ボクは色々背中を押される

 ――あの後、洋子ボク達はミッチーさんと音子ちゃんと合流し、そのままタクシーに乗って一旦クランハウスに戻った。今北区に戻れば、野次馬達とまた出会うこととなるからだ。


「その辺りはハンター委員会がイロイロしてくれるみたいデスヨ」


 帰りのタクシー――もちろん本物のタクシーサービスではなく、学生が運転する運行サービスだ――の中でミッチーさんがそう言った。正直助かる。あんなことが毎日続くのなら、碌に狩りもできやしない。

 とはいえ、すぐに騒ぎが収まるわけでもない。事が鎮火するまで待機するように言われたようだ。

 ……正直、こちらも色々あった。体と心を落ち着ける意味でいい機会ではある。クランハウスに戻り、泥のように休んだ。


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 一夜明ければ気分も落ち着いたけど、ハンター委員会からは今日一日は待機するようにお願いされた。曰くいろいろ交渉中との事である。

 洋子ボク達もそれを受けて、今日一日は休むことにした。その間に色々話し合う事もある。

 具体的には昨日AYAMEに聞いた内容だ。この島でゾンビと戦うクラン仲間である以上、秘しておいていいモノでもないと思う。


「ホントかウソかわからないけど――」


 と前置きして、ミッチーさんと音子ちゃんにAYAMEから聞いた話を告げた。

 この島が不死の実験場であったこと。各学校も無関係ではなく、生徒達もそれに巻き込まれていること。ゾンビウィルスがばら撒かれた経緯と、彷徨える死者ワンダリングの事。

 ……僕の転生については、伏せておいた。信じてもらえないと言う事もあるけど、島との関係性は薄いので。これは福子ちゃんと協議した結果だ。島の暗部以上のことを告げられても、受け入れられないだろう。


「……ナルホド。まあ、そんな所でしょうネ」

「あ、えーと、はい」


 二人の反応は予想外に淡白だった。

 ただしその方向性は真逆で、ミッチーさんはある程度予想していたという顔で、音子ちゃんは話についていけないという顔だ。


「ミッチーさんは知ってたの?」

「確証はないデスけどね。ただゾンビウィルスの件は驚きデス。研究者サイドの暴走と言うのは流石に酷いデス! 日本のことわざでいう所のジャパン無責任時代ネ!」

「……うーん? まあ無責任すぎるて言いたいのは分かった」


 ミッチーさんはいろいろ疑問には思っていたらしい。とはいえ疑問が明確なカタチとなったのはいまの話を聞いてからだとか。


「音子は……よくわかりません。

 だけど、あのおねーさんがお友達が欲しいから洋子おねーさんを誘ったのだとしたら、寂しかったんだろうなって。あ、ごめんなさい。音子は洋子おねーさんが行かなくてよかった、って思ってるけど、それでも、寂しいのはかなしいかなって。ごめんなさい」

「いいえ。その点は私も同意です。……一人は、寂しいですものね」


 音子ちゃんの言葉に頷く福子ちゃん。

 AYAMEは自分を含めた彷徨える死者ワンダリングが不死の実験で生まれた『成功』であると言っていた。軽いノリで言っていたAYAMEだが、そこに至る経緯を洋子ボクは知らない。

 実験である以上、複数の実験体を用意したに違いない。その中で『成功』となったのは七体。どれだけの『失敗』が生まれて、それがどうなったのか。想像こそできるが、決してろくなことではないだろう。


「つまらん。不死アンデッドになる以上、孤独であることは確定なのだ」


 ――と、会話に割り込んだのはカオススライム(ぬいぐるみ)である。一応関係者(?)ということで会話に参加させていたのだが。


「そーいうキミも存外かまってちゃんだよね?」

「何を言うか! そういう口を叩いてもいいのか? 島のことについてもう少し詳しい情報を離してもいいのだぞ。

 交換条件として、とある場所に連れて行ってくれればいい。そこで全てを話そ――」

「それ、そこに行くと力が取り戻せるとかそういうヤツだよね」

「なななななんでわかる!? いや、そんなことはないからなぁ!」


 とまあ、あまり役に立つ情報を言うつもりもないらしい。

 こっちも特段聞くことはないよね、と言うことでカオススライム(ぬいぐるみ)はカバンの中に引っ込めた。


「ま、暗い話はここまでネ。今日は一日のんびりするヨ!」


 空気を入れ替えるように手を振るミッチーさん。それを合図に、皆思い思いの休日を過ごすこととなった。福子ちゃんは部屋の掃除、ミッチーさんは装備の点検、音子ちゃんは庭でネコと遊び、洋子ボクも庭でバス停を手に体を動かしていた。


「バス停の君、ちょっと」


 そんな中、ミッチーさんが周りを気にしながら手招きをする。何事かとミッチーさんに近づいていくと、


「で、昨日の夜はどーだったデスか。コウモリの君と二人きりで、何にかあったんデショ?」

「……え? なんで?」

「コウモリの君の態度を見れば一発ヨ! ついに告白されたデスカ!? されたデスネ!」


 目を生き生きとさせて詰め寄ってくるミッチーさん。うわぁ、何でそんなことわかるのかなぁ、この人……。


「えーと……うん」

「オオオッ!? よーし今夜は赤飯ね! 具体的にどうだったか聞かせるヨ!」

「AYAMEから逃げた後――」


 勢いに押されるように昨夜の福子ちゃんとの会話――転生のくだりは適当に誤魔化して――伝える。自信がなくなった所を励まされて、抱きしめられてその流れで告白されて――


「OK! それで、どう返事したんですか!?」

「『ありがとう、福子ちゃん。キミがいてくれて本当に良かった』って……」

「うんうん。それカラ?」

「……それから?」


 ミッチーさんの効きたいことが分からなくて、問い返す洋子ボク


「それからどう続けたんデスカ? バス停の君の方からの返事は如何に!?」

「返事……えーと……?」

「…………モシカシテ、それ以上は何もしてないとか?」

「うん。そのあとにAYAMEが来ていろいろとあったんで」

「このヘタレがあああああああ!」


 いきなり叫び出したミッチーさんに肩を揺さぶられた。ちょ、なになになにぃ!?


「告白されて! 返事おざなりとか! バス停の君、ひっどいデス! とっとと自分の気持ち伝えてくるデス!」

「え、あのボクの気持ちって、いやその」

「まさかこの期に及んでコウモリの君が好きじゃない、とかいうんじゃないデショウネ」

「ふ、ふふ、福子ちゃんのことがすすすす好きとか、その、そんなことは――ほら、ボクが好きなのはボクなんだしさ!」

「なんでそこでヘタレるデスカネー……。誤魔化してるつもりなら、ラジー賞がもらえるデスヨ」


 ラジー賞。いわゆる『へたくそ演技賞』である。

 やばい。この流れはよくわからないけどやばい。いろいろ追い詰められそうな、そんな気がする。話の流れを変える為に、音子ちゃんに話を振った。


「うえぇあ!? 音子ちゃんヘルプー! ミッチーさんが変なことを言うんだよー!」

「ごめんなさい。音子ウソつくのは苦手なんです」

「……え、どういうこと?」

「その、洋子おねーさんが福子おねーさんに向ける視線とか顔とか、そういうのを見ているとすぐにわかるというか。福子おねーさんと一緒にいる時とそうでない時の動きが違うというか」


 嘘偽りのない音子ちゃんの意見に、退路を防がれたような気分になる僕。え? 本当に!?


「無垢な幼女の意見ゲットデスね! あ、もしかしてバス停の君無自覚? ナイワー。今更ナイワー」

「いやいやいや! ボクはそこまで酷くない……酷くない……はず。うん、そうだよ。そんなことないから。福子ちゃんはすごいから注目していただけで」

「洋子おねーさん、頑張ってください。ネコちゃんも注射はガマンしてくれましたよ?」

「今のボク、注射をいやがるネコ以下なの!?」


 いやいやそれはないよ、と同意を求めたけど帰ってきたのはどこかかわいそうな人を見る目だった。え? 本気でそう思われてるの? 


「安心するです。今から三時間ほどクロネコの君と散歩してくるデスから」

「何その具体的な時間!?」

「よくわかりませんけど、お二人で頑張ってくださいね」

「音子ちゃんまで!? いや、だからなにをがんばるの!?」


 そんなことにはならない……ならない、よね?

 うん、そうだよ。福子ちゃんの気持ちにきちんと答えなかったのは確かに過ちだ。先輩として節度ある答えを返さなくては。そう、気持ちは嬉しいけど恋愛感情ではなく、ハンター仲間として接したい。そう、そうだとも!

 無言の圧力に押されるように、福子ちゃんの元に向かうのであった。


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 作者です。一時間後に続きを投稿します。

 いろいろ長引いたので、前後に分けさせていただきました。

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