ボクは僕だと暴露する
あの後――
「あ、知り合いなんだ。連れて帰る? どうぞ」
「でも君も可愛いよね。一緒に遊ば……いえ、冗談です」
男達はあっさり
福子ちゃんはミッチーさんと連絡を取った後、
「…………」
「…………」
淡く光る電灯の元、
しっかりと
「なにも、言う事はないんですか?」
沈黙の末、先に口を開いたのは福子ちゃんだった。
言う事は、ある。
「ボクのこと……探してくれたんだ」
「当たり前ですっ! いきなり走って逃げだして、スマホも持っていないから連絡もつかなくて大変だったんですよ!」
「なんで、ボクなんかを探したのさ?」
「なんでって、そんなの――」
「AYAMEからは、何も聞いてない……の?」
「なにも。『よっちーが何も言っていないなら、あやめちゃんは何も言えない』と言ってました。……何やらあのゾンビと深い仲のようですけど」
「出会ったのはさっきの一回だけだけどね。……その時に、いろいろ見透かされて」
「よくわかりませんが、あのゾンビに見透かされたことがショックだったんですか?」
「うん。どちらかというと、指摘されたことが、今まで目を逸らしてきたことで……それを思い出して……」
言った後に、福子ちゃんの手を振り払って一歩下がる
頭がぐわんぐわんする。足元が揺れる。心臓の音がうるさいぐらいに響いている。
抱えている
(そんないい子を、これ以上騙すことなんかできない……)
言いたくない。騙したくない。
このままでいい。このままじゃダメだ。
相反する希望に心と体が引き裂かれる。
「ごめんね、福子ちゃん」
謝罪したいのは、自分が楽になりたいから。
最初に謝ってしまえば、もしかしたら許してもらえるかもしれない。そんなありもしない幻想にすがったから。
胸の空虚を押さえるように自分の胸に手を当てて、目をつぶって口を開く。
「ボクは、男なんだ」
「……え、あの」
「実はボクは……ボクの魂は――この世界の魂じゃない」
言った。
「ラノベでゲーム転生ってあるでしょう? まさにあれだよ。この世界はボクが『前』に生きてきた時にやってきたゲームで、その知識をボクはもっていて、ボクが強いのはそれが理由で!
酷いでしょ? 皆が知らない知識があって、それでズルしてたんだ。ボクがゾンビに立ちまわっているのも、福子ちゃんに教えた技も、ミッチーさんや音子ちゃんに出していた指示も、
それを披露して、それを教えて、それを使って! 皆がゾンビを倒すために培った努力をあっさり超えたんだ! そんなの卑怯だって思うでしょう!」
かつて福子ちゃんは言った。努力が認められないのは間違っている、と。
僕の知識は、その努力を超えた結果を見せる。まるでそんな努力が無駄であると告げるように。
チート。騙し、欺くこと。不正行為。
僕と言う存在は、正にそれだ。
「それだけじゃないよ。ボクの魂は男で、みんなをそういう目で見ていたんだ。
体が女性なのをいいことに、女性のフリをして生活して、男の目で皆を見て、興奮してたんだ。
普通じゃないよね、変態だよね、こんなのイヤだよね。福子ちゃんも、そう思うでしょう……?」
「……それが、あのゾンビが見抜いたことですか」
目を閉じているから福子ちゃんがどんな顔をしているかは、見る事はできない。
怖い。怖くて見ることが出来ない。
福子ちゃんがどんな表情で言葉を投げかけているのか、怖くて見ることが出来ない。きっと怒っているのだろう。あるいは汚いものを見る目で見ているのだろう。
それを見てしまえば、心が砕けてしまう。だから、目を伏せたまま言葉を続ける。
「うん。……男性の魂が女性の身体に入ってる。普通じゃないって言われて、それを自覚したら、もうみんなと一緒にいられない、って思って。
だってみんなすごいよ! 福子ちゃんは少し教えただけですぐに学んじゃうし、ミッチーさんはおちゃらけてるように見えて締める時は締めてくれて、音子ちゃんは苛められたトラウマに向き直って……!
僕は、ただズルいだけの人間だから。真っすぐに努力している人の隣にいるのはふさわしくないんだ!」
カンニングで満点を取った人間が、毎日勉強して90点を取った人と肩を並べられるだろうか?
タイムを誤魔化して入賞した陸上選手が、部活に打ち込んで予選落ちした人を嘲ることが出来るだろうか?
僕がやっているのはそれだ。
女性であるからこそ成り立つ共同生活なのに、実は男だった。
女性だからこそ許されていた接触だけど、実は男だった。
しかもそれを心のどこかで望んでいて、悦んでいた。理性で押さえながら、欲望は止められなかった。
それが僕と言う存在だ。
「それが、ヨーコ先輩が隠してきたことですか」
うん。
もう叫ぶだけの力もなく、首を振って頷く。
「……いや、だよね。こんな人間。どこか遠くに消えた方がいいよね」
震える喉で、その言葉を紡ぎ出す。
頷かれて、罵られて、拒絶されて。そうやって心が壊れれてしまいたい。惨めで矮小で卑怯で汚らしい
「ええ。大嫌いです」
はっきりと聞こえる福子ちゃんの返事。予想通りの言葉。
その言葉に体を支える力は抜け、平衡感覚を失ったかのように目の前がぐるんぐるんと回る。そのまま倒れ――なかった。
「そんなことを言う先輩は、大嫌いです!」
倒れなかったのは、背中に腕を回されて支えられていたから。
はっきりと声が聞こえたのは、胸の中で叫ばれたから。
気が付けば、
「馬鹿ですか、先輩は!
知識チート? TS転生? ええ、そんなの関係ありません! ラノベじゃよくある設定じゃないですか!」
「いや、あの、設定とかそう言う話じゃなくて本当にボクは――」
「そういう話です!」
最初はボクが冗談でそう言う事を言っているんだと勘違いしているんだと思ってた。
だけど、福子ちゃん否定するように続ける。
「知識があるから卑怯? 努力しないから卑怯?
ヨーコ先輩が人を見下すような態度で私達にものを教えていたなんて、誰も思いませんよ! 私の成長を喜んでくれたのは、演技だったんですか!? 違うでしょう! 先輩はただ知識があって、それを使って私を導いてくれたんです!
導かれて努力したのは、私です! 私が強くなったのは自分の知識のおかげいだって嘲ってたんですか! 違うでしょう! ヨーコ先輩は、そんな人じゃない!」
福子ちゃんは泣いていた。
「魂が男だから私を助けたんですか!? 知識があるから私を助けたんですか!?
違います! ヨーコ先輩は、ヨーコ先輩だから『
ヨーコ先輩は、ヨーコ先輩です! バス停もってナルシストでどうしようもなくお調子者で! 自分のことが大好きなくせに他人のことを気遣って、自分が大事なくせに他人の為に傷ついて! そのくせ寂しがり屋で手のかかる私の大好きな好敵手です!」
福子ちゃんのぬくもりが、腕の力が、泣きじゃくる声が、僕を支えてくれる。
「知識チートとかTS転生とか、私がそんなことで嫌いになるはずありません!
そんなことでどこかに行っちゃおうとする先輩なんか、大嫌いです!」
気が付けば、
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