彼女はよき好敵手?

ボクの次の目標

 その後二日間ほど休養し、洋子ボクは本調子を取り戻す。

 ……まあ、現実だと銃で撃たれたり剣で切られた傷が一週間で傷痕も残らないぐらいに完治するとかありえない。伊谷さん曰く、ゾンビウィルスを活用した治療法らしいけど……気にしたたら負けだね!


「福子ちゃんも大丈夫?」

「ええ。問題ありませんわ」


 黒いドレスを纏い、髪をかき上げる福子ちゃん。あ、プチ中二病はいった。福子ちゃんも傷が残っているようには見えない。


「それでドロップ品の件ですけど、私は譲るつもりはありませんわよ」

「もー。頑固だなぁ。じゃあレアアイテムで色を付けるか。『鬼の角』欲しがってたよね?」

「…………。ええ、その。どうしてもとおっしゃるのなら受け取ってあげてもよろしくてよ!」


 シークタイム五秒。やはり部位破壊系レアアイテムは魅力的なのでした。


(それにしても……)


 改めて、福子ちゃんを見る。

 身長は洋子ボクよりも少し低いぐらい。年齢を聞いたら14歳。リアル中二。ドイツ語はカミラに教えてもらったとか。と言っても、単語をいくつか知っているぐらいのようだ。

 着ているドレスは『獣魔のドレス』……眷属操作の際にダメージボーナスが乗るドレスだ。色々改造しているらしい。


「カミラお姉様シュヴェスターに頂いたモノなの。私の宝物」


 との事だ。まあ、有り体に言うと1STキャラでは使わなかったアイテムを2NDキャラに渡しただけなんだろうけど。

 あとは使役する眷属。十匹近いコウモリが彼女の周りを飛んでいる。『AoDゲーム』だとこれもアイテム重量に含まれるので、多くの眷属を保有すればその分他のアイテムが持てなくなるのだ。


(まあ、それだけ汎用性が高いんだよね。テイマー系。眷属操作の熟練度プレイヤースキルが必要だけど」


 その難しさもあって、素人からは敬遠されるハンタースタイルだ。


「カミラお姉様シュヴェスターの魂は、天国パラディースに行きました。これで私の目標は果たされたのです!」


 そして中二病。

 性格としては攻撃遅延ディレイが発生したり、パーティを組めなかったりと面倒なことが多いけど、その分メリットも大きい。激情が大きければ大きいほど、攻撃力が増すのだ。

 激情が高いと性格の不利な面が発生しやすくなるんだけど、プラスの能力部分も高まる。一長一短なんだけど、結局ランダムでマイナス効果が発生するのが嫌なプレイヤーも多い。なので無難な性格が選ばれ、お調子者や中二病は敬遠されるのだ。

 ま、それはともかく――


「福子ちゃん、見るからに感情的だもんなぁ。ノリノリだし」

「む、何か言いたげですわね」

「ううん。生き生きして楽しそうだなぁ、って。あと戦闘も頼りになりそうだし」


 ホント、逸材だ。少なくとも転生してから今まであったハンターの中で、ピカ一と言ってもいい。


「っ! ええ、ええ! そうでしょうとも。この『吸血妃ヴァンピーア・アーデル』は孤独なハンター! ドゥンケルに生きる華!

 ですが貴方が頭を下げるのなら、その殊勝さに銘じて一時的に手を結ぶこともやぶさかではありませんわ!」


 厨二モードに入った福子ちゃんが手を口に当てて胸を張る。


「え? ホント! じゃあよろしくね」

「こ、これは『オウガ』共闘の借りを返すだけですからっ、決して深い意味は……え?」

「あ。土下座した方がいい? それじゃ――」

「ま、待ってください! その、本当にそこまでしなくても!」


 土下座しようとする洋子ボクを止める福子ちゃん。


「いいの? 気高きどーけるに生きる華とかなんとかなんでしょ?」

「……その、いいんですか? 私、いろいろめんどくさいでしょうし。自分でもわかって入るんですけど、犬塚さんに当たってしまってるのに」

「そんなの織り込み済みでお願いしてるんだから、いいよ。福子ちゃんがいると楽しそうだし。無理にとは言わないけど、一緒に狩りが出来れば嬉しいな」

「………っ、その……ええ! そこまで言うのでしたら一時的な共闘と行きましょう! あくまで一時的! そう、今回だけですわっ!」


 顔を赤らめて、胸を張る福子ちゃん。よくわからないけど、一緒に狩りが出来るのは助かるかな。


「うん。それじゃよろしくっ!」

「一応私は貴方の好敵手リヴァーレなのですが、礼節を欠くわけにはいきませんからね。ええ、そう言う事です」


 差し出した洋子ボクの手を、少し躊躇した後に掴む福子ちゃん。


「んじゃまあ、次の目的は決まったかな」

「目的?」

「うん。クランを作るために『金晶石』をゲットするんだ。

 福子ちゃんとはパーティ組めないけど、クランは組めるからね」


 クラン。前も出てきたけど、他のゲームでいうギルドのことだ。元の意味は『氏主』。家族的な意味合いをもつ。

 パーティが一時的なハンター同士の協力関係で、クランはほぼ恒久的な関係だ。

 クランにもランクが存在し、そのランクに応じた<クランスキル>がクラン員全体に付与される。その中にはクラン員だけが入れる『ハウス』があったり、他のクランと対戦もでき……るはずだったけど、これは実装前にゲームが終わったんだっけ。

 ぶっちゃけ、パーティの強化版と見ていい。


「私は貴方の好敵手リヴァーレですのよ! そんな相手とクランを組もうなどとどういう神経を――!」

「まあまあ、そういうクランもありなんじゃない? クラン同士だと『ハウス』内でバトルもできるし。それに連絡取りやすいから何かあった時に話し合えるし」

「それは魅力的ですけど、好敵手リヴァーレと同じクランと言うのは……。

 …………はっ。これはあれですね! ピンチの時に颯爽を現れて『あなたを倒すのは私ですわ!』と登場するパターン! いいでしょう。敢えて好敵手リヴァーレの策に乗ってあげます」

 

 なんかいろいろ葛藤していたみたいだけど、自己解決したようだ。僕もクランに入るように無理強いはできないし。


「OK! じゃあ次の目標は決まったね。

 問題は『金晶石』のドロップなんだよね。『チェンソーザメ』を倒さないといけないんだよなぁ」


『チェンソーザメ』……尾びれ背びれなどがチェンソーになったサメ型ゾンビだ。ゾンビって何だよ、ってツッコまれること請け合いだけど。

 倒せば確定で『金晶石』が手に入るんだけど、問題はそのボスステージだ。


「サファイア号はちょっとボクのスタイルと相性悪いんだよね」


 サファイア号。この『御羽火おうか島』と本土を結ぶ船だ。ただしゾンビ騒ぎの際に座礁し、半壊している。浸水しているエリアがあって、そこにチェンソーザメがいるのだ。


「ごちゃごちゃオブジェクトがあって狭いし、足元は水で走っても動きとられるし。おまけにチェンソーザメはダメージ与えると水に潜って逃げるし!」


 走り回れば障害物や壁にぶつかり、水に足を取られて走り回る動きが若干遅くなる。そしてある程度ダメージを重ねると水に潜って仕切り直される。

 洋子ボクのような『動き回りながら近づいて攻める』スタイルだとやりにくいのだ。

 まあ、勝てるけどね。時間かかってめんどくさいだけで。


「ふっ、何を言い出すかと思えば。大きい武器の弱点が露呈したようですわね」


 胸に手を当てて、自信に満ちた表情で福子ちゃんが言う。


「こういう時こそ、我が蝙蝠フレーダーマウスの出番ですわ。

 如何なる足場でも関係なく攻撃できますからね」


 確かに。

 コウモリだからというわけじゃないけど、テイマーの使う眷属はフィールド効果を受けない。イヌでもネコでも変わらず走っていくのだ。ズッコいけどそういう仕様だから仕方ない。

 水に潜って仕切り直されても、中遠距離に対応して攻撃できるので即座に対応できる。そういう意味では相性バッチリなのだ。


「ふふ、早速貸しを返せるときがやってきたようですわね。

 いいえ、さらに戦いの間も差をつけてこの私の強さを見せつけるいい機会シャーンセ! 闇の饗宴フェストに心奪わせて見せますわ!」

  

 拳を握って顔を紅潮させる福子ちゃん。

 うん。やる気が出たのはいいことだ。


「オッケー! それじゃ準備に取り掛かろうか!」

「準備? 今すぐサファイア号に向かうのではなく?」

「そうしてもいいけど、チェンソーザメ対策は色々用意しておいた方がいいからね。

 防刃用グッツとか、サファイヤ号に出るゾンビの対策。あとはテイマーの訓練かな」

「訓練? 私のコウモリの使い方、間違ってます?」


 予想外のことを言われたからなのか、小首をかしげる福子ちゃん。あと厨二モードが解除されてコウモリが日本語になってる。


「ん。基本的には問題ないけど、もう少し使い方の幅を増やしたほうがいいかなって。

 ボクが知ってるやり方を教えてあげるよ」

「二人きりの授業クラッセ! 手とり足取り……はわわわわ」


 何やら別の中二スイッチが入ったのか、祈るように天を仰ぐ福子ちゃん。


「でも戦い方に口出されるのは嫌かな? だったらやめとくけd――」

「ぜひお願いします! 私を貴方色に染めてください!」

「うぉわぁ! あ、うん。そんな大したことじゃないけど」


 なんだか予想以上のやる気に驚いたけど、とにかく方針は決まった。

 それじゃ、行くとしますか!

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