ボクはさすがに憤る
「お断りだね。ボクは銃なんかよりも
距離を詰めてきた後藤達。それを振り払うように腕を振る
そんな反応を面白いと思ったのか、ニヤニヤしながら
「そう言うなって。そんなクズ武器なんかよりも絶対銃の方がいいから」
「俺達、親切で言ってるんすよ。し・ん・せ・つ。人の好意を受け取れないんすか?」
「俺達とちょっと付き合えば、いい拳銃をやるからさ。どうよ?」
うっざぁ……。そしてまとわりつく男の視線。
僕が元男だという事もあるけど、これは駄目。キモチワルイ。
「どーせアダマン改造されたコルトかシグなんだろうけど、そんなの要らないんだよ!」
腕を振るようにして後藤の手を払い、拒否するように叫ぶ。
アダマン改造というのは、前にも言った『加工品』の一つだ。命中率をあげるモノで、拳銃系ならコレ! という改造である。
コルトとシグというのは、拳銃の種類だ。ざっくり言えば、そこそこの威力を持ち
「いや、中国産トカレフ」
「粗悪品じゃん! 不良品押し付けるとかどういう神経してるのさ!?」
トカレフと言う銃は大元はロシア(当時はソビエト連邦)で作られた銃だけど、中国が技術者を引き抜いて生産した銃もある。その後国同士ですったもんだあって部品が届かなくなって銃の質が劣化。摩耗しやすくなり壊れやすくなったのだ。
『AoD』でもその歴史が受け継がれているのか『手に入りやすいけど、すぐに壊れる』銃になっている。
「うるせぇ! とにかく俺の言う事を聞いてりゃいいんだよ!」
「黙ってついてくりゃ、優しくしてやるぜ」
「抵抗してもいいけど、男三人に勝てるなんて思うなよ」
言いながら迫ってくる三人。さっきと同じように
「遅いよ」
さっきはおとなしく掴ませてやったけど、今度はそうはさせない。身体をひねるようにして前に出て、男達の間をすり抜ける。
予想しなかったこっちの動きにきょとんとする後藤達。そんな三人に挑発するように手を振る
「ゾンビだって逃げられたらもう少し早く体を動かすよ。ハンターランク10の動きはゾンビ以下なの?」
「あ? 言いやがったな。ランク1の分際で!」
「ふふん。そのランク1を捕まえられないのは誰かなー?」
煽る煽る。
「このアマァ!」
怒った後藤は顔を真っ赤にして
やだよこんな壁ドン! とか考えている余裕はない。取り巻きの男達も興奮したかのように息を荒くし、そのままどこかに引っ張るように力を籠める。階段下のスペース。廊下の死角。気にしなければ誰の目にも止まらない空間に連行しようとしているのが分かる。
「ちょ!? 洒落になんないからね、これ!」
「洒落にならないのはこれからだぜ」
「ハンターランク1が10の俺様に対して偉そうにした罰っていうのを教えてやるよ」
うわ、本気だよこいつら!
男達に囲まれて連行されそうになる
あまりの衝撃に目を白くする後藤。
(うわ……。男ならイヤでもわかる。痛いよなぁ、あれ)
うずくまる後藤に悪いことをしたなぁ、という気持ちになる僕。だけどそこに構ってる余裕はない。驚く取り巻くの不意を突いて離れ、後藤に捕まれていた部分を汚い物を振り払うように払って落とす。
「テメェ、何しやがる!」
「それはコッチのセリフだよ! こうなったら徹底抗戦だ!」
息まく取り巻きに拳を構える
だがそんな場に響く声――と共に反転する視界。
「そこまでですぅ!」
「あきゃあ!?」
聞こえてくたのは紀子ちゃんの声。そして複数の足音。
気が付くと
「学校内での暴力行為は禁止ですぅ! 風紀委員さん、連行!」
状況的に、紀子ちゃんは戦闘行為に移った
うーん。さすが、運営キャラということなのか。そんなことを思う僕。でも
抗議しても聞き入れられず、
「この女が悪い!」
そして風紀委員達の前で、堂々と言い放つ後藤。……えー。今状況を正しく説明したよね。なのになんで堂々とそう言えるのさ。
「ハンターランク1のくせに俺に逆らおうとしたんだ!」
「拉致監禁にハンターランク関係ないだろうが!」
「ハンターの先輩である俺が教えてやろうとしただけだ! いろいろとな!」
うわー。盗人猛々しい。支離滅裂にもほどがある。
「俺のランクは10なんだぞ。1のお前より強くて偉いんだ! お前より俺の方が学校に貢献しているんだぞ! 敬意を払いやがれ!」
後藤の主張は、概ねそんな感じだった。
ハンターランクは、ゾンビをどれだけ倒してゾンビの細胞をどれだけ回収したかで決まる。ゾンビウィルスに汚染された細胞は強い活力と生命力を持ち、農作物の生産量増加や電力変換による代替エネルギーとして各学園のインフラ維持に使用される。
つまり、ゾンビを狩れば狩るほど学園は助かる。そういう意味で、ハンターランクの高い人間が学園に高く貢献している、という考えは間違いではない。実際、初心者の壁ともいえるランク10を突破したのだから、それなりに努力したのは確かだ。
「ゾンビとの戦いご苦労様。これでいい?」
「ふざけてんのか、テメェ……!」
「
「ふざけ――」
「お前達、黙れ」
激化する口論に水を差す風紀委員。
「校内での暴力行為は禁止だ。規定に従い裁決を下す。
犬塚洋子のハンターランクを0にする。以上だ」
…………は?
「ちょっと? 罰されるのはボクだけなの!?
「
また
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?
「何言ってるのキミ! ハンターランクが高いからって何しても許されるっていうの!?」
「そうだ。ハンターは我らをゾンビから守り、生活を支える盾にして剣。それに対しての特権として定められた『ハンター権』がある。
全六学園における共通の権利だ。全ての生徒はハンターに貢献し、称えるべし。今回の採決もそれに従ったに過ぎない」
「おっかしいだろ、それ!? 確かにハンターがゾンビを狩るから学園は何とかなってるけどさ!」
「ならそれが答えだ」
それ以降は水掛け論だった。
そのうち聞く耳もたない、とばかりに風紀委員室から放逐された。
「ま、そう言う事だ。もうすぐ狩りの時間だから許してやるが、明日からヨロシクな。ランク0」
「一緒にパーティ組むなら、マシかもしれないぜ」
「どっちにしろ、楽しませてもらうけどな」
去り際に後藤達はそう言い放つ。獲物を捕らえた狩猟者の声で。
目に見えない何かに縛られたような感覚に、しばらく声が出せないでいた。
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