ボク デッドオアアライブ!
「AYAME……」
目の前にいる
この島を荒らす災害の一つ。多くのハンターを殺し、多くの地形を変えた圧倒的パワー。
それを踏まえたうえでも、今の
「何の用ですか。ゾンビ」
「む。あやめちゃんのことをゾンビって言うとぶっ殺すわよ」
「あー、あんでっど、だっけ? そう言えばその辺の話はあまり詳しく聞けてなかったか」
一触即発な福子ちゃんとAYAMEの間に入るように会話を逸らす
言ってから、確かに
「そうよ、
どよ! お肌すべすべでいい焼け具合でしょ?」
「その褐色肌はウィルスの効果なんだ……。いや、それはうん。イイと思うけど」
言った瞬間に福子ちゃんから強烈な肘鉄を喰らった。あとものすごい殺気を。ちょ、怖い、怖いから! 会話の流れだからそこまで怒らないで!
そっちを見ないようにしながら、会話を続ける。
「だったらよっちーもこっち来る? あやめちゃん大歓迎よ。
他の連中は自分が『成功作』だったのを鼻にかけるか、人間大嫌いでミナゴロシだったり、死ななくなったから趣味に打ち込んだりでつまんないのよー。あやめちゃん、女子トークしたーい!」
「あー。確かにナナホシとかカオススライムとかは女子トークできる相手じゃないかな。でも厳密に言うとボクも男……なんだけど」
「ダイジョブ! よっちー結構カワイイし。あ、見た目じゃなくて魂が、よ。オトコの子なんだけど、キラキラしてるの。分かる?」
「はあ……まあ……」
魂なんか見たこともないので、適当な相づちを返す。
「よーするに、あやめちゃんはヒマなのよ。オモシロいことないかなー、ってわちゃわちゃしてたらよっちーが目に入って。弄って遊ぼうって思ったらよっちー不死れるんじゃね、ってわかったのよ。誘うしかね、ってなるじゃん!
どう? 不死らない? そんで一緒にあそばない?」
ファーストフードに誘うような感覚で、不死への誘いを行うAYAME。
「不死らないって……そもそもなんなのさ、
「……へ? ああ、そっから知らないんだ。めんごめんご」
ぽん、と手を叩いてAYAMEは頭をかいて説明を続けた。
「今いるみんなは、不死になるように作られたのよ。この島で」
さらりと、とんでもないことを言い放った。
「……は?」
「この島はもともと鳳凰? なんか死なない鳥さんがいた島で、それっぽい研究をしてたんだって。研究員とか実験体の子供を集めて、国をかけての実験場を作ってたみたい。島全体が研究所だったみたいよ」
「ま、待ってください! 確かに
AYAMEの言葉に叫ぶ福子ちゃん。
「そりゃ黙ってたんでしょ? 『死なない』ってことをどうやって証明するかって考えたらわかると思うけど」
「え……あ……そんな、人道的にありえない……でも、ゾンビの存在は確かに……。
でも、その……島全体が、と言う事は……私達の学園も……?」
「そ。アンタなんかはわかりやすい動物との遺伝子混合。超能力研究とか何かあった時の兵士訓練もしてたのかな?」
年端もいかない子供に動物の遺伝子を混合させて新たな生命を作る。
薬物を使った脳改造。それにより超能力者を生み出す。
宗教に傾倒させ、精神的な高揚を生むことで魔法に近い能力を生む。
軍人の身体能力や、高い知識や技術を獲得させる。
それら全ての才能がない子供をブランクデータとするために『普通』の人間を集める
学園都市は研究の為に必要な『実験動物』を作るためだとAYAMEは告げた。
「ま、そっちはあくまで生産工場的な感じで、研究の本題は不死の獲得。その為に多くの実験があって、あやめちゃんはそこで不死ったのよ。いえーい!」
軽いノリだが、AYAMEが告げたことはこの島の暗部だ。
島全体が実験場で、学生全部が実験動物。そのことに何の疑問の抱かないような洗脳も施されていたのかもしれない。選ばれし生徒だとか、一〇〇〇人に一人の才能だとか。
もちろんこんなことが明るみになれば、大暴動である。だがそうはならずに研究は進んだ。日本本土から遠く離れた島と言う事もあり、秘密は保たれていたのだ。
してみると、本土と連絡がつかないというのも嘘臭くなる。島に閉じ込めて連絡が取れないようにしているのか。
考えてるあいだにも、説明は続く――
「で、色々あってそいつらをブッチころころしたのよ。その時にウィルスがぶちまかれちゃって。お陰で殺したら殺しただけゾンビが増えてもー、最悪」
「今さらりととんでもないこと言いませんでしたか!? ウィルスが島に広まったのは貴方達のせいなんですか!?」
「あやめちゃん悪くないもん! アイツラ死なばもろともってカンジだったし。
……まー、最初はあやめちゃんもちょこっと責任感じてあっちこっちで暴れてゾンビの数減らしてたんだけど、飽きちゃった」
「飽きたって……いや、話を聞く限りではその研究者がばら撒いたんだから責任はないんだろうけど」
なんだろう。
『
「で、話を戻すとその時のメンバーが、よっちー達が
「……成程。
ナナホシのゾンビ寄生自爆もカオススライムのゾンビ消失も、そう考えると納得か。ハンターだけを倒したいなら、ゾンビを消す必要ないもんね。カオススライムはどっちかっていうと人を見下して、全滅させたいってかんじだったけど」
「カオスちゃん、人間嫌いだからねー」
確かにゾンビを使ってハンター達を追い込みたい、という戦い方ではなかった。
ゾンビを殺し、その場にいたハンターもゾンビ化したら殺す。それが
「で、よっちーはどうなの?
さっきまでちょっと……いろいろ悩んでたみたいだけど、そっちに居られないんなら、こっちに来る?」
誘うようなAYAMEの手。
少し前までなら――福子ちゃんに支えてもらう前ならその手を握っていたかもしれない。AYAMEの言う不死になって、新しいスキルとか手に入れて、死なないデータでこの世界を無双するのも悪くないなんて思っていたのかもしれない。
だけど今は――
「行かない。ボクはこっちで戦う」
この世界で生きる意志――一人の人間として、大事な人たちと一緒に生きていくという意思を込めてはっきりと告げる。
『死ノ偶像』を前にして、真っ直ぐにこの世界の人間として生きると告げた。
「そっか。じゃあいいや」
AYAMEの返事は思ったより軽かった。
「……いいの?」
「今はいいかな。死にそうになったら考え変わるかもしれないし。そん時にまた誘いに来るね」
「ヨーコ先輩は簡単に死にませんよ。お強いですし、私も守りますし」
「あはははは。――上手い事足引っ張ってよっちーを追い込んでね、ザコウモリ」
「そちらこそ無病息災を祈ってます。ウィルス一〇倍濃度ゾンビ」
「あわわっ、落ち着いて二人とも……!」
険悪な雰囲気になる二人をどうにか宥める。福子ちゃんとAYAMEのにらみ合いは数秒続き、どちらともなく背を向けた。そのまま歩き出す。
AYAMEは不死達が待つ場所へ。
生者と死者の交差。生と死の境目。
僕はその選択を終え、日常へと回帰した。
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