ボクと鬼(オウガ)戦、開始!
さて、状況の確認だ。
現状視認できるゾンビは7体。『
(数は多いけど、連携を取るわけじゃない。一定の距離まで近づいて撃つ。それだけの単純
ゾンビ化した生徒の動きは、基本単純だ。音を立てた者や動く者に近づいて、武器の範囲に入ったら攻撃。
え、ポーズを決める必要? だってカッコいいじゃん!
「さあ、鬼退治鬼退治!」
とにかく目立ってゾンビたちを引き付け、アーデルちゃんの眷属を使う隙を作る。これが前衛の役目なのさ!
もちろん、引き付けるだけじゃ終わらないよ!
「体が大きいと、当てやすいね!」
振り上げた腕の死角に回るように移動し、バス停を振るう。分厚い皮膚を裂く感覚。『
「ほーら、こっちこっち!」
足を止めず、『
「彼方より来る夜の帳。永遠の闇から這いずるモノよ。滅びの契約を果たし給え――!」
耳に届く声。アーデルちゃんの攻撃予備動作だ。
うーん、中二病はいってる!
「
飛来するコウモリ。それが
「アアアアアアア!」
襲われた生徒ゾンビはもっている拳銃でコウモリを撃つ。傷つく眷属に動揺したのか、アーデルちゃんの顔がわずかに歪んだ。近くにある柱に手をついて、肩で息をする。
「無理しないでいいから! この程度ならボク一人で何とかなるよ!」
「そういうわけにはいきませんわ。『
(防御用にコウモリ残しているみたいだし。直接ゾンビに攻撃されない限りは大丈夫かな?)
そう結論付けて、
何せ『
「貴方こそ、気を付けなさい!」
「あいあい! ま、ボクに限ってそんな間抜けはないけどね!」
振るわれるコンクリートの柱をバックステップで回避し、大ぶりの隙をつくように距離を詰める。体制が崩れた『
「ルゴアアアアアアアアアア!」
痛みを感じないゾンビだが、度重なる
「鬼さんこちらーっと!」
だがその攻撃を知っている僕からすれば、それを避けるのは難しくない。三回中型の欠片を投げて、最後に両手で巨大なコンクリート片を投げつける。それさえ分かっていれば、その後に攻撃に転ずることもできる。
「ちょいさー!」
大コンクリート片がどこかにぶつかる衝撃音。それがフロアに響く時には、
「そろそろ囲まれそう……っとナイス!」
(眷属の戦闘不能は、結構感染率に影響するから……そろそろ抗ゾンビ薬を飲んだ方がいいかも)
ゾンビウィルス感染率は、肉体的にゾンビに傷つけられるほかに、精神的に動揺すると上昇する。『
「それより先に、ボクが倒してしまえばいっか!」
アーデルちゃんの様子を一瞬伺い、まだ何とかなると判断して『
「カミラお姉様……!」
アーデルちゃんの声。ドイツ語を使わない、素の叫び。
見れば、コウモリの翼を生やした生徒ゾンビが、ゆっくりとアーデルちゃんの方に向かっていた。アーデルちゃんの対になるような眼帯付きの牙マスク。手には血まみれのサーベルを持っている。
アーデルちゃんの顔は青ざめ、防御用に待機させていた眷属コウモリを動かす様子もない。『親しい人のゾンビ化を見た』事による
「あ……!」
鮮血が舞い、崩れ落ちるアーデルちゃん。剣に付着していたゾンビウィルスが傷口から侵入し、感染率が一気に上がる。加えて大ダメージのショックで、体が思うように動かないようだ。
まだソンビ化してはいないようだけど――
「カミラお姉様ぁ……」
カミラと呼ばれた生徒ゾンビは容赦なくアーデルちゃんに向かう。もう動けない彼女を喰らうために。そうなればもうゾンビ化は避けられないだろう。感染率が100%を超えた状態での大ダメージ。生命が尽きると同時にゾンビとなる。
ゾンビ化。それはこの『
『言っておくけど、貴方がやられそうになったら逃げるから。助けないわよ』
アーデルちゃんは『
それはハンターとして当然の行動。ゾンビになる数は少ないに越したことはない。
だから
だから僕が彼女を見捨てる選択をするのも、当然だ。
当然のこと、なのに。
「うわああああああああああああん……!」
聞こえてくる泣き声。
「あああああああああああああああ……!」
そこに含まれる感情など知る由はない。死ぬことへの哀しみか。親しい人への慟哭か。仇をとれず尽きる後悔か。あるいはその全てか、またはそれ以外か。
「ひぃ、あああああああああああん……!」
それを
「――――――――っ」
気が付けば、
気が付けば、僕の思考は回っていた。
彼女を助けるために。『
思考展開。動線確認。敵の行動と時間予測完了。危険度、高し。成功率は――なんとかなる!
「――あらよっと!」
『
ヤツの顔の位置まで飛びあがり、肩口を強く動かしてブレードマフラーを振るう。狙うは『
(ボスゾンビの再生能力を考えれば、スタン時間は五秒! その間に!)
走る。一直線にアーデルちゃんの元に。途中、何名かの生徒ゾンビに撃たれるが、気にせずに走り抜ける。倒れそうになる足を無理やり動かした。
「バス停アターック!」
そのまま走り抜け様にカミラの胴体にバス停を叩きつける。走って得たエネルギーを乗せて振りぬいた。手ごたえはあったが、倒すには至らない。カミラゾンビはこちらに振り向き、剣を横なぎに払う。
「ヤバッ!?」
それをなんとかバス停で受け止めるが、矢次に剣を振るってこちらの防御を崩そうとする。<獣の血>のパワーもあって、じわじわと押されていく。
そこに――『
「あ。これはキッツいかな……?」
目の前には『
そして今だショックとダメージから立ち直れないアーデルちゃん。
詰みじゃね? 僕の冷静な部分は、そう結論付けていた。
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