ボクはアイツと出会う

【ナンバーズ】というクランは、徹底的に効率を求めたクランだ。

 ゾンビ蠢くこの『AoD』に置いての最適解は、銃器による攻撃。そして数をそろえ、練度を高め、軍隊を形成すれば最強となる。部隊の役割を明確化し、舞台の武装や技量を画一化する。そんなコンセプトである。


「お前が犬塚洋子。【バス停・オブ・ザ・デッド】のクランリーダーか」


 そして目の前にいる男――神原刹那こそが、そのクランを立ち上げたハンター。軍隊系学校である氷華学園。マシンガン系の武器を使う中距離アタッカーだ。スキル構成は<銃神><冷静><銃器熟練>。

 ――そして僕の2ndキャラだ。そう言えばこんな顔だった。見て改めて自分のキャラだと理解する。


「そうだよ。キミが【ナンバーズ】の神原刹那でいいのかな?」

「自己紹介の手間が省けたな。では何をしに来たかも理解しているか?」

「この流れでナンパだったら大笑いだね。まあ、かわいいボクに一目ぼれした、っていうのは納得できるけどさ。

 要件はカオススライムの件だよね」

「分かっているのなら話は早い」


 こちらの冗談をスルーして、頷く神原。ちぇー、面白くない。

 ……僕のキャラなんだから、微笑むぐらいしてもいいと思うんだけどなー。僕と似た嗜好があると思ってるんだけど。


「先ずは事実確認だ。カオススライムがどういう動きをしたか、教えてくれ」

「レポートは書いたけど。あ、もしかして本当にボクに惚れて会いたくなったクチ? やだなー、もう」

「判断基準は多ければいい」

「面白みがないなぁ。それじゃあ――」


 ため息と共にカオススライムとの戦いがどういうものだったかを告げる。とはいえ、ほとんどは報告した内容とあまり変わりはしない。

 だが、こいつは報告の内容を聞いているのではない。おそらく洋子ボクが嘘を言っているのかどうかを探っているのだ。内容を疑っているのではなく、洋子ボクという人間を見ている。そんな顔だ。


「――と、こんな所かな。お眼鏡にはかなったかな?」

「理解した。虚偽報告ではないと判断しよう」

「最強のクランがお墨付きをくれるのなら、世間も認めてくれる、ってことにならない? キミの権限とかでさ」


 ダメもと――というかノリで聞いてみる。後ろで紀子ちゃんが硬直している気配を感じる。

 冷静に考えればハンターランク的にも実績的にも、神原は洋子ボクから見て遥か雲の上の存在だ。長く学園を護ってきた最強ハンタークランの創始者と、出来立てほやほやの弱小クラン。周りの評価も雲泥の差だ。気分を害されればどうなるかと、紀子ちゃんが肝を冷やすのも当然と言えば当然か。


「政治は此方の担当ではない。そしてその担当が出した案が討伐事実の譲渡だ」

「担当じゃないキミが来たってことは、その担当者は根回しの最中かな? あるいはハンター最高峰のキミが出てきたのだから、誰もが威圧されて首を縦に振るだろうと言う思惑かな?」

「頭も口も回るようだな。こちらから言えることは、俺は譲渡を受諾してくれる前提でやってきた。それを変えるつもりなら出直すことになる」

「まさか、ゴネるつもりはないよ。サクッと終わらせよう」


 ひらひらと手を振って、テーブルにつく洋子ボク

【ナンバーズ】……を通してハンター委員会から提案された条件をざっくりまとめると、


『カオススライムを倒した事実は、【ナンバーズ】に譲渡する』

『【バス停・オブ・ザ・デッド】はこの件に関する口外禁止』

『カオススライムを倒した際に得られた戦利品は、全て【バス停・オブ・ザ・デッド】が所有権を持つ。ただし秘匿の関係上、カオススライムの戦利品の提出先及び加工品を用いた装備加工は此方が指定した場所で行う事』


 あとはこの条件を受諾した時に得られる地位向上……要するにハンターランクの上昇や様々なアイテム。そして違反した時の罰則などが書かれてある。

 かなり色を付けた条件だ。口止め料としては申し分なしだろう。


「悪くはない条件、かな。軟禁されてなければ素直に受け取ったかもしれないね」

「不満は担当者に言え。こちらでは関与していない事だ」

「そりゃそうかもしれないけどさー。これ、クランのメンバーと相談していい?」

「当然だ。追加したい条件があれば言ってくれ。期間は三日だ」

「あらま。三日も待ってくれるんだ。もしかして【ナンバーズ】のリーダーって案外暇?」

「二十四分後には出撃だ。後は部下が引き継ぐ。何か質問はないか?」


 うーん、せわしないなぁ。


「おっけー。じゃあ最後にあんまり関係ない事を質問していい?」

「無駄口を叩く趣味はない」

「いいよ。こっちが適当に反応を読み取る。なのでこっち見て。

『YAKIPURIN256』『霧崎・イッキ』『初回特典は大外れの折り畳みサイバイバルナイフ』」

「…………」


 洋子ボクが告げた単語に全く反応を示さない神原。ただ真っ直ぐに洋子ボクを見る。興味がないと言うよりは、何を言っているのか探っている感じだ。

 ちなみに『YAKIPURIN256』は僕が『AoD』で使っていたゲームID。『霧崎・イッキ』は1stキャラ。初回特典云々はリリース開始ガチャの結果だよこんちくしょう!

 うーん。洋子ボクと同じ転生キャラで僕と同じが知識があるなら、反応ぐらいはあるかと思ったんだけど……。


「質問は終わりのようだな。なら少し早いが失礼する」


 言って席を立つ神原。本当に用件を伝えに来ただけのようだ。

 神原が扉の向こうに消えて、ドアを閉める。それと同時に伸びをする洋子ボク


「あー、もう。いろいろ面倒くさいなぁ」

「それだけ犬塚さんが倒した相手がすごいと言う事ですぅ。少なくとも、ハンター委員会がわざわざトップのハンタークランに動いてもらうようにするぐらいには」

「ハンター委員会ねぇ……」


 ハンター委員会。一応、生徒会の下部に値する組織だ。だけど紀子ちゃん曰く、ハンターの地位向上なども相まってほぼ独立している状態らしい。『AoDゲーム』の設定には名前だけあったのは覚えている。そう言う事をする組織だ、程度の説明だったけど。

 ハンターランクを制定したり、ゾンビを狩って得たドロップアイテムを生活に使用しやすいように加工したり、装備品の加工技術を纏めたりと、ハンター活動を支える組織だ。ハンターの兵站全部を担っていると言っても過言ではない。いろいろ手を伸ばし、生徒会やら風起委員やらも影響を受けているとか。


(ハンターランク至上主義も、ハンター委員会が発令したんだよね)


 ハンターランク至上主義を掲げたのも委員会で、【ナンバーズ】を始めとしたハンタークランはそれに乗っかっているに等しい。とはいえ、クランそのものは委員会と同一ではないので、委員会はクランに命令する権限はないのである。

 あるんだけど、神原はハンター委員会の命令を受けて動いたようだ。上に立つといろいろあるのかねぇ、難儀難儀。


「ま、きな臭い話はどーでもいいや! 皆と相談して、意見纏めるか!」


 それまでの空気を払しょくするように、明るく言う洋子ボク。そしてホテルの電話を使って全員の意見を纏める。全員を一ヶ所にまとめて話した方が早いんだけど、それは許可がもらえなかった。


「私はないと思ってるんですけどぉ、クランの皆さんが結託して逃亡するかもしれないと疑う人はいるわけでしてぇ……」

「紀子ちゃんも大変だよねー」


 他の生徒会やらハンター委員会の思惑でやりたいことが出来ないのだ。少し同情する。


「そうなんですぅ。中でもクランリーダーが奇抜なお方でぇ。銃に切り替えた方が安全だ、って言っているのに聞いてくれないバス停使いで、もう少し他の子に目を向けた方が幸せになれるのに自分にうっとりなナルシストだったりとか、色々大変なんですぅ」

「はっはっは。本当に大変だねー」


 やばい、藪蛇だった。結構紀子ちゃんに気苦労かけてるんだ、洋子ボク

 笑ってごまかしながら、クランメンバーに連絡すべく電話の受話器を取った。

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