三章 二律背反 ~生者と死者 男と女 虚(げーむ)と実(げんじつ)
ハンター委員会
ボクは軟禁されていた
下水道の騒動から数日後、
「この扱いは酷くなーい?」
生徒会に身柄を拘束され、軟禁されていた。
「はいぃ。正直やりすぎという意見もあるのですがぁ」
申し訳なさそにいうのは橘花学園生徒会長の紀子ちゃんだ。軟禁されている
「でも、これが六学園全員の決定なのですぅ。ハンター委員会も含めて今回の件は吟味する必要があるとの事で」
「だからってこの扱いはなくない!?」
「っていうか紀子ちゃん、授業とか学校の仕事とかいいの?」
「代理を立てましたぁ。こちらを優先してくれ、との事でぇ……。あと、心情的に生徒会側に犬塚さんの味方をしそうな人が他にいなかったんですぅ」
「むぅ……。無理させてごめん」
ハンター委員会から命令された下水道のゾンビ駆除。そこに現れたカオススライム。それを報告した瞬間、大騒動となった。最初はまたウソをつくのかという流れだったが、半日遅れて帰還した【聖女フローレンス騎士団】の惨状をみて真実だと分かり、そこからはてんやわんやである。
「
そして何よりも、連中は一定の場所に留まらない。法則性なく現れ、暴れて帰っていく。高ランク狩場に現れたかと思えば、初心者用フィールドに混乱を巻き起こしていく。事実、下水道はそれほど高いランクのハンターが集まる場所じゃない。
「はいぃ。事実、先日のナナホシ襲来はかなり影を落としましたぁ。そんな折に、カオススライムの撃破報告です。これをどう扱うかで、悩んでいるとことですぅ」
「カッコよくかわいいボクがカオススライム倒したぜヤッホー! ……とはならないわけだね?」
「はい。犬塚さんが倒したと言う事実は私達六学園生徒会もハンター委員会も理解しています。ですが、他の人がそれを信じられるかどうかですぅ。
今の状態で犬塚さんがカオススライムを倒したと言っても、誰も信用しないんじゃないかと……」
失礼な話だけど、実の所納得していた。
【竜驤虎視】【ヴァンキッシュ】【聖銃字騎士団】の中堅実力派クラン(だったと言う事を後日福子ちゃんから聞いた)を壊滅させたナナホシ。それを発足数日の史上最低規模クランが倒し損ねた、と喧伝したのだ。
倒した証拠もなく、そして武器もバス停。もう大炎上した。そんなネタ武器で倒せるか。ふざけるな弱小クラン。そんな熱が冷めやらない現状でまた
「ボク噓言ってないもーん」
「はいぃ。今回の件もあって、ナナホシの件も信ぴょう性はあるのではという意見も上がっています。ですが少数派です」
「カオススライムを倒した
「せめて【聖女フローレンス騎士団】の人がきちんと証言してくれれば……」
ため息をつく紀子ちゃん。
「無事だったんだあの聖女様クラン。ああ、喋ってくれないの?」
「ええ。かなり酷い目に合ったらしく人間不信になった人がほとんどですぅ。クランリーダーのエインズワースさんはそれを纏めることが出来ず、クランは事実上の壊滅になりました」
あらま。
流石にそんな状態ではまともな証言もとることが出来ず、結局カオススライムを倒したと言っているのは【バス停・オブ・ザ・デッド】のメンバーだけとなる。信用などされるはずがない。
下水道に他のハンターもなく……現状は倒したと言い張るクランは
「もー! ここは『あの超かわいいハンターがカオススライムを倒しただと!?』『なんてこった!? じゃあナナホシを追い返したのもあの可憐なバス停ハンターだったのか!』『セーラー服バス停な洋子ちゃんきゃわわ! カワイイは正義!』とかいう流れじゃないの!?」
「さりげなくナルシスる犬塚さんがいつも通りで少し安心しましたぁ。
ですけどそんな都合のいい展開はありません。現実は此方ですのでご愁傷様ですぅ」
「……で、この軟禁はいつまで続くのさー。まさかずっとこのままってわけにもいかないでしょう?」
すでに三日はこうして何もしない日が続いているのだ。料理はそれなりに美味しいし、ぶっちゃけ待遇は悪くない。ネット環境は取り上げられているけど、電話でクランメンバーと会話することは許可されている。盗聴ぐらいはされているだろうけど。
罰則だった下水道の件も撤回され、治療費もロハだ。欲しい物も言えば買ってきてもらえる。こちらがへそを曲げないように尽力してくれているのは間違いない。
でもまあ、ずっとこの状態が続くのはまっぴらごめんだ。
「ハンター委員会の落としどころとしてはぁ、別の高ランクハンターが倒したことにして、犬塚さん達には相応の報酬を支払うという形にしたいそうですぅ」
「口止め料、だろ」
「沈黙は金ですよぉ」
「将棋だと金よりも銀の方が役立つこともあるんだよ。攻める時とか!」
「それは銀が先陣切って捨て駒になるパターンですぅ。ともあれ、生徒会としても混乱が起きない形にしたいのですけどぉ……犬塚さんは納得できないですよねぇ?」
気遣うように尋ねてくる紀子ちゃん。
簡単に言えば『あんたが倒したカオススライムの手柄を買うけどいい? はい、って言わないとここから出さないよ』と言っているのである。カオススライムを倒したのは
「もしそうなら、生徒会長として徹底抗議――」
「あ。全然オッケー。好きにして」
「するつもりで……ええぇ!?」
「そうした方が早く解放されるんでしょう? だったらそっちで」
「はあ……。あの、本当にいいんですかぁ? 犬塚さんが苦労して倒した手柄を、こんな脅迫に近い形で奪われるんですよぉ?」
紀子ちゃん優しいなあ。立場上、
軟禁しておいて開放を条件に手柄を売るように言う。確かにこれは脅迫だ。原因と言うか名目がナナホシの時の
ただここでごねても軟禁時間が増えるだけである。倒した名誉にこだわっても、得することなどあまりない。
なによりも――
「紀子ちゃんはボクがカオススライムを倒したって信じてくれるんだよね。
だったらそれでいいよ」
「……犬塚さん」
「名誉とかそういうのを求めるキャラじゃないからね、ボク。そこにがっつくのはカッコ悪いもん」
うん。そんな
それが一番の理由だ。
「ボクがカッコよくて可愛いのを知っている人がそう信じてくれるなら、それでいいよ」
「そんなこと思ったこと一度もないですぅ」
「即ぶった切られた! 紀子ちゃん冷たくない!?」
カッコよく決めた台詞をぶった切った紀子ちゃんは、スマホで何処かと連絡を取っていた。
「むむむぅ……。なんでこの人が来るんですぅ……?」
「どうしたの、紀子ちゃん」
「いえ。カオススライムの件で、ハンター委員会が交渉として人を派遣したそうですぅ。もうこちらで完了したと告げたんですが、一度顔を見て話がしたいとのことで……」
「ふーん。で、誰が来るの?」
紀子ちゃんは
「【ナンバーズ】の代表、
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