ボクの学園生活
スマホのアラームが朝を告げる。
気が付くと、朝だった。あの後、服も着ずに気を失い、そのまま寝入ってしまったのだ。
「………………オンナノコのカラダ、ってスゴイ」
自分のカラダに触れた感覚を思い出しながら、僕は呟く。
弾力のある水風船を掴んだような胸の感触とその時生まれた心地良い脱力感。漏れる吐息が耳に届き、理性を溶かしていく。胸の突起に触れた時の甘い電流。下腹部に生まれたじんじん響く熱の塊。その熱が集まる場所に指を這わせた時の蕩けるような痺れ。生暖かく粘性のある液体をかき混ぜる音。押さえられない嬌声。そして指はそのままオンナノコの奥の奥まで……。
「んにゃああああああああああ! 恥ずかしー! なくなれ記憶!」
途中から歯止めが利かなくなり、あられもなく恥ずかしい言葉を叫び続け、体中をけいれんさせながらイケナイ状態になった
その記憶は鮮明に残っている。それを思い出し、心臓が跳ねあがった。顔が熱くなり、むずむずしてくる。
これは封印しないといろいろ駄目になる! よし、忘れよう!
「って、もうこんな時間じゃないか! 早く着替えないと! その前にシャワー浴びないと!」
慌てて登校の準備をする
当たり前だけどゲームの『AoD』に学校の授業というシステムはない。風景の一つとして教室とそこに座る生徒はいるが、先生もいないこの学校において授業などあるはずがない。
だが、この世界を生きる
もしかしたら、サービス終了しなかったら実装されていたエリアもあるのかもしれない。そう思うと、ワクワクしてきた。全部知っていると思ってたけど、知らない世界がある。そこに行けるかもしれないのだ。
まあそれはそれとして、
「遅刻しちゃうよー!」
叫びながら走る
(うーん。これは
僕は昔学んだ脳の記憶の事を思い出す。
脳に残る記憶は大きく二部に分類される。イメージや言語化できる陳述記憶と、身についた習慣や効率よく体を動かす運動能力と言った言葉では伝えにくい非陳述記憶だ。
(この肉体にある脳は
そんなことを考えながら、教室の扉を開ける。流れるように席に座ったと同時に、先生――の代わりを務める生徒が入ってくる。この橘花学園の生徒会長にして『AoD』公式NPCの<
「み、皆さぁん……! そろって……ませんね。はぁ……」
紀子ちゃんは教室の集まり具合を見て、ため息をつく。肩をすくめると同時に太いフレームの眼鏡が、少しずれた。
生徒会長『羽賀・紀子』。橘花学園の生徒会長だ。性格は『世話焼き』。ゲーム的にはチュートリアルを担当するキャラで、チュートリアルをすっ飛ばすと最初に出会うだけの子になる。
確かに先生のいない学校で教育をするならこの子だよなぁ。僕はそう納得していた。教員免許とかゲームの世界なんだから関係ないない。ゾンビパニックな非常事態だしね。
「それでは出席を取ります。相田さん――」
僕は教室を見る。
授業を受けに来たのは数人ぐらい。25人教室は閑散としていた。
世界設定的に、この世界の学園制度は崩壊している。ゾンビが現れ、先生を始めとした大人たちがいなくなった世界。大人たちは逃げたか、あるいはゾンビになったか。ともあれ未だ生き残っている人間は生徒だけと言う状況だ。
こんな状態でまともに授業を受けようなんて言う生徒がいなくなるのも当然だ。事実、生きる為に必要なのはサバイバル技術と戦闘技術。食料生産やバリケード作製、通信関係といったインフラ関係だ。学校の授業なんて受けても時間の無駄、と思うのも当然だろう。
「犬塚さぁん! 返事してください!」
「へ? あ、はいはーい!」
忘れてた。出席番号順なら二番か三番じゃないか、犬塚って。慌てて返事を返す
「そんなに私の声は小さいですかぁ? ショックですぅ」
「あははは、ごめんごめん」
だが、そんな状況でも紀子ちゃんは授業をする事に拘る。それは『世話好き』というキャラクターの
「いいですかぁ? 皆さんの本業は学生なんですぅ。
確かに外はあんなことになりましたけどぉ、戦う事だけに染まったら元の生活に戻れなくなっちゃいますからねぇ」
いずれ『日常』に戻れるように。そういう想いがあるのだ。
この『普通』こそがこの橘花学園の特徴。『軍事訓練』だったり『超能力開発』だったり『遺伝子操作』だったりする他学園の中において、異質ともいえる『普通』の学校。
だからこそなのだろう。こうした『日常』を維持しようとする者がいて、そこに依る
(……授業の内容はチンプンカンプンだけど)
元々の
「ぐへー。じぇんじぇんわかんなぁい……」
授業が終わって解放された
「そこで俺の銃が火を噴いて、ゾンビたちを蹴散らしたのさ!」
「すげぇ! 流石後藤さん! カッケー! 俺達じゃそうはいかないぜ」
「ハンターランク10は伊達じゃねぇっす! 俺も早くランク上げないといけねぇっす!」
そんな会話を聞きながらその横を通り抜け、
「おう。そこに居るのはランク1の素人ハンターじゃないか。しかも近接系のネタ武器使い」
「聞いたことあるっすよ。バス停とマフラーに拘る変人女だって」
「うわぁ。本当に要るんだ、そんなハンター。よく生きてますね」
通り抜けようとしたら、いきなり道を塞がれてそんなことを言われた。
「そりゃ、逃げ回ってるんだろ? 何せハンターランク1だからな!」
「学校近くのザコゾンビに逃げ回るとか、どんだけっすか」
「ネタ武器使いだから仕方ないか。近接武器とかマジ役立たずだからな!」
うわー。言いたい放題。
ちょっとムカッとするけど、近接武器の評価が低いのはゲームの仕様上仕方ない。彼らの意見は間違っていないのだ。怒りを堪えて、腰に手を当てる。
「どいてくんない? ボク、寮に帰りたいんだけど」
「おいおい。同じゾンビハンター同士仲良くやろうぜ。な、お前ら」
「何なら俺がレクチャーしてやってもいいぜ。銃の扱い方とか。ランク5の俺が手取り足取り腰取りな」
「股間のマグナムが火を噴くっすよ! ってか」
下品な冗談に大笑いする男達。あー、
ゲームだとプレイヤーがリアル女性と判断したらストーカー案件になるまで付きまとい、自分のモノだと勘違いする輩だ。こういう輩は運営通報かブロックが基本なんだけど……そういう機能はない。
呆れる僕をよそに、後藤とかいう男とその取巻きは少しずつ距離を詰めてきていた。
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