ボクらは気付けば混沌の海に呑まれていた
そんなことがあってから、おおよそ二時間ぐらい経った。
「ほいっと! これで…………何体目だっけ?」
バス停でゾンビを倒し、汗をぬぐう。抗ゾンビウィルス薬入りのジュースを飲み、一息ついた。五〇体目をを超えたあたりから、数えるのが億劫になってきていた。
「百三十八体目だ! 一分一匹ペースとかユー達おかしいだろ!」
解体をしている十条がそんなことを言う。
「あー、そんなものか。沸く数が少ないからペースもスローだよね」
「……あの中二テイマーと言いロートンと言い、あんな装備で良くここまで狩れるものだ。絶対ズルしてるだろう」
「
「あの秒単位の時間管理を苦行を教育というのは間違ってる!」
三時間ぐらい訓練した十条が必死の形相で叫んでくる。
「秒単位じゃないよ。
福子ちゃんもミッチーさんもそうだけど、なんかボクの訓練を地獄のシゴキみたいに思ってない?」
「え?」
「え?」
しばらく沈黙が落ちた後に、これ以上の追及は負けの可能性が濃厚なのでやめておくことにした。
「しかしこれだけ倒しても赤袋は出ないものだな」
「まー、0.5%だからね。200体倒してようやくぐらい?」
「……なんだその謎の確率は」
「気にしない気にしない」
「そんじゃ次行ってみよう! 音子ちゃん、あっちの方のゾンビは何体?」
「えーと……にひゃく」
「にひゃく?」
「…………二百五十六……です?」
小首をかしげながら、音子ちゃんはありえない数字を口にした。
「にひゃくごじゅうろく?」
「あ、ごめんなさい。間違えました。ええと、マイナス四? あれ? 音子、分かりません。役に立てていたのに、急に、こんなの、可笑しいですよね。エヘ、エヘヘヘ……!」
「なんだ? まともにレーダーも読めないのか。全くこの役立た――」
「マジか」
レーダーが急激にぶれる現象。数がぐちゃぐちゃになり、出鱈目に数字が変化していく。
何が起きているのかに気付き、慌ててスマホを取り出して福子ちゃんたちに連絡を取った――が、まるで通じない。
「ウソだろ。この状況で離ればなれとか最悪じゃん!」
「どうした? ははあ、充電を忘れたとかか? 仕方ないからミーが代わりに連絡を取ってやろう。最新機種を使っているミーに感謝を……おや?」
「無理だよ。完全に呑まれてる」
ため息を一つついて、頭を振りながら状況を説明する
「
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「なんだ……? ゾンビがいなくなったぞ?」
「おい。レーダーが全く動かなくなったんだが?」
状況に気付いたハンター達は、仲間達に連絡を取ろうとする。だがそれすらできないため、とりあえず仲間と合流しようと動き出す。
「いったん戻ろう。皆と合流すれば……ってなんでこんな所に出るんだ!?」
「おい、どうした……どこに行った!?」
道を曲がったハンターは、見たことのない光景に驚きの声をあげた。そしてそれを追いかけたハンターは……先行するハンターが急に消えた事に気付く。
本当は、自分も相手もこの下水道のどこかにランダムで移動させられたことに、気付かない。
「くそ、とにかく誰かと出会わないと……お、よかった。どうなっているかわかる――か?」
仲間を見かけたハンターは武器を降ろしてため息をつく。その仲間は突如泥のように崩れ落ち、覆いかぶさるようにそのハンターに襲い掛かる。そのハンターは物の数秒で骨すら残さずに消え去った。
「…………」
そして泥状の何かはまた人の姿を形どる。全く人間にしか見えないそれは、獲物を求めて徘徊する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「――てなことが今起きてるんだ」
「あの……音子は頭がよくないんでわからないです。どう言う事なんでしょう?」
ゾンビがいなくなった下水道。その一角には
こいつはフィールド全体に影響する存在だ。先ずそのマップにいるゾンビ全員を消去する。そしてマップの時空を歪め、通路をの行先をランダムにするのだ。『
「レーダーが作用しないのは、その副作用だね。隣に何があるかなんて、分からなくなるんだ。
で、ここからが問題なんだけど、この下水道に居るハンターと同じ姿をした敵……カオススライムが擬態したスライムが襲い掛かってくる」
そしてカオススライムは全フィールド内のハンターをコピーして、まったく同じ姿や装備をして襲い掛かってくるのだ。これが本当にわからない。身長体重匂いまでも同じ。データは完全コピー。会話ログもコピーしているのか、それっぽい応答もしてくるのだから始末に負えない。
『
「…………つまり、どういうことだ?」
「レーダーも通信も通じない状態で、自分の知り合いに似た敵なのか、本当に知り合いなのかわからない状況でのサバイバルってこと!」
例えばあそこの角から福子ちゃんが顔を出したとして、それが本物の福子ちゃんなのか福子ちゃんに化けたカオススライムなのかが分からない。そしてカオススライムなら隙を見せれば襲い掛かってくる。
「迂闊に移動すればバラバラになっちゃうし、かといてこのままってわけにもいかないし……!」
「音子はよくわかってないんですけど、そのスライムさんを見つけて倒すことはできないんですか?」
「できるけど……カオススライムが誰に擬態しているかわからないから、出会う人を片っ端から殴っていくしかないんだよね」
そうなると阿鼻叫喚だ。下水道内のハンター全員で殴り会うことになる。疑心暗鬼にまみれた戦いだ。隣人さえ信じられない。
現状、音子ちゃんと十条は、カオススライムではない。だが移動して別れ別れになってしまった場合、再開した時カオススライムが変身したモノかどうかが分からないのだ。
「お、おい……そんなのどうすればいいんだ!? どうやったら家に帰れるんだ!? ミーは武器とかもってないんだぞ!」
「運が良ければ一発で外に出れるから移動してみる? 失敗すれば誰も彼も敵か味方かわからない混沌状態だけど」
「ノー!? そんなギャンブルは勘弁だ!」
十条の叫び声に、肩をすくめる
「なので動かず待つのが正解。だけどここだって安全じゃないからね。カオススライムがボクらの知り合いに擬態してやってこないとは限らないし」
「エヘ、音子は、知り合い少ないから、大丈夫ですよ。エヘ、エヘヘ……」
「あー……。もしかしたら飼っているネコちゃんが来るかもよ?」
「音子は、死にました。ネコを攻撃するなんてできません」
極端だなぁ、もう。
「でもまあ、下水で黙って待つのも嫌だし、何よりも手のひらで踊っているようでムカつくし。
適当に動き回るよりも、ましなギャンブルがあるけど、どうする?」
「ほ、本当か!?」
「うん。音子ちゃんが頑張ってくれれば、何とかなるかな」
「え? え? 音子、ですか?」
自分に期待がかかるとは思ってなかった、という顔で音子ちゃんは目をぱちくりさせた。
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