介デスからね。今のうちに叩くのが吉デス」

「音子は、皆が怖がるのが嫌だから……。音子もゾンビたくさんいるのは怖いです」


 あいまいな答えを返す洋子ボクの言葉を継ぐように、福子ちゃんたちが言葉を放つ。生活面、軍事面、心理面からの意見だ。


「(……ヨーコ先輩がゲーム転生した、っていうことに納得いきました。何処か他人事のような発言が多かったのは、そう言う事だったんですね)」

「(う……。その、ごめん、皆の事を軽く見てたんじゃないんだけど……)」

「(それは先輩の態度を見れば解ります)」


 こっそりと耳打ちしてくる福子ちゃん。皆に聞こえないように小声で会話する。


「ふーん、だったら手伝おうか?」

「はい?」

「だから、あの裁判女ぶっ倒すの手伝ってあげる♡

 あ、報酬とかはいいよ。あやめちゃんヒマしてたし。ぶっちゃけ、このあたりを武器持った奴らに大人数でウロチョロされるのも困るのよねー。お気にの場所もあるし」


 AYAMEの提案に洋子ボク達は一瞬唖然として――


「アリのアリデスね。聞くだにゾンビに恨みあるみたいデスし、嘘言ってるようには思えまセン。日本のことわざでいう所の、敵の敵は味方なんじゃね?」

「音子は……その、怖いですけど、味方になってくれるなら襲い掛かってこないかなぁ、って」

「心情的には猛反対ですが、ヨーコ先輩の意見に従います」


 賛成二票、投票放棄一票。そんな意見の後に、洋子ボクに視線が集まった。


「ま、いいんじゃない? 戦力は多いに越したことはないし」

「わーい。ありがとよっちー! 他の子もよろしくね」


 笑顔を浮かべるAYAME(首)。両手をあげて喜ぶAYAME(体)。……うーん、シュールだ。


「でもまあ手伝うって言ってもそんなに時間はかからないかな。AYAMEのパワーで警察署を壊してもらえば事は足りるし」


 ゆー……なんとかさんが警察署に居るのなら、これで事足りる。仮にいなかったとしても、警察ゾンビの大多数を建物と共に葬れるのだから、今後の侵攻はだいぶ楽になる。


「ヨーコ先輩、さすがにそれは大雑把すぎるのでは……?」

「日本のことわざでいう所の、たぶんこれが一番早いと思いますデスね」

「警察署を壊したら警察の人が仕事困るんじゃ、って音子は思うんですけど? あ、いないんでしたっけ警察の人」


 若干不満の意見はあるけど、反対にまでは至らないようだ。


「あ、そう言うの暫く無理だから」

 

 身体の方の手をあげて、AYAMEが告げる。


「……なんで?」

「よっちーに首斬られて治すのにウィルス必要だし。おっきい建物壊すほどの力は暫く無理かな。

 首と体が上手くつながるかもわっかんないのよねー。ここまでばっさりやられたの、おじいちゃん以来だし」


 ……え? もしかして、洋子ボクのせい?


「これが日本のことわざでいう所の、敵キャラは味方になったら弱くなるデスね」


 そんなミッチーさんの言葉が、静かに響いていた。

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