ボクが知らない福子ちゃんのお話
彼女――カミラ=オイレンシュピーゲルと私、小守福子の出会いはまさに鮮烈だった。
「消えなさい
流れるような金髪。夜を思わせるドレス。そして光り輝く剣。
剣が舞う度にゾンビは倒れ、道を切り開くようにゾンビ達が倒れていく。華麗にして優雅。整った顔、そこに宿る力。
小守福子はその姿を前に、一瞬で恋に落ちた。
これはもしかしたら、戦いという場面で生まれたつり橋効果だったのかもしれない。あるいは、尊敬と恋心が混ざり合ったのかもしれない。
「大丈夫かしら? あらあら、可愛い顔に傷がついていますわ」
「あの、ありがとうございます……!」
こうしてカミラと福子は出会う。
剣を使った近接戦闘のカミラ。眷属を使った中遠距離の福子。二人のバランスは良く、そして息もぴったりだ。惜しむべきはパーティを組めない事か。
「剣士は孤独なのですわ。福子も、いずれ分かります」
「はい、カミラ
「発音にまだ日本語交じりがありますわ。さあ、もう一度」
「カ、カミラ
カミラの相応の中二病だったこともあり、福子もその影響を大きく受けたと言えよう。
同じコウモリ系の遺伝子を移植された姉妹。カミラと福子はこの死者溢れる学園内で愛を育んでいた。傍目に見ても愛し合っているとわかる二人。それはに
「あの、カミラ
「ふふ、可愛い福子が羨ましい、という類かしら?」
「あン。そ、その、人目は気にした方が……ひゃぅん」
カミラの愛情は深く、そして周りを見ない傾向にあった。
人前でからかうように福子を撫でたり、狩場でも安全が確保できれば愛でることもある。これでもブレーキをかけているらしく、二人きりになった時は押さえていた分情熱的になった。
「こういう世情ですもの。こうでもしないと、壊れてしまいますわ」
というのはカミラの弁だ。
ゾンビが溢れ、戦うことでしか生き残ることが出来ない状況下である。だが戦いは心を疲弊させる。すさんだ心を癒すために誰かを愛さなければ、いずれ心が壊れてしまうだろう。
だからと言って、それに溺れるほどでもなかった。むしろ積極的にゾンビを狩るからこそ、その反動で深く誰かを愛したのかもしれない。
「ハンター権など要りません。貴族は民のために戦うのが当然なのですから」
そんな中、ハンター至上主義が掲げられる。強いハンターを崇め、そうでない者は従うべし。そんな風潮をカミラは一蹴した。力在るものは力ない者を守る義務がある。そう言ってハンター至上主義者に真っ向から反抗したのだ。
その威風堂々とした態度と美麗なカミラの姿は多くの人気を得た。同時にハンター至上主義者達の傲慢さを際立たせ、多くの人達はカミラを頼るようになった。福子もまたカミラに同意し、尊敬の念を高めていく。
「オイレンシュピーゲルのせいで、【ナンバーズ】からの支援が打ち切られそうだ」
「それは困るな……。強いゾンビの上質なゾンビウィルスが供給されないと、研究が滞る」
「つまらん中二病の戯言で利得がなくなるのは願い下げだ」
ハンター至上主義者達はカミラの人気をねたみ、策を練る。
カミラを不利な状況に追い込み、ゾンビに襲わせようと。
「『
「そうだ。橘花駅の屋上にいる
頻度はそう高くはないが、こういったことは発生する。
強いゾンビに挑んで帰ってこなかった生徒。その後始末ともいえることを頼むのだ。優先順位が高いのは、装備。そして可能であるなら遺髪などだ。
「いいでしょう。それもまた
「話が早くて助かる」
「それで、そのクランの情報は? 合計何名で向かったのかしら?」
「ああ、4名だ。構成は――」
4名の生徒ゾンビ。それを狩って帰るだけなら大したことはない。『
そう。4名なら――
「……う、そ……」
実際にそこに居た生徒ゾンビは、10名。数は2倍以上だ。
普通なら情報と齟齬があった、と引き返して文句を言うのが筋だ。あるいは装備回収を諦め、撤退するのも正しいだろう。どうあれ依頼をした人間に文句を言うべきだったのだ。
「……いいえ、彼らを見捨ててはおけません」
だがカミラは見てしまった。かつての同胞が死してなお彷徨う姿を。
彼らも学園の生活があり、接点こそ少ないが仲間だったのだ。それがああした姿をさらしているのに、なぜ捨て置けようか?
「これも
吼える『
そして8名の生徒ゾンビを倒し、力尽きた――
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
お姉様の訃報を聞いた時、私は何もかもが信じられなくなった。
情報の齟齬が原因。帰らなかったお姉様が悪い。8名までは倒したのだから、二次討伐隊で全員回収できる。そんな情報を聞きながら、私は決意します。
「お姉様は私が必ず!」
誰も信用なんてしません。もしかしたら、お姉様を疎んだ人が敢えて偽情報を渡したのかもしれません。その疑いはどうしてもう払拭できず、他人との壁を作ることになりました。
「信じられるのはお前達だけ」
そうして私は眷属のみに心を開くようになりました。
その結果なのでしょうか? 眷属の扱いが上手くなり、多くのゾンビを倒せるようになったのです。
これならいける。
私はそう確信し、橘花駅に向かいます。遺伝子操作も何もない橘花学園。その駅前は動物系ゾンビであふれ、ハンターの練度もお世辞には高いとは言えませんでした。ため息交じりにゾンビを追いはらい、雑音を払うようにハンターを逃がし――
「……なんですの? あれ」
そんな中、奇妙な武器を持つハンターを見かけました。
バス停。
お姉様の優雅さとは真逆。重そうでヘンテコで不格好で、はっきり言って無様な姿。
そんなものを持った人が話しかけてきた時――呆れました。橘花学園はイロモノハンターしかいないのかと。
「でもついていく。どの道『
そんな人がおせっかいにもついて来て、好きにしてとばかりに手を振って――
こんな人がいなくても、私はやれる。カミラ様を救うんだと意気込んでいたのに、
「うわああああああああああああん……!」
だけど、現実は厳しくて。カミラお姉様を見た瞬間に全てが崩れて壊れて。
もう、何もかもどうでもいい。そんな捨て鉢になった私を、
「ねえ、アーデルちゃん! 動ける!?」
バス停を持った人が、助けてくれました。
その姿は、あの日のカミラお姉様を想起させて。
戦う姿は全く違う。武骨だけど無駄がなく、最後の最後で転んじゃうような情けなさもあるけど――
(ああ、そうだ……。そうなんだ)
これはもしかしたら、戦いという場面で生まれたつり橋効果だったのかもしれない。あるいは、尊敬と恋心が混ざり合ったのかもしれない。
だけどこの感情を、胸に宿る二度目の熱い思いを、小守福子は間違えない――
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…………いいえ、認めません! 助けてもらったことは感謝しますけど、私はそこまでチョロくはありません!
これは……そう、克己心! この人に負けてなるものかっていう反骨心なのです!」
橘花学園の保健室で、福子は赤面する頬を押さえて小さく叫ぶ。
その様子を見ていた伊谷は『中二病めんどくさいなぁ』と冷めた目で見ていたという。
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