ボクはガチャを回す

 物資がない。

 ナナホシが襲撃してきた際に、他のクランを見捨てた【バス停・オブ・ザ・デッド】は罰則と他のクランへの示しという意味も含めて活動援助を一時打ち切る。


「おお、マジかー」


 洋子ボクが眠っている間に発行された文面は、福子ちゃんが言っていた内容とほぼ同じだった。ゾンビを狩るに値しないクランは即排除。ただしナナホシの脅威及び発足間もないクランなので、温情で資金援助に留める、以後注意されたし。そんな文章でしめられている。


「何度か撤回するようにお願いしたのですが、聞き入れてもらえず……」

「常識的に考えれば、クラン規模の低いワタシ達が『彷徨う死体ワンダリング』退けたとか、信じるの無理デスからネー。誰も見てなかったのが、一番痛いデス」


 福子ちゃんもミッチーさんも何度も交渉はしてくれたようだけど、結果は変わらず。

 ナナホシは暴れるだけ暴れて、満足して帰っていったと言う結果に落ち着いた。『彷徨う死体ワンダリング』は大体そんな感じで帰っていくので、むしろ自然な流れだ。


「まさかバス停もった可愛いボクが退けた、なんて思いもしないかー。

 実際、最初は仕切り直しの為に一時撤退したんだから、臆病者扱いはしょうがないか。はっはっは」

「笑い事じゃありませんよ。ヨーコ先輩の頑張りがなかったことにされたんですよ。悔しいじゃないですか」

「コウモリの君はそこ気にするけど、とりあえずご飯が大事ネ。ガスと電気も節約モードヨ」


 寝込んでいた洋子ボクの治療などもあり、かなりクランの台所事情はひっ迫しているようだ。


「しばらくは狩りに出るのを控えて、節約に徹するしかありません。ヨーコ先輩のリハビリもありますし」

「食料も調達しないとダメですからネ。となると、MIKADOですか」

「MIKADO……ああ」


 MIKADO。この名前を聞いて、僕はピンときた。

『MIKADO HOMECENTERガチャ』……『AoD』における恒常ガチャだ。狩りの報酬やログインした時に得られる『MIKADOチケット』があり、チケットを三枚でランダムでアイテム一つをゲット。三十枚使うとアイテムを十一個得ることが出来る。

 得られるアイテムには武器や防具(ホームセンター内に銃器や防弾チョッキがあるのは御愛嬌)の他に、食料や日用品も入っている。これらはゲームではハンターランク上昇のポイントに還元できるのだが……。


「あそこから食べ物をかっぱらうって事だね。じゃあ根こそぎ持っていこうか」

「駄目ですよ、先輩。取りすぎると他の人達の分がなくなってしまいます。物資も無限じゃないんですから。その為の整理チケットなんですよ」

「ソーソー。見つけても持っていくのは11個まで。コレ、常識デス」


 あー。そう言う形式でチケット制だったり、アイテムが11個なのね。了解した。


「見つけるにしてもかなりぐちゃぐちゃになってますから、目的のモノが見つかるとは思えませんし」

「へ? 食料は食糧でまとめて並んでるとかじゃないの?」

「そんなゾンビ出る前の状態なわけないじゃないデスカ。略奪されたりゾンビに潜入されて派手に暴れられたりで、積み荷ぐちゃぐちゃヨ。瓦礫の撤去からスタートネ」


 あー。そういう形式でアイテムがランダムなのね。理解した。


「それじゃ、善は急げ! 皆でMIKADOに行こう!」 


 なんでこの人そんな常識的なこと知らないんだろう、という視線が少し痛く感じたので話を逸らす意味も含めて元気よく叫ぶ洋子ボクであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ホームセンター、と言えばゾンビモノでは鉄板の場所だ。

 大量の食糧。武器の代替になるDIY金具やスポーツ用品。そういった物資がたくさんあるがゆえに籠城する場所として選ばれる。だが、ゾンビの数は増え続けていずれバリケードを突破され店内での戦闘……という流れが一般的なのかな?

 MIKADOもその流れで仲間でゾンビに入られ、荒れ放題。中のゾンビは全部駆逐したが、戦闘で荒れた店内を整理する余裕はなく、六学園はハンターの物資補給場所として管理。略奪を防ぐ意味で、入場チケットの配布と持ち出し物品数の制限を制定したと言う。


(ゲームのガチャを現実で表すとこんな感じになるのかー)


 何とはなしに引いていたガチャも、奥が深いんだなぁ。僕は感慨深く頷いた。


「そう言えば、皆はチケット何枚あるの? ボクは60枚持ってきたけど」

「私は120枚です。あまり利用したことありませんので、かなり溜まっていました」

「んふふー。ワタシは330枚デス! がっつり稼ぎましたヨ!」


 なおこのチケットはアルバイトで購入できる。チケットの課金購入はそういう形になるようだ。


「おー、すごい。因みにどんなバイトしてたの?」

「夜にしかできないあーんなコトです。人気のない建物で、二人一組で」

「夜の警備員?」

「なんであっさり当てちゃうデスカネー。面白みのない」


 つまらなそうに唇を尖らせるミッチーさん。……福子ちゃんが顔を赤らめているのは、スルーしよう。うん、これも優しさだ。


「はい。チケットを確認しますね」


 ホームセンターの入り口に設置された受付の人にチケットを渡す。それを機械に入れて不正がないことを確認し、中に入る許可を得る。


「念のために、ルールを説明させていただきます。

 制限時間は30分。持ち出せる品物の数はチケット三十枚に対して十一個までとなっております。不正に品物を持ち出そうとした場合、全品物を回収させていただきますのでご了承ください」


 まあ要約すると『チケット三十枚で十連ガチャ』と言う事だ。

 ホームセンター内を見る洋子ボク。エントランスは広々としているが戦闘の跡があり、その奥にある棚も戦闘の結果かぐちゃぐちゃに折り重なっていた。……どんなゾンビが暴れたんだよ、これ?


「エヘ、エヘヘ……! チケット、チケット持ってきたから……これでいいよね?」


 ふと、後ろを見ると小学校と思われる少女が受付にチケットを渡していた。首にはよくわからない意匠のペンダント。招き猫のストラップ。その他いろいろネコっぽいアイテムをぶら下げていた。


「エヘ……おねーさん達も、参加者ですか? エヘ、エヘヘ」


 笑顔を浮かべながら、話しかけてくる少女。動くたびにぶら下げている者が揺れ、カチャカチャと音を立てる。着ている制服から、彼女の所属している学校が分かったので聞いてみる。


「うん。キミは櫻華おうか学園の子かな?」


 櫻花学園。宗教パワー(物理)でゾンビハンターを行う学校だ。1割ぐらいはよくわからない奇跡とかで死者を退ける力があるとかないとか。


「はい。櫻華の小学四年生です。こう見えても、ハンター、信じられないでしょうけど。エヘ。エヘヘ……」

「そっか、まだ小さいのに凄いね! ボクは橘花学園の犬塚・洋子。よろしくね」


 言って差し出した手をじっと見つめる少女。彼女は怯えるように、その手を見ている。


「うわあ、陽キャの気配。眩しくて、すごいです……あ、すみません。気分悪くされましたよね。すぐ帰りますから……」

「そんなことないよ。キミもガチャしに来たんでしょ? いいの見つかるといいね!」

「がちゃ……? よくわかりませんが、はい。ここに埋もれている『偽典・バステト』が……」


『偽典・バステト』……本系の装備アイテムだ。バステトは確かエジプトの猫の神様で、病気とかから守ってくれるとか。眷属使役テイマー系のダメージ増幅効果やゾンビウィルスの進行を押さえてくれると言う。

 なおレアリティはSSR《スーパースペシャルレア》。0.5%ぐらいの確率だ。渋いなぁ。

 そう言えば、持っているのもネコっぽいものばかり。そう思って聞いてみる。


「ネコ、好きなんだ」

「はい! ネコ大好きです! ごろごろしていてひとになつこうとしないででもきをゆるすとちかよってくれてじそんしんがたかくてかまってくれないとおこったりしてそんなところが――あ、すみません。ドンビキですよね、忘れてください。エヘ、エヘヘ……」


 突如早口で語りだし、そしてスイッチが入ったかのように顔を背けて謝る猫少女。


「そんなことないよ。自分が好きな物に熱くなるのは当然だしさ。見つかるといいね!」

「……見つかるわけないですけど」

「そんなのやってみたいと分からないって。確かに確率は低いけど、行動しないと確率はゼロなんだからさ! ゼロよりは見つかる確率が高いよ!」

「ああああああ……なんてポジティブ思考。無理です。こんな空気には耐えきれません。猫動画見ながら引きこもりますさがさないでください」


 言うなりスマホで動画を再生する少女。

 えーと……僕何か悪いことしたのかな? 本気でわかんないんだけど。

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