ボクと吸血妃
あの後も狩場を『橘花駅』の入り口付近に変えて、狩りを続けた
「わらわらしてるねー。他の生徒達もちらほら見えるよ」
橘花駅入り口。ハンターランク0から3ぐらいまでの狩場だ。駅内部にはランク4以上にならないと行くことが出来ない。それ故にランク3までのハンターはここで狩るしかないんだけど……。
「逃げろぉ!」
「犬、犬怖い! ひぃぃぃぃぃぃ!」
そんな悲鳴が遠くから聞こえてくる。走ってくる生徒達の後ろからゾンビ化した犬が追いかけていた。布マスクにゴーグル。防弾チョッキに拳銃。ある程度ゾンビを倒してランクを上げ、駅内を探索したハンターの装備だ。
それが何に追われているかというと……。
「あらぁ、ゾンビ犬だ」
四つん這いと言う低い姿勢と、俊敏な動き。その動きから『二大初心者キラー』の名を冠している。
ちなみにもう一つの初心者キラーはと言うと、
「カアアア!」
「おー。カラスもいるや」
電柱の上で己の存在を誇示するゾンビカラス。こちらも体の小ささと飛行するという動きにより、『二大初心者キラー』の一翼を担っていた。
「わぁ! 誰かいるぞ!」
「君も逃げろ! ゾンビ犬が来たんだ!」
走ってきた橘花学園生徒は
(ゾンビ犬はパニックを起こさせる遠吠えをする。で、その遠吠えと戦闘音を聞いてゾンビカラスもやってくる。
橘花駅の二連コンボ。学園周辺でこの二種類がいるのって橘花だけだもんねぇ。差別だよ全く)
僕はそんなことを思う。初心者キラーが学園を出てすぐ隣のマップに二種類いるとか、初見殺しにもほどがある。だが、ネット上ではあまり話題にならなかった。何故なら――
(ま、『普通』の橘花学園はだれもPCとして選ばないからね。
ホント、バランス無茶苦茶だよ。このゲーム)
などと思っている間に逃げてきた生徒達は
「まっかせて! ワンワンの相手は僕がするよ。だから君達は逃げて」
どやっ、という擬音が出そうなほどの笑顔。相手はそれを見て困惑の表情を浮かべる。
「いや、君ランク0だろ!? あの犬の恐ろしさを知らないんだ!」
「っていうか銃持ってないの!? 早く逃げて。このままだと君も巻き込んじゃう!」
だけど、逃げてきた生徒達は汗を流して
……まあ、銃以外クズ装備なこのゲームにおいて、ランクが低い上にネタ部類の近接武器な
「もー! だから大丈夫だって!」
「大丈夫じゃないんだって! ああ、仕方ない。弾丸は後何発残ってる?」
「今銃に入っている三発で打ち止めだ。今日はアイテム収集の為にマガジン数減らしてきたからな」
「防弾チョッキ重いもんなぁ……。ええい、とにかくここで足止めだ!」
「ここは俺達が食い止めるから、キミは早く逃げるんだ!」
「それボクのセリフだって!」
覚悟を決めた生徒二人は、銃を構えてゾンビ犬を迎え撃つ準備をする。
「行くぞ!」
Uターンしてゾンビ犬に挑む二人。拳銃の射程範囲に入ると同時に引き金を引くが、それを察したかのように横に飛んで弾丸をかわすゾンビ犬。
「ワオオオオオオオン!」
「動くんじゃねぇ! 畜生、この動き苦手だ!」
「やばいぞ! ゾンビカラスまで来た! ちっちゃくて当たらねぇ!」
「くそ、これが最後のマガジンだ……!」
そうこうしている間にゾンビ犬が咆哮をあげ、近くにいるゾンビに人間の存在を告げる。電柱に止まっていたゾンビカラスが翼を広げ、二人に襲い掛かった。あー、もう。まるっきり素人の動きじゃん。見てらんない!
「ああ、もう! ボクに任せて!」
「前に出るな! そんな装備じゃ危険すぎる!」
「俺達のことは気にせずに逃げるんだ!」
助けに入ろうとするけど、生徒二人は
いや、その、カッコいいとはおもうけど……邪魔ッ!? どいてよー!
「闇に潜み我が眷属、血の契約に従い嵐となれ。黒の暴虐をここに召喚せよ」
そんな戦場に、朗々と響くソプラノの声。
「
そんな言葉と共に、突如黒の翼が飛来するが起きる。ゾンビ犬とゾンビカラスを巻き込んだ、コウモリたちの攻撃。
蝙蝠が飛んできた先に、一人の生徒がいた。ゴシックな黒ドレス。背中まで伸ばした銀髪、エメラルドを思わせる碧眼。年齢は中学生かな。牙の装飾が書かれた顔の下半分と片目を包む革製のマスクをつけている。マスクのせいで表情は分からないけど、見えている片目の視線は鋭い。
「見てらんないわね、
そして何よりも特量的なのは、背中に生えた黒い翼。それは彼女が飛ばしたと思われる蝙蝠に酷似していた。
「あれは
呆然としている生徒の一人が叫ぶ。
光華学園――この島にある六つの学園の一つで、遺伝子開発を研究している。そこの生徒は遺伝子操作によりケモノの遺伝子を持っているのだ。ゲーム的に言えば、選んだ動物に則したスキルを貰えるのだ。
「
所々交わるドイツ語。小ばかにしたような態度。そして悦に浸るその様子。
うん、間違いない。この娘の性格は――
「ありがとうございます! あの、お嬢さんお名前は!」
「名乗るほどでもないわ。アーデル……そう、『
「おお。よくわからないけど、すげぇ!」
なんかカッコいい響きとその場のノリで圧倒される男達。
(
武器を持たずにいろいろ出来る無敵スキルなように見えるが、欠点は多い。眷属も一定のダメージを受ければ戦闘不能になり、ホームに戻るまで使用できなくなる。なのでサブの武器を持っているのが基本だ。
そして眷属がダメージを受ければ精神的ショックを受けてパニック判定を行う。数を増やせば増やすほどその回数は増えていくのだ。彼女も今、そのパニック状態なのだろう。
「消えなさい。貴方の運命が、私の闇に巻き込まれる前に……!」
顔の半分を腕で隠し、コウモリの翼を広げる少女。
(間違いない。彼女は『中二病』だ)
パニックを起こすと
まあ、それ自体はオモシロ系パニックなのだが、デフォルトで(さっきみたいに格好をつけて)攻撃するまでの時間が増えたり、孤独を求めるとか心の壁を作ってしまうとか右手が疼くとかそんな理由でパーティ登録から外れてしまうのだ。そっちは結構キツイ。
「分かった……。ありがとう」
言って二人の生徒は橘花学園の方に戻る。
その間、
「そこの貴方も……なんですの、その武器? 冗談にもほどがありますわ」
「えー? バス停強いよ。斬撃属性も打撃属性もあって、盾にもなって。
あとボクが持つと鬼カワイイし!」
言ってポーズを決める
しかし彼女はため息をついて、そのまま歩き出す。
「気を付けなさい。
死にたくなければ、大人しく学園に戻りなさい」
去り際にそんなことを言い放つ。まあ、
「分かった。心配してくれて、ありがとう!」
「……皮肉が通じないとか、ホント
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