ボクの次の目標は港……あれ? ええええええ?
市役所の戦いを終えた、その日の夜――
「ま、マジハードっス……。【バス停・オブ・ザ・デッド】の皆さん、毎回こんな感じっスか……?」
ぐったりとしたファンたんがテントのベッドで横たわっていた。
あの後一階部分の警察ゾンビを片付け、他のクランの怪我人を搬送したりしながら二階部分もおおむね解放。市役所内のゾンビの七割を倒したことになる。
「ヨーコ先輩がノリノリの時はだいたいこんな感じです」
「今回突入したクランが精鋭だったからマシでしたネ。バス停の君の戦いを見て、いい感じで鼓舞されマシタし」
「音子、いろんな人に褒めてもらいました。助かったとかありがとうとか……。こんな幸せでいいんですか?」
対し、福子ちゃんを始めとしたクランメンバーはまだまだ元気なものである。うんうん、僕の教育の賜物だね。
「いやマジですげぇッス。【アームストロング】の人達が助けてくれたとはいえ、ホントおっそろしい動きっスね。特に犬塚さん」
目の前で
「まあ、ボクは超きゃわわで無敵でステキなゾンビハンターだからね」
「無茶無理無謀も追加です。ヨーコ先輩の突撃は、時々肝を冷やすんですから。大丈夫と分かっていても、傍目には怖いことをしている自覚を持ってください」
「痛い! 福子ちゃん消毒液を傷に直接当てるのはやめて!」
「確かにゾンビの数を減らすのが目的でしたけど! ここまで傷を負ってまでとは思いませんでした!」
「きゃうん! いたたたた! いたーい!」
まあ、
「むしろあれだけ突撃してその程度のダメージで済むのがおかしいデスよ。その上できっちり倒すのも含めて」
「でも、お陰で音子は移動が楽でした。ゾンビの気を引いてくれたし、次に隠れる場所の動線も確保してくれたし。
洋子おねーさん、みんなのことを考えて突撃してたの、分かります」
「はー、あの突撃にそんな意図があったんスね。動画チェックチェック」
うんうんと頷くミッチーさん。そしてネコのぬいぐるみを愛でながら言葉を継ぐ音子ちゃん。そしてファンたんはスマホを操作して、今日撮った動画を確認する。
「はぁー。わざわざゾンビの前を横切って射線塞いだり、殴って怒りを自分に向けたり……敢えてこっちの警察ゾンビを殴ってるのはロートンさんのガスを通しやすくするためッスか」
「ええ、そんなことは解ってます。ヨーコ先輩がただ突撃するだけの戦闘バカじゃないことぐらいは。未だに先輩の行動には学ぶ部分は多いです。
ですけど、それと、傷つき過ぎと、言う事は、別問題、です!」
「きゃん、きゃん、きゃん! ダ、ダメージは最小限にした、つもりだから!」
福子ちゃんに消毒液を塗られたり湿布を張られたりしながら、悲鳴を上げる
「実際満場一致でバス停の君がMVPなんデスけどね。ニュースも市役所のゾンビ掃討でほぼもちきり。ワタシらの復活に驚くモノばかりデス。
明日には市役所開放できるって見出しばかりデスよ」
「うん。だから敢えて次は港を攻める! ゾンビの数をどんどん減らさないとね!」
ミッチーさんの言葉にそう告げる
明日も市役所を攻めれば、確実にゾンビを全滅させることが出来るだろう。残った警察ゾンビは、それほど多くない。
だからこそ、ゾンビの数を減らすべくまだ残っているゾンビが多い港を攻める。その後でデパートを攻略するのだ。
「デパートに居るAYAMEの対策はまだ見つからないけどね。……できれば相手をしたくないなぁ」
言ってため息をつく
そもそも、戦わずに済むのならそうしたいのは事実である。状況的にも相性的にも心情的にも。EXボスを倒す、と言うのはゲーマー的に燃えるものではあるけど。
「バス停の君を差し出せば万事解決するポイですけどネ」
「ロートンさん」
「オウ、ジョーダンね。マジおこ禁止よ、コウモリの君」
「ま、どうにかなるさ。きっと!」
デフォルトのお気楽さを前だしにして、問題を棚上げする。その時はその時の
「AYAMEと犬塚さんの関係は敢えて問わないっすけど、港に行くって事なら水着着ていくのはどうッスか!? 青い海! 白い雲! 水着の女子! 超映えるッス! 再生数も爆上げ!」
いってファンたんが用意したのは、水着のカタログ。スクール水着から、赤くて派手なビキニまでいろいろある。
『
「いや。それ着て戦うのは流石に」
「何言ってるんスか! バス停で戦う犬塚さんなら大丈夫! ネタにネタを重ねてこその芸人じゃないんスか!?」
「別にボク芸人じゃないからね!?」
熱く語るファンたんに突っ込み返す
これで終わりと思ったが、思わぬ手段に出るパパラッチ。
「犬塚さんなら……。犬塚さんなら来てくれると信じていたのに!? 小森さんも水着姿の犬塚さんを見たいと思うっすよね! あの制服しか着ない野暮天にオシャレさせたいと思うっすよね! 着やせするあのボディを解放させたいっすよね!」
「まあ、それは……」
「そこで澱まないで、福子ちゃん!」
「いえですけど、先輩のファッションの興味の無さは流石に閉口するというか。これを機会に自分の良さに目覚めてくれればと言う想いがないわけでもなく」
「くっくっく。将を射んと欲すれば先ず馬ッス! 次回は【バス停・オブ・ザ・デッド】の水着回っすよ!」
「あら、ワタシらも着る方向デスカ? なら赤ビキニもらいましょうか」
「あうあうあうあう。音子、学校の水着しか持ってないけどそれでいいですか?」
「小森さん、こちらなんかどうッス? 今なら犬塚さんとペアルックで用意できるっすよ」
「先輩と……ペアルック……いえ、それは、ですけど……!」
「え? ちょっと皆本気!? 水着だよ! 水着でゾンビと戦うとか――いや、そんなゲーム結構あったかもしれないけど!?」
なぜか『水着を着ないといけない』空気が形成されていた。ここで逆らうのは間違っている。そんな空気だ。
これは伝説の『装備制限イベント』!? 特定の装備でないとその戦場に赴けないというアレか! じゃあしょうがないか!
そのまま
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……冷静になると、流石に恥ずかしいと言いますか」
「音子、隠れたいです」
「HAHAHA! むしろ堂々とするデスヨ!」
翌日、港に向かった
音子ちゃんはいつものクロネコローブの下に櫻花学園のスクール水着を着ている。恥ずかしそうにローブで体を隠す姿は、むしろ一部の紳士たちを興奮させそうな姿となっていた。
ミッチーさんは全身を包むボディスーツ。そしてゴーグルに化学マスクだ。肌に貼りついたようなボディスーツはミッチーさんの豊満な身体を余すことなく表現していた。
福子ちゃんは黒のワンピース系水着だ。所々についたフリフリはゴスロリ大好きな福子ちゃんの趣味を思わせる。シンプルイズベスト。正にその言葉がぴったりだ。ただその真価は
「流石っす! 映えるッス! 伝説の動画が出来そうっス!」
「どうしてこうなった」
なおファンたんはいつも通りの軍服を着ていた。解せぬ。
ついでに言うと他のハンター達が水着と言う事もなく、遠くから奇異な視線で見られることとなった。ああ、もう!
「マアマア、一日ぐらいはこういう遊びもいいんじゃないデスカ? 流石にこの格好だとバス停の君も無茶な特攻はしないデショ?」
…………む。まあそれは。普段の制服装備だからこそできる行動は、水着だとセーブされる。
「もしかして、ボクのそう言う無茶を防ぐために敢えて水着に――」
「それにしてもバス停の君、やっぱり大きいデスネ。派手に揺れそうデス!」
「――そんなわけないか」
舐めるようなミッチーさんの視線に、納得する
「とにかく今日は無茶しない程度のペースでいこう。明日はきちんとした装備で――」
「どっかーん!」
どっかーん? と言う明るい声と共に――大津波が港を襲った。港入り口近くにいた
波が全てを飲み込み、水が引いた港には――
「やほー、よっちーも水着なんだ! 一緒に泳がない?」
褐色肌に星条旗ビキニなAYAMEが、こちらに向けて元気よく手を振っているのであった。
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