鬼退治は楽勝……じゃない
ボク、一気にランクアップ!
予期せぬ乱入もあったけど、
迫ってくるのは数体のゾンビ犬。真っすぐに突っ込んできて、攻撃を察知して避けたのちに、噛みついてくる。
「あらよっと!」
だけどその動きを理解していれば、逆に攻撃のタイミングは読みやすい。真横に飛んだ後に飛びかかってくるのだから、敢えて攻撃して横に飛ばして攻撃したところをカウンターで殴りかかる。
慣れてくれば、リズムゲームの感覚でゾンビ犬は処理できる。基本的に両手武器は重く振り切った後に大きな隙が出来るが、それを埋めるために攻撃速度を強化しているのだ。
「にゃはははは! ボクは無敵だもんね! 負ける気がしないよ!」
性格『お調子者』は、感染率が一定数以下なら、激情値の数値に比例した攻撃速度増加が乗る。うんうん、こうして調子に乗っているのも
……まあその、いろいろ楽しいな、っていうのは否定しない。元の僕の性格や人格は全く思い出せないんだけど。
「うんうん。回収品もたくさん集まったね。『牙』に『犬の血』に『カラスのクチバシ』。結構溜まったなぁ」
アイテムボックスの中はそれなりの量が溜まってきている。
『AoD』には重量の概念がある。1キャラが持てる荷物総数は決まっていて、。武器や弾丸や服装備などにも重量を引いた残り分だけ、狩りでアイテムボックス内に収集品や加工物などを入れることが出来るのだ。
つまり、重火器などの重い武器を持っていればその分ドロップ品を持ち帰ることが出来なくなる。ガチガチの防護服も同じことだ。弾丸やゾンビ感染率を下げるアイテムなどにも重量がある。
なので一回の狩りで入手できる収集品は基本的に少ない。『力持ち』などの特殊能力持ちがいれば多少は増えるが、その程度だ。
「これで折り返しかな。まだまだ稼ぐぞー!」
だけど
「犬だろうがカラスだろうが、どんどんこーい!」
なので、まだまだ狩りは終わらない。通常の生徒が一時間ぐらいで弾丸切れや重量オーバーで帰るけど、
(ま、一発大ダメージけて腰が抜けたら、そのままなし崩しにやられちゃう可能性もあるけどね)
だけど、僕のプレイヤースキルがあればこんな所で負けることはまずない。自惚れではない。それだけこのゲームをやり込んだ。……前世のことは何一つ思い出せないけど、ゲーム知識だけははっきりと思い出せる。
(どういう事なんだろうね。記憶喪失になった人間が、お箸を持った瞬間に『ご飯の食べ方を思い出した』……とかそういうのかな?)
ともあれ、僕が集中を切らさない限りは攻撃を避けそこなう事はない。そして
(んー。マフラー最高! ガスマスクみたいな装着系だと戦闘中に飲料水飲めないもんね!)
マフラーをわずかにずらし、そこから水を飲む。体内に冷たく透き通った感覚がいきわたり、すっきりした感覚になる。
「さー、次行くよ! ボクの相手は何処だー!」
夜は長い。
狩りはまだまだ始まったばかりだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「というわけで、今回の収集品だよ!」
「ひゃあああああ! 犬塚さん、すごいですぅ! どうしたんですかぁ、急に? 今までこんなに収集品を集めたことなかったのにぃ!?」
そっか。
冷静に考えれば当然で、『AoD』において近接武器は使えない武器。それを使う
「ま、ボクにかかればこんなものだよ! いぇい!」
言って胸を張る
「そういう調子に乗るところは変わらないのですねぇ。安心しましたぁ」
「どういう意味さ、それ」
「だって、犬塚さんの狩りのスタイルが皆に馬鹿にされていたのを見ていたので……。そのぉ、ついに近接武器を諦めてぇ、銃に持ち替えたのかと思ったんですぅ」
言葉を選ぶように紀子ちゃんが言う。
(たしかに、これまで碌な収集品を稼げなかった
それだけ近接武器は役立たずなのだ。プレイヤースキルがあって初めて生きることが出来る。そんなハズレ武器。
だけど、そんなハンタースタイルでも稼ぐことが出来る。
「ふふん。何度も言ってるじゃないか。ボクはこのトレードマークを外すことはないのさ!」
言ってふさぁ、とマフラーを振るう。うーん、
「そんな事より、収集品の検査お願いね。これだけあればランクもすぐに上がるでしょ?」
「もちろんですぅ。少し待ってくださいねぇ。お手伝いお願いしますぅ」
「ま、一気にランク3まで上げて、もう一回『橘花駅』入り口で稼げて4まで上がれば次は駅構内。いいスタートダッシュかな?」
「馬鹿言わないでくださいよぉ、犬塚さん」
「あははは。さすがに一気に3は無理か」
「ランク7です」
「はい?」
「ですからぁ、犬塚さんの今のランクは7になりましたぁ! 橘花学園どころか六学園でも稀にみるレベルのランクアップですよぉ!」
「はいぃぃぃぃぃ!?」
……おー。それは僕も驚いた。
「……ホントに?」
「ホントですぅ。レアアイテムが一二個。アンコモン四十三個。コモンが八〇六個! 全部数えるの苦労したんですからねぇ」
「うわあ。ボクってすごいや」
流石に棒読みになっちゃう
「凄いなんてもんじゃないですよぉ。半月ぐらい畑が賄える量ですよ、これぇ。鮮度のいいゾンビ細胞を肥料にすると、作物もよく育ちますしぃ」
「……ホント、ゾンビウィルスってわけわかんないねー」
「でもお陰で私達は生きていけるんですから、そこは感謝ですぅ」
『
「でもランク7か……『橘花駅』のホームまで行けるよね」
「そうですねぇ。あそこの三階には『
『
(だけどま、その程度なんだよね。分かりやすい『ゲーム初めてのボス』タイプ)
攻撃のタイミングも、他のボスに比べれば分かりやすい。そう苦労することはないだろう。
「ダイジョブ! ボクにかかればちょちょいのちょいさ!
サクッと倒して、さらにハンターランクアップだ!」
ポーズを決める
その態度に紀子ちゃんは困った顔で苦笑するのだった。むぅ、信用ないなぁ。
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